メールマガジン バックナンバー

『海をあげる』

今週の一冊『海をあげる』

2824号 2021年11月14日

(本日のお話 1862字/読了時間3分半)


■こんにちは。紀藤です。



先日は土曜日に大学院がなかったので、
家族で近くの公園にいき、シートをひいて
本を読んだり、芝生で子供を遊ばせたりしておりました。

こういった時間、大事だなあ、
としみじみ思った次第。




さて、毎週日曜日は、お勧めの一冊をご紹介する
「今週の一冊」のコーナー。

早速参りたいと思います!


今週の一冊は、

==========================

『海をあげる』
上間陽子(著)



==========================

です。



■何気なく開いたSNSで
面白かったとお勧めされていました。

何気なく手にとったところ、

「Yahooニュース!本屋大賞2021
 ノンフィクション本大賞受賞」
 
という冠があり、

何気なく手にとって見たのが、
今回の一冊です。



■ただ、正直なところ、

メルマガではなかなか
コメントを書きづらい、、、と
思ってしまいました。


というのも、

著者の人生を捧げて、
社会の問題と自らを重ねて、

その中での弱さや脆さも含めて
見事な筆致でその怒りや絶望、
葛藤なども含めて書かれた本について

良かった点、印象に残った点のように、
批評するような言葉を記すことは、

どう転んでも稚拙な表現にしか
なりえないと感じてしまったから、

なのかもしれません。


静かなのに、
迫力を感じる言葉と、

著者の真っ直ぐで
ずるさがない言葉たちに、

自分を問われたように、
私は感じました。



■さて、こちらの本ですが、

沖縄にて、幼い娘と生活をしつつ、

琉球大学教育学研究科の教授であり、
沖縄で未成年の少女たちの支援・調査に関わる中で、

沖縄の性暴力に関しても
多くの著作を書かれている、

著者の上間陽子さんの経験から描かれる
エッセイ集です。



殆どの方が耳にされたことがあるであろう、

・沖縄普天間基地の問題

・辺野古の埋め立て問題

・性暴力の問題

・それにまつわる家族や
 共同体のあり方
 
について、

当事者からのインタビューを重ね
たしかに起こっている現実を
世の中に伝える活動をしています。


そして、問題から目をそむけないように
ご自身も爆音が響く普天間基地のそばに住み、
幼い娘と生活をされています。



■上記の問題も、

新聞記事のようニュースのように
取り上げられている時は、

文字情報のように、
脳内を素通りしてしまう感覚が、

時にしてしまいます。


しかし、今回のエッセイ集では、

何気ない母娘の幸せな日常を
覗き見をするような興味深さの中に、

確かに紛れ込んでいる
上記の問題に関する悲しさ・怒りを
感じさせられます。


それは、著者が
色彩豊かに描き出す言葉の力を持ち
それを生み出す感性を通じて、

私達にその感覚の一端を
疑似体験させてくれるからこそ、

その問題が確かに”そこにあるもの”として
少しだけ感じさせてくれるのでした。



■では、どうすればよいのか、、、
というと何も答えはわからないのですが、

知らないものとして
無関心でいることは恥ずかしいことにように感じましたし、

そのような世間の問題の多くについて
未知でいる自分も社会の担い手の1員として、
どうなのだろうか、

と私は思いました。



■読んでみて


・人を信じること、

・自分の信念に従って生きること

・問題から目を背けない強さ、

・より大きなものを見るあり方、


など、

自分のあこがれや、
そう至っていない自分の未熟さを含めて、
考えさせられた次第です。

きっと読まれた方、一人ひとりに
違った感動や気づきがあるかと思います。


(以下、著書の紹介です)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「半分つぶされた虫のように、地面の上をのたうちまわるような打撃をうけた人々には、
自分の身に起ったことを表現する言葉がない」
――シモーヌ・ヴェイユ 「神への愛と不幸」(渡辺秀=訳)より

着替えを済ませた娘は私のお布団に移ってきて、「まだ夜? 朝来た?」と尋ねてくる。
「まだ真夜中だから眠ってね。かーちゃん、今日は辺野古に行く」と言うと、
「風花も一緒に行く」と娘が言う。

「今日は、海に土や砂をいれる日だから、みんなとっても怒っているし、
ケーサツも怖いかもしれない」と言うと、娘はあっさり、「じゃあ、保育園に行く」と言う。

暗闇のなかで、娘は私に「海に土をいれたら、魚は死む?ヤドカリは死む?」と尋ねてくる。
「そう、みんな死ぬよ。だから今日はケーサツも怖いかもしれない」
娘の髪をなでながら、ついに一二月一四日が来てしまったと目を閉じる。
(「アリエルの王国」より)

私はたぶん朝をはじめる前に、
どこかで一度、泣いておけばよかったのだ――。

沖縄の生活を、幼い娘のかたわらで、強く、静かに描いた傑作!

【目次】
美味しいごはん
ふたりの花泥棒
きれいな水
ひとりで生きる
波の音やら海の音
優しいひと
三月の子ども
私の花
何も響かない
空を駆ける
アリエルの王国
海をあげる

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

詳しくは、ぜひ読んでみてください。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。
本日も皆さまにとって、素晴らしい1日となりますように。


==========================
<今週の一冊>

『海をあげる』

上間陽子(著)



==========================

365日日刊。学びと挑戦をするみなさまに、背中を押すメルマガお届け中。

  • 人材育成に関する情報
  • 参考になる本のご紹介
  • 人事交流会などのイベント案内

メルマガを登録する

キーワードから探す
カテゴリーから探す
配信月から探す