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4259号 2025年10月23日

「異動と配置」のGOODとMOTTO ー『人事管理入門』第5章 配置と異動の管理 よりー

(本日のお話 2534字/読了時間4分)

■こんにちは。紀藤です。

昨日は朝から12kmのランニング。
その他、3件のアポイントと、研修プログラムの作成などでした。



さて、本日のお話です。

先日より少しずつ読み解いている『人事管理入門』について、本日も続けてお伝えしたいと思います。

(これまでのお話はこちら)

本日は第五章「配置と異動の管理」のお話です。

日本企業の配置や異動の特徴、そしてその仕組みがどのように社員のキャリアや能力開発に影響しているなどなど⋯。
雇用の流動性が少ないことの課題なども語られる中で、現状を整理できる興味深い章でした。

それでは、さっそく中身を見ていきましょう!

■企業内における「疑似労働市場」の構築

これまでの日本の配置・異動は、企業が人事権を持ち、社員のキャリアのあり方を企業が決定する「会社主導型」が主流でした。

しかし、最近では、社員の仕事に関する希望と企業にとっての人材活用の必要性を調整し、配置・異動を決める「双方調整型」が導入されつつあります。

なぜ、双方調整型が増えてきたのか? それは、「キャリアの自己決定と自己管理を求める社員の増加」と、「キャリアの選択を社員に任せるほうが、仕事への取り組み意欲が高まる」との企業側の判断からです。

そして、この双方調整型の配置・異動の仕組みとして、

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・自己申告制度
・社内公募制度
・社内求職制度
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などが挙げられ、これらによって企業内に疑似的に労働市場が構築されるようになってきたと考えられます。

また、双方調整型の配置・異動では、OJTによる能力開発機会の選択を社員自身に委ねる、という流れもあります。「希望するキャリアを実現するためには、それに必要な能力開発機会を自分で選択し、能力開発を行うこと」が求められる時代になっている、と言えるでしょう。

■自己申告制度の目的と課題

「自己申告制度」とは、社員が仕事やキャリアに関する希望を会社に申し出る仕組みです。

従来は参考程度にしか活用されていませんでしたが、最近は社員の希望に沿った配置や異動を行うために、この制度を積極的に活用する企業が増えています。以下、自己申告制度の目的と利点と、問題点を整理します。

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【自己申告制度の「目的と利点」】
⑴ 仕事やキャリアに関する社員の希望を適切に把握し、希望を活かした配置や異動に繋げる。
(利点:社員に意欲をもって仕事に取り組んでもらう)
⑵ 自分の適性や職業能力、仕事やキャリアについて考える機会を創出する。
(利点:仕事やキャリアについて考える機会となり、希望が明確になり、将来の能力開発目標が自覚できる)
⑶ 上司と部下の間のコミュニケーションが円滑化される。
(利点:上司にとって部下の希望をより適切に把握できる)

【自己申告制度の「問題点」】
⑴ 上司との面談が行われるので、本音を記入しにくい。
⑵ 社員が記入した全てが実現されるわけではないので、希望が実現されない事態が繰り返されると社員が仕事への意欲を減退させたり、自己申告制度を軽視したりすることになりかねない。
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とのことでした。

■配置と異動の実際:初任配置とキャリアの幅

さて、日本の企業は、キャリアの幅の広いジェネラリストが多く、キャリアの幅の狭いスペシャリストは極めて少ないと思われがちですが、実は違う、というのが本書は指摘します。

「現在の職能分野と最長経験職能分野の双方が重なる者が多い」ため、「複数の職能分野を幅広く経験したジェネラリスト的人材は、実は少ない」というのです。

また、初任配置と最長経験職能分野との関係についても記載がありました。

「会社や人事の意向で初任配置が決定し、初任配置の職能分野が、その後にキャリア形成が行われる職能分野になったと感じている者が多い」 という特徴があります。
つまり、「社員のキャリアの幅は初任配置先に属する部分が大きい」ということが言えます。

そして、そもそも初任配置先について、社員本人が発言できる機会は極めて限定的であることから、「だからこそ双方調整型の配置・異動が求められる」という背景があるようです。

■配置と異動の国際比較:日本とドイツとアメリカ

現在の会社における「勤続年数に占める最長経験職能分野の経験年数の比率」を国際比較したデータがありました。
この比率が高いほど、特定職能部門の経験が長いことを意味します。

このデータから、日本は「ほぼ3等分」であることがわかります。

一方、アメリカとドイツは「単一職能型が多く、残りが準単一職能型と複数職能型に二分される」 という傾向が見て取れます。

つまり、どの国もジェネラリストは少ないですが、その中で「日本は相対的にキャリアの幅が広い者が多い」という立ち位置にあるようです。

■配置・異動と能力開発のお話

配置・異動は、能力開発に結びつくことばかりではなく、懸念を生むことがあります。

同じ職能分野内であっても、保有する能力からかけ離れた能力が求められる仕事への異動は、受け入れ職場の負担が大きくなることもある。

異なる職能分野への異動、現在の仕事と関連がほとんどない職場への異動は、それまでに蓄積した能力を発揮できる部分が少なく、人的投資が無駄になることもある。

こうした点を踏まえ、望ましい異動とは、

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・同一職能分野内での異動:仕事の幅を広げたり、レベルの高い仕事を経験できる職場への異動
・異なる職能分野への異動:可能な限り、それまでの職業能力を活かせる職場への異動
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だと結論づけられていました。(ただ、後者については、それって個人の成長の機会という意味ではどうなの?という意見もありました)

■まとめと感想

本書を読みながら人事の方々と意見交換をしたのですが、印象的だったのは「自己申告制度と社内異動」のリアルな課題でした。

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・10年以上希望を出しても通らず、諦め感が漂う社員も多い
・説明がないまま希望が却下されると、制度が形骸化する
・上司が人手不足を理由に部下の異動を拒むケースもある
・転勤を伴う異動が社会問題化しており、学生も転勤を望まない傾向
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また、経済成長の鈍化により、内部労働市場を維持できなくなりつつあるかも、とか、
企業は生産性維持のため、過去のスキルを活かせる異動を望む傾向があるものの、それは個人の成長やイノベーションに繋がらないよね、などなど。

異動や配置は、本来「人を成長させるチャンス」であるものの、
それを「待つ」だけではなく、「取りに行く」時代に変わりつつあるのかも知れない、そんなことを思ったのでした。

というわけで、副業や越境学習など、社外の経験を自ら選び取る姿勢がますます重要になっていくのかもしれません。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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