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3284号 2023年2月19日

今週の一冊『覚醒せよ、わが身体。─トライアスリートのエスノグラフィー』

(本日のお話 2758字/読了時間3分)

■おはようございます。紀藤です。

昨日は月に1度のピアノのレッスン。
その他、アポイント1件と、
また夜は大学院の仲間との懇親会への参加でした。

自分の以外の期の方とお話ができて
実に楽しい時間でした。



さて、本日のお話です。

毎週日曜日は、お勧めの一冊をご紹介する
「今週の一冊」のコーナー。

今週の一冊は

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『覚醒せよ、わが身体。─トライアスリートのエスノグラフィー』

八田 益之 (著), 田中 研之輔 (著)/ハーベスト社


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です。

■マラソン、トライアスロン、

そういった競技に参加する人は
何をモチベーションに、
何を求めて参加するのか?

なぜ、人は、わざわざ辛い
耐久スポーツに打ち込むのか?

そして、その代表的なものの一つが

「トライアスロン」

ではないかと思います。

■今回ご紹介する一冊は、

”トライアスリートの
エスノグラフィー”

と副題があります。

エスノグラフィーの意味は
以下のように解説されています。

”ギリシア語のethnos(民族)、graphein(記述)から来た英語で、
民族学、文化人類学などで使われている中心的な研究手法。
フィールドワークによって行動観察をし、その記録を残すこと”

※DENTSU MAROMILL INSIGHT 定性調査エスノグラフィーより

とのこと。

特徴は

・自分がその世界に飛び込んで
自らを使いながら調査をする

ことで、

・表面では見えない、
インタビューだけでは出て来ない、
新しい気付きが得られる手法

といわれます。

■そんな、泥臭い(?)質的調査を

今回の著者の八田氏は
トライアスロンという耐久競技で
この著書で示されています。

結論からお伝えすると、
めちゃくちゃ面白いです。。。

読み始めてから
一気に読み通してしまいました。

この一冊を読めば、
(特に最初の1/3ほど読めば)

「何が人を耐久競技に駆り立てるのか」

について、
理論な知識に基づいた考察と、
著者実体験からリアルに想像が膨らみます。

特に、著者自身の体験から、

・トライアスロンに駆り立てるときに
自らの内面にどのような変化が起こっていたのか?

・トライアスロンで肉体を追い込む時
自らの身体にどんな変化が起きていったのか?

この表現については、

その「言語化の秀逸さ」に
ただ唸らされます。

巧さよりも
肉体を追い込んだがゆえに感じさせられる
命の燃焼というか、煌めきのような美しさを
言葉の端々から感じさせられるのです。

■著書の内容については

以下の紹介文を引用させていただくのが
わかりやすいかと思います。

(ここから)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

本書の魅力は、

トライアスロンという過酷なスポーツに打ち込む
アスリートの極限状態の言語化に成功している点だ。

年代別国内チャンピオンである著者が、
自身の身体をキャンバスに、
覚醒する身体の諸相を見事なまでに解剖している。

トライアスリートとして日常をマネジメントし、
身体を徹底的に磨き上げていく。

最終章では聖地コナの死闘が明らかにされる。
身体の神秘に迫った国内初のエスノグラフィーだといえるだろう。

さあ、覚醒せよ。

法政大学准教授 田中研之輔



市民トライアスロンには、
欧米など先進国に共通する現代社会の姿が映し出されています。

そこに参加するということは、
社会的なものの対極にある「身体」という
最も個人的なものの本質にめざめてゆく過程です。

これら現象をあるがままにとらえることが、本書のテーマです。

第一章では市民トライアスリートへのインタビューを中心に
客観的に全体像を描いています。

二章以降は個人の視点を徹底し、
39歳から42歳まで国内エイジランキング王者を4年続けた
筆者自身の主観的世界を描き出すことにより、
そのリアルへと迫っています。

エスノグラファー 市民トライアスリート
(日本トライアスロン連合エイジランキング2011,2012,2013,2014年王者) 八田益之

※Amazon本のレビューより引用
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(ここまで)

■情報だけで伝えれば

トライアスロンを始め、続けるのは
著書の中では以下のような区分をしています。

まず、多くの場合、

「最初のきっかけ」は
多くの場合「知人からの誘い」だそう。
何か楽しそう、から始まります。

そして、以下の2つが
トライアスロンをする大きな動機、
として紹介されています。

1)外発的動機

・トライアスロン以外の目的のために
トライアスロンを手段として使う

(例:健康、友人関係、成長感、目標達成など)

2)内発的動機

・トライアスロンのために
トライアスロンをする。

(例:自己への挑戦、充実感など)

実際の書籍では、もっと細かい分類と、
またインタビューデータなどで
リアルな話が紹介されていますが、
大雑把にはこんなイメージ。

■そしてその中で、

・悦びの共有
・達成の循環

などが起こっていく、
としています。

しかし、なぜわざわざ、
これらのことを耐久スポーツに求めるかについて

それは時代背景からも
考察をしています。

「後期近代社会」と呼ばれる、
宗教や文化などの伝統的な枠組みによって
支配された社会ではなくなった現代。

そこでは、

”「特別な自分」で
あり続けなければならないというプレッシャー”
(ベッグ、ギデンズ、ラッシュ, 1994-1997)

があるといいます。

・「なりたい自分像」を決めて、努力しながら
「自分はこれでいいのか」と反省的に問い続ける。

・達成したら再び自己像を検討し、
新たな自己像に向けた努力を開始する。

・そして目標へと立ち返る循環性が生まれる。

これを『再帰性』とよび
現代の特徴の一つ、としました。

実際に、学校でも会社でも
目標を持つこと、自分で選ぶこと
という無言の圧力があるというのが
それを象徴しています。

■しかし、

目標を達成しても、
その達成感を得られることは
必ずしもあるわけではなく、

達成しても次の目標がでてくるので
「心理的欠落感」があるような状況が
ある意味続くわけです。

その中で、
そんな「欠落感」に対して

<努力の有用性>

を感じさせてくれるのが
これらのトライアスロンである、

というのでした。

すなわち、努力したことが
必ず結果として返ってくる。

そしてそれは純粋な肉体としての感覚で
体験することができる、

だからこそ、
その魅力に取りつかれる人がいる、
といいます。

■この魅力の詳細は、

ぜひ著書をお読みいただけると
解像度高く理解することが
できるはずです。

私(紀藤)も

トライアスロン
(スイム1.5キロ、バイク90キロ、ラン20キロ)や

ウルトラマラソン
(100キロ、177キロ)

などに好き好んで
参加をしている人間ではありますが、
読みながら

「そうそう!そういうことなのよ!」

と膝を打つと同時に、

「いやー、こういう表現で
書き表されると感動しかないよ」

と感嘆してしまう本でした。

耐久スポーツが好きな方はもとより、
興味がある方も手にとっていただきたい一冊でした。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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<今週の一冊>

『覚醒せよ、わが身体。─トライアスリートのエスノグラフィー』

八田 益之 (著), 田中 研之輔 (著)/ハーベスト社


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