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『一瞬の夏』

今週の一冊『一瞬の夏』

2663号 2021年6月6日

(本日のお話 2256字/読了時間3分)

■こんにちは。紀藤です。

昨日土曜日は
朝から夕方まで大学院の授業でした。

またその後打ち合わせ、
その後研修の準備などでした。

大学院でまみれておりますが、
学びになる授業も続々始まって
楽しい毎日でございます。

がんばります!



さて、本日の話です。

毎週日曜日は、お勧めの一冊をご紹介する
今週の一冊のコーナー。

今週の一冊は

===========================

『一瞬の夏』(上下)(新潮文庫)

沢木耕太郎(著)


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です。

■先日、勉強会仲間の
友人とランチをした際に、

「沢木耕太郎の処女作から
最新刊まで全部読み通している、

今、沢木幸太郎の書籍を読んでいるが、
著作を通じてどのように心が変化していくのか

これがとんでもなく面白い!」

とアツく語っていました。

沢木幸太郎を50冊くらい
読み続けていたとのことですが

これだけ読めば、

”ある1人の作者の人生を追体験した”

といっても
過言ではなさそうです。

いやはや、羨ましい限り。

■そんな中で、オススメされたのが

今回ご紹介の『一瞬の夏』でした。

沢木幸太郎と言えば
『深夜特急』が有名ですね。

私事ですが、大学の時
タイやカンボジアを一人旅したことがありましたが、

その界隈でもバイブル化されており、
私も読んだ記憶があります。

■そんな沢木幸太郎が、

悲運のボクサー・カシアス内藤と
共に歩んだ軌跡を

取材者であり、応援者であり、
スポンサーを絡めた自分自身も絡めて描く、

「私ノンフィクション」

と呼ぶ方法論に挑んだ作品が
『一瞬の夏』であるとのこと。

(Wikipediaより)

■ちなみに、この書籍のエピソードは
以下のように紹介されています。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

強打をうたわれた元東洋ミドル級王者カシアス内藤。

当時駆けだしのルポライターだった“私”は、
彼の選手生命の無残な終りを見た。

その彼が、四年ぶりに再起する。

再び栄光を夢みる元チャンピオン、
手を貸す老トレーナー、見守る若きカメラマン、
そしてプロモーターとして関わる“私”。

一度は挫折した悲運のボクサーのカムバックに、
男たちは夢を託し、人生を賭けた。

※Amazon本の紹介より引用

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

■1人のボクサーのチャレンジを

”私(沢木耕太郎自身)”の目線で

カシアス内藤自身、
そしてトレーナー、
カメラマン、妻、ボクシング業界…

描いていくノンフィクション。

読み始めたらなぜだか
止まらなくなってしまい

体も疲れているのに、
深夜まで読んでしまいました。

■その魅力が一体何だったのか。

と考えてみると、

言葉にすると非常に
安っぽくなってしまうのですが、

「沢木耕太郎自身が、
人生を賭けて共に歩んだ」

ということ、

つまり、ただの取材者ではなく
自分の貯金も、時間も、気持ちも注いだ

”取材者であり当事者である本人”

が描いたからこそ見えてくる世界が、
心を掴んで離さなくしているのでは、

などと思ったのでした。

■作品を通じて、ずっと存在している

儚い感じや、
どこか物悲しい雰囲気も、

期待と不安が入り混じったような
言い回しも、

また登場人物の日常を見る視点と
それを描く表現も、

妙に”リアル”で、
止まらなくなってしまったのでした。

(私の貧困な語彙では
表現ができなくて口惜しいですが…
詳細は読んでみてください)

■正直なところ、

カシアス内藤のエピソードが
サクセスストーリーかというと
そうでは無いのです。

夜に名を轟かせたような
すごいボクサーと言うわけでもない。

諦めたくない思いがありつつも
日々のお金に困る。

ボクシングの興行的な裏事情で翻弄され、
沢木耕太郎自身が私財をはたき、
彼を支援していく。

■映画のサクセスストーリーのようには進まず、

華々しい勝利や
努力をした結果が実感動的な瞬間が
あるわけではない中で、

でも、登場している一人ひとりの
”心の襞”が沢木耕太郎自身のものも含めて
染み入るように伝わってきます。

沢木幸太郎のレンズを通した

人生の物語が、何とも惹きつけられて
たまらないと思ったのでした。

■この小説を読んで、

ドイツの哲学者の
ショーペンハウアーが語った、
こんな言葉を思い出しました。

(ここから)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

”ひとりひとりが生きる世界は、

何よりもまず、その人が世界をどう把握しているかに左右され、
それゆえ、頭脳の相違に応じたものとなる。

頭脳次第で、世界は貧弱で味気なく
つまらぬものにもなれば、

豊かで興味深く意義深いものにもなる。

たとえば多くの人々は
他人の身に起こった面白い出来事ゆえに
他人をうらやむが、

むしろ描き出すことで
その出来事に意義深さを与えた、

その把握の才ゆえにうらやむべきであろう”

※ショーペンハウアー『幸福について』より
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(ここまで)

■小説を読んでいなかったですが

今回『一瞬の夏』を読んで思ったのが

”描き出すことでその出来事に
意義深さを与えた把握の才”

の大切さを思わされたように感じています。

毎日事件が起こるわけでもないし、
毎日何か大きな変化があるわけでもない。

それでも、日々の中にある何気ない風景を
豊かなレンズで見ることができたら、
日々もっと豊かになっていくのだろうな、

と思います。

芸人の「すべらない話」も、

面白い事が起こるのではなく
そういったメガネをもっていることこそが、
素晴らしいことだし、そうありたいな、

などと思った次第。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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<今週の一冊>

『一瞬の夏』(新潮文庫)

沢木耕太郎(著)


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