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3079号 2022年7月27日

「上司がナイスなコーチングをすれば、部下は真似してコーチングするのか?」の研究

(本日のお話 3156字/読了時間4分)

■こんにちは。紀藤です。

ここ最近、時間が取れるようになってきたので
ひたすらコーチングに関する論文を読んでおります。

その中で、

『コーチングのパフォーマンス効果
:階層的線形モデリングを用いた多階層分析』
(Ritu et al,2009)

という論文に出会いました。

コーチングネタ、興味ない方スミマセン。。。

そして私自身、タイトルから、
「ちょっと何言っているのかわかんない」と

心の中のサンドイッチマンのツッコミが入りそうでしたが、
読み進めてみると、コレが意外と面白い。

要は、

「部長がコーチングをやっていると
課長はコーチングをやるようになるのか?」

という”階層間の影響”を見てみよう、

という研究です。



きっと組織内でコーチングをやっていらっしゃる皆さまには、
参考になる論文のはず!

ということで、
今日はこの論文の内容について
皆さまに学びをおすそわけさせていただければと思います。

(ちなみに先にお伝えすると
結果は、意外なものになりました、、、)

それではまいりましょう!

タイトルは

【「上司がナイスなコーチングをすれば、部下は真似してコーチングするのか?」の研究】

それでは、どうぞ。

■コーチングは組織内の
様々な範囲で行われるようになりました。

コーチングは部下のパフォーマンスを高める。

これらのことは先行研究でも
様々な言われており、有用性も認められるようになりました。

コーチングの効果や
その手法についても
様々な研究がされていますが、

その中で、

「上司と部下の関係における複数の階層レベルでの
コーチングがどのような影響を与えるのか?」

という研究は、
あまり多くなされていないようす。

■すなわち、組織全体で
コーチングを導入した場合、

・部長→課長をコーチング
・課長→係長をコーチング
・係長→主任をコーチング

というよう複数のレベルにわたり、
コーチングをしたときには、

ある人がコーチングの受け手になることもあれば
実施する側になることになるわけですが、

その時に、上司の行動は部下の行動に
どういう影響を与えるのだろう?

と疑問が残っています。

■まさに、

”親鳥をひな鳥は真似るのか?”

という問い。

上司がやっていることは模倣もしやすい、、、はず。

でもそれは本当だろうか?

調べられていないから
調べてみようじゃないか、

という研究です。

■ちなみに、このことは、

「社会認知理論」の
『モデリング』と呼ばれる理論と関連します
(Bandura,1986)

曰く

「知識やスキルは個人の直接的な経験だけではなく、
他者への観察や模倣を通じて獲得される可能性がある」
(Wood and Bandura,1989)

とのことで、

特に

”肯定的な結果(コレ使える!)”と思うものは、
より実行(模倣)されやすい、

そうです。

ゆえにますます、

「組織の中で従業員のパフォーマンスを高めると
知られているコーチング行動。

上位層がやっていれば、
中間層もすべからくやるようになるはず!」

と思えてきます。

■では、実際のところ、
どうだったのでしょうか?

『コーチングのパフォーマンス効果
:階層的線形モデリングを用いた多階層分析』
(Ritu et al,2009)

で、その問いが明らかにされています。

以下、ざっくりとおまとめいたします。

(ここから)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<研究の手法>

・米国の製造会社において、
コーチングに関する研修を上司に行った

・”コーチング行動の利点”を理解した上で、
3ヶ月経ってから、以下を調査し、統計的処理をした。

<質問紙の内容>

Q,コーチング行動が3つの階層で、どれくらい行われているか
(上級管理職、中間管理職、スタッフ)

Q、それぞれの階層における職務満足度とパフォーマンスはどの程度か?

Q,3つの階層をまたいだ影響はどのようなものがあるのか?

<結果わかったこと>

1,スタッフの職務満足度は、スタッフのパフォーマンスと正の相関がある

2,中間管理職の職務満足度は、中間管理職のパフォーマンスと正の相関がある

3,中間管理職のコーチング強度と、スタッフのパフォーマンスには正の相関がある

4,職務満足度が高い中間管理職/スタッフに対してコーチング強度を高めても、
より良いパフォーマンスに到達するための触媒にはならない

5,上級管理職のコーチング強度は、中間管理職のコーチング強度に”相関がなかった”

6,組織内の階層が厚くなると、部下に与えられる対話内の影響力は低下する。
(つまり上級管理職のコーチング強度と中間管理職のパフォーマンスの関係の強さは
中間管理職のコーチング強度とスタッフのパフォーマンスの関係の強さより弱くなる)

※Ritu Agarwal et al(2009).The performance effects of coaching: a multilevel analysis using hierarchical linear modeling

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(ここまで)

とのこと。

■図がないと、
なんとも説明しづらいのですが、

ここで注目したい結果は、

「5,上級管理職のコーチング強度は、
中間管理職のコーチング強度に”相関がなかった(!)”」

というところ。

え?そうなの。。。
予想とちがうじゃん、、、

ということです。

この研究においては、

”上司の管理職がコーチングをしていても、
部下の管理職がコーチングをするわけではない”

という結論になったのでした。

■このことについて、

さきほど社会認知理論の話などからも、
「意外の結果だった」と研究者も語り、

「なぜ上級管理職がコーチング強度と
中間管理職のコーチング強度は相関がなかったのか」

の理由を以下考察しています。

・上級管理職と中間管理職の場合、責任と仕事の範囲から、
コーチングの頻度は、さほど多くなかった

・つまり上の人は忙しいので、
中間管理職ースタッフのコーチングほど頻度高く行われていない

・模倣される行動とは、”鮮やかに見える行動”であるがゆえ、
中間管理職は上級管理職の行動にさほど影響を受けなかった

とのこと。または

あるいはもしかすると、

・役職が上がると、そもそも
「他者から学ぶ」というモデリングが減るのかもしれない

という視点も語られています。

真相は闇の中、、、ではないですが
いずれにせよ、何が原因はわからず、
より深く研究する余地あり

となっているようです。

■以下、この論文を読んで思った、
私の感想でございます。

個人的には、
今後の自分のプロジェクト研究から、

「とても残念」

でございました(汗)

というのも、

”なぜ上級管理職がコーチング強度と
中間管理職のコーチング強度の相関は「ある」”

と明確に言ってほしかった、
という期待があります。

(そんなの知ったこっちゃない、という話ですが、、、苦笑)

■まさに今進めているプロジェクトで

「上級管理職がコーチングをするから
中間管理職がコーチングをする」

「だから皆さん、コーチングをしましょう!」

このつながりを
理論でも参加者の方に
お伝えそいたかったのでした。

そしてその相関を証明する先行研究を
探していたわけです。

タイトルと考察をみて、
「この論文キタ!」と心待ちにしながら
結論に向かっていきました。

しかしながら、結果は
「相関なし」だったわけです。

悲しきかな、これが現実。

■ただ、ここから学んだことは
2つあります。

まず、

『必ずしも予想通りになるわけではないのが研究』

であること。

だからこそ、面白いし、
深ぼる価値がある、とも思えます。

そう思う、でもそうとは限らないもの。

そして2つ目は、一方

『また別の視点からみると、
「相関がある」とする研究もありうる』

という視点での気づきです。

どの切り口で行うのかによって(研究対象、研究の方法など)
その結果が変わることもある。

これもまた一つの事実です。

ゆえに、視点を広く持ち続けたい、
とも思いました。

■人の心や行動は、なかなか説明がつかず、
掴みどころもないもの。

その中で、先人の知恵を借りて、
巨人の肩に乗りつつ、

少しずつンパクトを残せる確実と思えるピースを揃え、
結果につなげていきたいものだ、

そんなことを思った次第です。

論文の旅はまだまだ続きます。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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<本日の名言>

大事なのは間違いを認めすぐ修正することだ。
修正すると、2回目は1回目より格段に優れたものになることはよくある。

エリック・シュミット

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