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『べてるの家の「当事者研究」』

今週の一冊『べてるの家の「当事者研究」』

2740号 2021年8月22日

(本日のお話 2413字/読了時間3分)

■こんにちは。紀藤です。

昨日土曜日は終日研修。
「組織ビジョン」がテーマでした。

ご参加頂きました皆さま、
改めてありがとうございました!



さて、本日のお話です。

毎週日曜日は、お勧めの一冊をご紹介する、
今週の一冊のコーナー。

今週の一冊は、

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『べてるの家の「当事者研究」』

浦河べてるの家(著)



========================

です。

■「べてるの家」。

これは

”北海道浦河町にある
精神障害等をかかえた当事者の地域活動拠点”

です。

そこで暮らす
精神障害等を抱えた当事者にとっては、

・生活共同体
・働く場としての共同体
・ケアの共同体

という性格を有した場でもあります。

(Wikipediaより)

■統合失調症、

境界性人格障害、

PTSD、拒食症。

そんな苦労を抱えた方の
地域活動拠点で行われたことが、

『当事者研究』

というものでした。

■さて、ではこの
「当事者研究」とはなにか?

ざっくり言うと、

統合失調症などの精神障害にまつわる
爆発・幻聴・摂食障害等々を

”本人(当事者)が研究者となり
『自分自身を研究』するプロセス”

なのです。

■その始まりは、
こんなおはなしでした。

以下、本書の序文から
引用させていただきます。

(ここから)
~~~~~~~~~~~~~~~

(当事者研究という活動が始まった)
きっかけは、

統合失調症を抱えながら、
”爆発”を繰り返す
河崎寛くんとの出会いだった。

入院しながら親に寿司の差し入れや
新しいゲームソフトの購入を要求し、

断られたことへの腹いせに
病院の公衆電話を壊して落ち込む彼に、

「一緒に、”河崎寛”とのつきあい方と、
”爆発”の研究をしないか」

と持ちかけた。

「やりたいです!」といった
彼の目の輝きが、今でも忘れられない。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(ここまで)

この誘いを持ちかけられた当事者いわく

「自分を見つめる、とか
反省するといか言うよりも、

『研究』と言うと
なにかワクワクする感じがする。
冒険心がくすぐられる」

とのこと。

■そうして、この「べてるの家」で、

当事者研究が始まり、

様々な”当事者(研究者)”が、
多くの研究を行っているのです。

例えば、本書から
こんな研究結果(!)が紹介されていました。

<”暴走型”体感幻覚の研究
~もう誰にも止められない~>

<くどさの研究
~幻聴さんにジャックされる人・されない人>

<爆発の研究
~「河崎理論」の爆発的発展!~>

<「自己虐待」の研究
~そのメカニズムと自己介入について~>

などなど。

”治療”とか”反省”という
言葉は一切ありません。

だって、研究ですから。

「そういう自分がある」と
「研究」対象として見ていく。

そして自分自身の爆発その他を
「実験サンプル」として、
研究班と共に見つめていきます。

■特徴的なのは、そこに
ユーモアが多分に入っていること。

「幻聴さん」とか
「くどうくどき」など

それぞれの症状に

個性的なニックネームを付けて
”自分とわけて”考えたりもします。

■例えば、こんな研究が
紹介されていました。

<「摂食障害」の研究>。

渡辺瑞穂さんと、
摂食障害研究班の共同研究です。



この研究では、
研究員(摂食障害を皆持っている)が

それぞれ自らの”食べ吐き”の
パターンを紹介しあいます。

そして、

「個別的な部分」と
「共通の部分」を分けて
内容を書き出すのです。

10時間かけアツい議論と
検討を重ねる中で

あえて問いを変えてみます。

「どうしたら摂食障害を作り出せるのか?」

と探求をしました。

■すると見えてきたことがありました。

「摂食障害」という果実を
収穫するためには

以下の条件を整え、
土壌を整える必要がある、と。

・親の顔色を伺い、評価を受けることにこだわる
・人生にできるだけ高い目標を掲げる
・孤独であること、安心の感覚をもたないこと
・気持ちを隠す(偽りの表現を乱発し、相手に安心感を与える)
・社会の風潮や流行に敏感になる
・イメージトレーニング(痩せれば人生が変わるなど)
・弱さを憎む

などなど。

これらの”土壌”を耕すことで

自分が悪い、あきらめ、
無力感、むなしさetc.が育ち

ネガティブ&閉塞的な感情がすくすく育ち
大収穫(摂食障害など)を迎える、

という「研究結果」が得られました。

■その後続く研究で、

”食べ吐きのスキル研究”
(シナリオの作成と実行/演技力)

”この道を極めるために
何が必要であるか”

などを探求し、その過程で
研究員に見えてきたことがありました。

それは、

”「自分の弱さや醜さとのつきあい方」が
不器用である”

ということ。

そうして、
これらのプロセスを歩む中で、

自分を見つめ、
自分を受け入れ、
不思議と元気になっていく、

という作用があった、

とのことでした。

■興味深いのは、

「当事者研究をやればやるほど
なぜだか元気になってくる」

という、

不思議な効果があると
いずれの事例でも紹介していることです。

精神科でも、
その他の療法でも、
改善がなかったこと。

それを「当事者研究」というプロセスで

1)"問い”によって自分自身を見つめ、

2)「どんな時に、どのようなメカニズムで
どのような現象につながるのか?」を研究し

3)そのパターンから「自分の取扱い方を学んでいく」

ことにより、

”自分を乗りこなす方法”

を身につけていくからことで、

結果的に望ましい状態に
近づけられているのだろうな、

と感じたのでした。

■このお話から学ぶこと。

それは、誰もが
何かしら抱えている中で、

”自分自身を研究すること”

の価値です。

人によって、大なり小なり、
色々なクセがあると思います。

例えば、

・ちょっと怒りっぽく
つい感情的になってしまったり、

・強く言われると、つい「YES」と答えて
あとから後悔してしまったり、

・大人数の場で話すと
顔が赤くなって喋れなくなってしまう

、、、等々。

■自分がどんな時に
どういう行動が起こるのか?

自分自身の「当事者研究」を重ねて、
「自分の取り扱い説明書」を作る。

自分をうまく乗りこなすために

とても重要な示唆を与えてくれる
学び深き一冊だと感じました。

お勧めでございます。

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<今週の一冊>

『べてるの家の「当事者研究」』

浦河べてるの家(著)


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