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3435号 2023年7月20日

「股間の痛みとリーダーシップ」海岸線の苦行 ~263kmマラソン体験記(3)~

(本日のお話 4255字/読了時間5分)

■こんにちは。紀藤です。

7/15(土)17:00に
弘前公園東門をスタートした
「みちのく津軽ジャーニーラン」。

本日も続けます。

※昨日までのお話はこちら

◯「知らないから楽観的でいられる」 ~263kmマラソン体験記(1)~
https://1lejend.com/b/detail/HSfoIRnMfw/4549662/

◯120kmからが本当のスタート(そして絶望の始まり) ~263kmマラソン体験記(2)
https://1lejend.com/b/detail/HSfoIRnMfw/4550245/

タイトルは

【「股間の痛みとリーダーシップ」海岸線の苦行 ~263kmマラソン体験記(3)~】

それでは、どうぞ。

■7/16(日)。

ジャーニーラン開始から
2日目の昼14時。

ついに、青森県の左側
津軽半島の最北端、

「龍飛岬(120km)」

までやって来ました。

もう、すでにキツい。
足も痛いし、眠い。

、、、なのに、完走経験のある先輩たちは
無慈悲にこう言うのです。

「ここからが(地獄の)
本当の始まりですよ」

と。

■実際、スタートから
”たった21時間”です。

つまり51時間の制限時間の
半分も過ぎていません。
距離も半分にも達していない。

なので、事実、まだまだこれからなのです。

ランニングの恐ろしいところは、
一見元気に見えても、

一度故障してしまうとそこから先、
尋常じゃなく厳しくなることです。

(皮がむける・爪が剥がれる・
関節を痛める・筋を痛める・内臓を痛める、
、、、というのは誰しもに起こりうるリスクです)

そんな”致命的ダメージ”が
忍び寄る足音を感じながら、

一度の休息(1時間の仮眠)
をとったのでした。

■さて、ここから中盤戦のスタート!

なのですが、ここからの道中は
「魔物がいる」と言われていました。

その所以は、

”延々と続く海岸線で
精神と肉体がやられる”

とのこと。

そう、120km~175kmまで
延々と海岸線の道がひたすら続くのです。

途中で日が暮れて、闇になる。

精神面が重要なランニングで
「コースが変わっていく」というのは
意外と大事な要素です。

今回のように、

・ずっと先まで一本道が続く
・それを淡々と走る
・終わりがないように感じる

のは、まさに苦行。。。
精神が削られるのです。

■加えて、2日目は
とはいっても丸1日24時間走り続けています。

各種痛みや、
眠気が強くなってきます。

少なくないランナーが
「幻覚」を見始める。

、、、とはいえ、
走るしかありません。

120kmを前にして「提督」を失い、
4人に減った仲間とともに、
走り始めます。

常に「ゴールは少し先を見る」として
約15km先のチェックポイント、

「三厩体育館(134km)」

を目指します。

■不思議なもので、

たった1時間弱の休憩でも、
足の筋肉は回復をするのです。

走り始めながら、

「ああ、体が軽くなった。
ほんと、人体ってすごいよね」

、、、誰彼ともなく
そのようにつぶやきます。

皆明るい声で、
道中も明るいようでした。

あくまでも”休憩直後”は・・・。

■しかし、2時間も走ると

これまでで一番大きな「睡魔」の波が
襲ってきました。

そう、気づけば24時間、
走り続けているのです。

眠くなって、当然と言えば当然。

走っていて、眠気に襲われると、
どうなるのか?

スピードが急激にダウンし
蛇行運転の車のようにふらつきます。

”眠いのに走り続ける”という
行為に陰鬱とした感情が起こります。

ちょっとしたことで
イライラしてしてきます。

■耐えきれなくなり、

「先に行っててください、一瞬寝ます」

と、仲間に告げる私。

路肩で階段を見つけると、
そこに体を預けます。

時間にして、おおよそ20秒程度。

それでも、一瞬目を閉じて
脳をシャットダウンすると、
少しだけ元気が戻る気がしました。

目を閉じ、20秒。

起きて走って、皆に追いつく。

耐えられなくなったら20秒眠る。

そんな風に眠気を誤魔化しながら
歩みを進めていきました。

■7/16(日)2日目。

夜19:30。
スタートから26時間30分。

日が暮れて、
辺りが一面、闇になりました。

現在、約155km地点。

絶え間なく続く波の音。

浮かんでいる大量の丸い浮き。

あるメンバーは、
「丸い浮きが人間の顔に見えた」
と幻覚体験を語ります。

2日目の夜が、一番ヤバイ。

そう言われた事前の情報が
現実のものとなって現れてきました。

■しかし、このタイミングになって、

私の体は、皆と逆行する形で
少しだけ調子を取り戻したようでした。

バイオリズムは人によって違っており、
ある時元気な人が、ある時元気でなくなったりする。
逆もまた然りです。

それを補い合うことができるのが
チームで走るメリットです。

「電柱ゲームでもやろうか?」

と誰となく言い出し、

仲間の中で、比較的元気だった自分が
ペースメーカーを担う形で前に出ました。

号令をかけて、走り始めます。

「スタート!
あと400m、、、あと300m、、、、
あと200m、、、」 と私。

「あと半分!」

と仲間のヒロポンが
合いの手をかけます。

「あと100m!、、、終了」

そして、皆で100m歩く。

合計500m。
2回やれば1km。
10回やれば、5km。

「もう5km進んだね、めちゃ早いじゃん!」

ヒロポンの言葉に
自分が少しだけ、チームに貢献できた気がしました。

■ふと、大学院で学んだ

「リーダーシップ」とか
「チームワーク」の理論を思い出します。

これまでの道中は、
私は、”ただのり”でした。

すでに完走経験がある仲間に、
戦略や休憩の取り方など、
すべて身を任せてきました。

ただ、なんとなく
貢献できていない申し訳なさも
感じていました。

「リーダーシップ」とは
他者に与える影響力。

チームの目標に向けて、
誰かに影響を与えることが
リーダーシップである。

、、、今回、皆が必要なときに、
必要な立場を取れたことに

一人の戦いと思えそうなこの旅路に
「リーダーシップ」を学んだ気もしました。

あるいは、走る中で

必要に応じて
誰かがタイムキーパーをしたり、
誰かがペースメーカーをしたり
あるいは誰かが積極的に励ましたりして、

共通の目標である完走に向けて
役割に担い合う行為も、まさに
「チームワーク」を象徴しているようだ、、

そんなことも
ぼんやりと考えていました。

走りながら、自然と、

「皆の役に立てているようで
嬉しいよ」

と言っている自分がいました。

■そんな風にチェックポイント

「道の駅たいらだて(160km)」

を目指し、距離を刻んでいきます。

そして、到着。
時刻は20:30。

完全に闇となった道の駅の路上、

雨に濡れた駐車場に、
数名の人が横たわっています。

コンクリートの固く濡れた地面の上に体を横たえて、
少しでも回復させようとしています。

「15分寝よう」。
我々も次の大レストポイント178kmまで
走るためのエネルギーを蓄えることにしました。

■時間はあっという間に経ち、
ムクリと起き上がり、

そろそろ行こうか、、、と

準備をします。

あと18km、補給地点はありません。

ゆえに、道中の栄養補給に、
おむすびを2個もらって
水を補給します。

ちなみに、大事な戦略である
「エネルギー補給」ですが、
1日で走った距離をカロリーで計算すると、

「6200kcal」

と計測されます。

おにぎり1個が170kcalなので
「おにぎり36個分」が必要となります。

もうちょっと言うと、
また基礎代謝1500kcalを含んで、
「おにぎり45個」が必要になります。

そんなに
おにぎりを食べたことがないので
その量もよくわかりません。

しかし、実際はそんなに食べません。
内臓にダメージが出てしまう(消化不良や腹痛など)
のほうが恐ろしいため、

こうしたしっかりした休憩所でも、

・おにぎりを2個、グレープフルーツ2切れ、味噌汁

みたいな簡素な食事で終えます。

不足したエネルギーを
人体は何を持って補うかというと、

”筋肉を溶かして
エネルギーにしている”

そうです。

ふとトイレで体をめくって見ると

ラクダのコブが
砂漠の旅路の最中にしぼんでいくように

私の貧弱な胸筋もどきでペラペラだった体が
更にペラペラになっていたのでした。。。

■道の駅をを出発し、

いよいよ、中盤戦の最終地点
大レストポイント、

「ふるさと体育館(178km)」

に向けて、走り始めます。

このあたりは眠すぎて
記憶が明瞭ではありません。

しかし、一つ明確な記憶は、

「耐え難いほど、
股間が凄まじく痛い」

ことでした。

文字にすると見えづらいですが
1日目は雨、2日目も時折雨。
湿度も高い状況が続いていました。

すると、

”全身の皮膚がふやける”

という影響があります。

擦れやスレが起こり、
水ぶくれもできます。

■すでに私の体は、

右腕に擦れたことによる
無数の疱疹と

両脇腹にシャツが擦れてできた
無数の裂傷のような傷

そしてスレが起こりやすい
お尻と股(デリケートゾーン)が擦れて
体育館でころんだ擦り傷のような箇所が
いくつもできていました。

その傷を携えて、
汗と雨で蒸れながら走ると、
めちゃくちゃ痛いのです。。。

必然的にガニ股で、
カニのように歩くことになります。

■眠気と痛みで
朦朧とし始める中で、

「股擦れでリタイヤは
カッコ悪すぎる」

と思い、

次の休憩所まで粘って
そこで絆創膏やガーゼなど、
できる限りの応急処置をしよう、
そうすればなんとかなる、、、

と思いました。

痛いけど、あと10kmで休憩所、
そうすれば走りきれる、、、

そうして歩みを進めていきました。

4人いた仲間は、
2人が遅れていました。

1人は、私。
股の痛みにより、走るのが
圧倒的に遅くなっていました。

もう1人は、マッキー。
マイペースで走っている彼は、
基本1人で後ろを走っているようでした。

またちょっと前まで
電柱ゲームで励ましていましたが、

疲労で口数も減り、
重たい空気が漂っていました。

■暗闇の中で、

暴力的な睡魔。

そして、股の痛み。

圧倒的な障害に対して
次の休憩所まで走るという
推進させる希望を持ちながら、

歩みを進めました。

そして、大レストポイント

「ふるさと体験館(178km)」

に到着しました。

時刻は、7/17(月)深夜0:30。

開始から約31時間経過。

到着と同時に、
預けていた荷物から
あるだけ絆創膏を集めます。

そしてボランティアの方に、
テーピングを借り、

股擦れをした患部に絆創膏をはって、
そしてテーピングでぐるぐるに巻きました。

傷口が直に触れることはなくなりました。
苦痛が収まったことで、もう少し頑張れる、、、

そんな気持ちになりました。

■食事を済ませ、

体育館のようなところで
50分の仮眠をとることにします。

先についている仲間はすでに眠っています。

あと20時間、
走り続ける必要がある、、、

そう考えると気持ちが折れてしまうので、
そんなことは決して考えません。

あくまでも、目の前の一歩のみ。

2時におきて出発したら、
次は204kmの次のチェックポイントを
目指すのみです。

体は満身創痍になりながら、
「絶対、完走する」という気持ちを
絶やすことはありませんでした。

しかし、疲れは累積し、
睡魔は、より圧倒的なものとなり、
苦痛も、より強大なものとなります。

そんな3日目が、これから始まるのでした。
(つづく)

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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<本日の名言>

強い心で立ち向かっていく人には、
向こうのほうが逃げ出し、降伏するのである。
だから、断じて強気でいかなければならない。

モンテーニュ
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