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4367号 2026年2月8日

今週の一冊『43歳頂点論』

(本日のお話 3413字/読了時間4分)

■こんにちは。紀藤です。

本日参加予定の「さいたまマラソン」が雪のため、
中止となってしまいました。

残念ですが、何よりも長い時間準備をしてきた運営スタッフの方が、辛い決断であったと思います。
来年また走れることを楽しみにしています!



さて、本日のお話です。

毎週日曜日は、最近読んだ本をご紹介する「今週の一冊のコーナー」です。今回の一冊はこちらです。

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『43歳頂点論』

角幡唯介 (著) /新潮新書
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43歳。ちなみに、私は今、43歳です。

なので、このタイトルを見たときに、抗いようもなく、引き寄られ、買ってしまいました。
そして、この本の主張通りとすれば、「私は今が頂点」になってしまいます。

まだ、何も成し遂げていないのに。
まだ、何も残せていないのに。

人生とは「何かを残さなければいけない」という考えは、自己啓発書の読み過ぎかもしれないけれども、それでも今が頂点だとすると、少し寂しい。

一方、確かにこの1年で、急激に歳をとった、という感が拭えないのです。

これまでどちらかというと若く見られていたけれど、年上に見られるようになった。(サブ3プロジェクトによる体重減少の影響もあるかと思われます)。
髪の毛が白いものが混じり始めた、など。

そうした中で、「下り坂」という言葉を、なんだか思い浮かべてしまう、そんな今日この頃なのでした(ランニングの記録は伸びてます笑)。

…と、思いがこもりすぎていて、自分の話ばかりしてしまいましたが、実際に本を読んでみると、「43歳頂点論」というタイトル以上に奥深いものでした。

ということで、早速中身を見てまいりましょう。

それでは、どうぞ。

■本書の概要

本書は、『極地探検家』という、特殊な肩書を持つ著者による持論を展開した一冊です。

極地探検家とは、南極大陸で75日間で犬ぞりで横断する(途中の食料はアザラシなどを狩る)など、生存率7割、死亡率3割というような、生と死の境が溶け合うような冒険に出かける、極めて希少な人(著者)です。

かつても、日本の登山家・冒険家で歴史に名を刻んだクライマーがいました。それらのビッグネームが、ことごとく43歳で命を落としている。
そして、極地冒険家である著者個人としても、43歳という年齢には、積み上がる技術と経験と、低減していく体力がすれ違った感覚を持つと述べます。
そして、「人間の最盛期が43歳である」という持論を展開します。

以下本書の紹介より引用です。

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<本の紹介文>
植村直己、長谷川恒男、星野道夫――名だたる冒険家やクライマーが、なぜか同じ年齢で命を落とす。
背後にあるのは、歳とともに落ちる体力と上がっていく経験値とのギャップ、すなわち「魔の領域」だ。
二十代の頃、「体力の衰えは経験でカバーできる」と語る先達を「心中ひそかにバカにしていた」著者が、五十代を前に「その言葉は衰退の言い訳ではなく真理」だと思い至るまで、極地探検家ならではの圧倒的人間論!
※Amazon本の紹介より引用
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■「生を深めたい」から、死に近づいていく

登山家が、命の危険をとして、山に登り続けるのはなぜか?

友人で、身の危険を晒して登山をする人がいます。

「そこに山があるから」なんて、答えになっているような、なっていないような言葉がありますが、山に魅せられた人は、不思議と登らざるを得ない、山に招かれている、そんな雰囲気を素人ながら感じることがあります。

極地探検家である著者は、その心をニーチェの「権力意志」という言葉を引用しながら説明します。

「権力意志」とは、簡単に言えば”成長して完成を目指そうとする生命原理のこと”であり、生きることの本質は、何かをできるようになることで、達成することにある(いわゆる自己実現の欲求)と述べます。
しかしながら、目標となる山を達成しても、そこには次のさらに大きな山がある。ニーチェによれば「人は権力意志に従い、生きている」のだから、その考えが真として、ピュアに生きるほどに、次の山を目指さざるを得なくなる。つまり、無間地獄であると述べます。

さらに、こう加えます。

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生と死は近接しており、登山や冒険はそのはざまで微妙なバランスを取りながら、生のほうをつかみとろうとするいとなみである。
生を深めようと必死になるほど、自ずと死に近づくことになる。
P110
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「生存7割、死亡3割」という中でこそ、生を実感できる。

しかし、ギリギリで生き残れたという感覚は、まだできたのではないか、という「死の余白」を残している。
そうすると、完成形は「生を追い求め続けた上に、死ぬこと」になる。
生を深めたいと希求するがゆえに、死に近づいていく。

■43歳が、なぜ頂点となるのか

その中で、特に冒険に魅せられた人間にとっては、「生きること」は「人間の肉体と知能をフル稼働する生と死のはざま」に身を置くことに惹かれます。
いくら経験や技術が高まっても「肉体という変数」が低減すると、生存と死亡の均衡が崩れる。かつ、「生きる」ことについて真剣であるがゆえに「死が最終的な完成形」という感覚もあるのかもしれない。

また、冒険に魅せられていないとしても、経験が深まるゆえに、物事の新鮮味がなくなっていく。
それが「書き手」だったとすると、ほとばしる生の衝動に筆が突き動かされて生み出される言葉たちは、粗削りでもエネルギーがあり、人を魅了する。

アーティストもそうで、20代30代だからこそ生み出せる、そうした力強いものがある、そんな例も出しながら、なぜ43歳に向けて上昇していく事例を挙げています。

■「面白いことが書ける」のは未熟である証拠

さて、読みながら、現在43歳ど真ん中の私が、非常に共感した一節を引用させていただきます。

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「面白い文章作品が書けるということは、行為者としてはまだその程度のレベルでしかないということでもある。
行為と表現は反比例の関係にある。行為が未熟であれば面白い表現が可能だが、成熟するとそれが難しくなる」(P19)
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私は極地探検ではなく、安全だけど、一般的には変わっている100kmマラソンを毎年走っています。

そして、その後に、毎回ブログ記事で振り返るのですが、「初チャレンジの記事が、一番魂を感じる」と思えます。

そこには、自分が「はじめての100kmマラソン」として、「行為者」として未熟であるがゆえに、すべてが新鮮で、驚きと不安に満ちていて、だからこそ喜びや達成感の振れ幅も大きく、それが言葉として溢れて仕方なかったわけです。

でも、それを2回3回と繰り返し、10回にもなると「もう普通のこと」であり、「行為者」としては成熟しても、「表現者」としては、面白みがなくなっています。
なぜなら、走っている本人が、痛みにも辛さにも完走の達成感にも順応してしまい「普通のこと」になってしまっているから。その言葉は読み手にも伝わって当然です

だから、また心を震わせる記事を書くには、「263kmマラソン」というチャレンジをして、未踏の場所に足を踏み出すから、面白いものが書けるようになるわけです。
面白い言葉を誰かから借りても、借りものはバレます。心を震わせなければ、面白いものは、書けません。

また、これは以下の文章も共感しました。

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年をとることで文章の切れ味をうしない本のリーダビリティーが落ちても、内容的にはむしろ深まりや味の出る書き手は少なくない、というかそれが普通だと思うし、
中年となり鳴りを潜めていたロックバンドがじつは私の知らないところで活動をつづけ、年齢相応の渋い楽曲を作っていることをラジオで知った、なんてこともあった。
だから売れることと質の深さ、あるいは作品の良し悪しはイコールではないだろうが、それでもやはり売れるということは年齢論的な意味があるように思う。(P77)
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過去が美化されて感じているだけかもしれませんが、これも共感します。

昔の文章のほうが、荒っぽいし、今よりも更に大したことも書けていないですが、リーダービリティ―や切れ味があったような、そんな気もするのでした。

■まとめと感想

「極地探検家」×「記者」という、稀有な体験を言葉にされた本書に惹き込まれて、あっという間に読んでしまいました。

ここで語られているのは、「43歳が頂点だから、そこから先は下り坂だ」とかそうした悲観論ではなく、「生を深めるとはどういうことか」という人生論を語っているのだと感じました。
最近、机上の理論や言葉を借りて、自分で新鮮な体験をすること、ドキドキするようなチャレンジをしていないのかもしれない。そんなことも振り返って思わされる著書でした。

とりあえず、来月の東京マラソンに向けて、インターバル走、10km走などで心肺を追い込むことから逃げないことで「生」を実感しつつ、サブ3を達成するということで「権力意志」を体感したいと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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