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3615号 2024年1月18日

「強みを見つける方法」を整理したら、こうなりました ~書籍『ストレングスベースのリーダーシップコーチング』(6)

(本日のお話 6059字/読了時間8分)

■こんにちは。紀藤です。

さて、本日のお話です。

本日も前回に引き続き「ストレングスベースのリーダーシップ・コーチング」をテーマにした書籍を紹介いたします。

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<今回ご紹介の文献>
『Strength-Based Leadership Coaching in Organizations:An Evidence-Based Guide to Positive Leadership Development』
(組織におけるストレングス・ベースのリーダーシップ・コーチング:ポジティブなリーダーシップ開発のためのエビデンスに基づくガイド)_第4章より
Doug MacKie (2016)
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■第4章:強みの特定と評価
さて、「ストレングス・リーダーシップ」に関するこの書籍において、いよいよ本丸の「強みの特定方法」について説明をしているのが、本章となります。それでは早速参りましょう!

◯「強み」を特定するための2つの観点
強みを特定することは、ストレングスベースのコーチングにおいて、大変重要なパートです。しかし、「強み」には変わりやすい「状態」から安定した「特性」まで、また性格特性を「領域」にわけたものから能力や技術に関わる「コンピテンシー」まで、実に様々な分類があります。そして、強みを特定するための質問表(例:ストレングス・ファインダー、VIA他)も多数存在しています。

その中で、どんなデータを利用するのか、そのデータはどれくらい信頼できるか、などを含めてストレングスベースのコーチングに影響を与えるため、注意して見ていく必要があります。では、どのような着眼点でデータを選べばよいのでしょうか? 以下、2つの観点が挙げられていました。

●観点1:「自己評価」か「他者評価」か
まず注意点の1つ目は、“自己報告データ”の場合、信頼性が低下します。なぜならば、自分へのバイアスがあるから。つまり、自分で見た自分像(内面的自己認識)と他者からみた自分像(外面的自己認識)は違うということです。
例えば、下位4分の1の成績であると評価された人は、自己評価のギャップが最も大きくなるという実験があります(ダニング・クルーガー効果)。また、寛大さバイアス、確証バイアスなどによって、自己評価は歪み、自己報告データも歪む傾向があります。
”他者報告データ”を取ること、つまり同僚や直属の上司からの視点でのフィードバックを取り、それらとの整合性を見ることは強みのデータを見る上でも信頼性を高めることになります。よって、ストレングスベースのアプローチでは、マルチソースフィードバック(多数の評価者からのフィードバック)の活用がお勧めとしています。「誰に聞いたデータなのか」を見ることで、強みに関するデータの信頼性を、判断することができます。(後ほど詳しく解説します)

●観点2)「アセスメント」か「インタビュー」か
次に、強みを調査する方法です。こちらは大きく2種類あります。
まず、”質問紙を使ったアセスメント”では、構造化された心理測定の形式を持っており、信頼性と妥当性がある“質問表”で強みのトップ3~5を明らかにするものが代表的です(定量データで測定)。
次に、“構造化インタビュー”の手法です。これは個人が最高のパフォーマンスを発揮しているときの強みを明らかにする方法(定性データで測定)です。この定量と定性の2つの方法論は相互に補完し合っているのでどちらも複合的に行うことがよいとされています。

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■「自己評価」の強みのアセスメント
さて、強みの特定方法で代表的なものが「自己評価式の心理測定の質問表」です。しかし、これらのものは比較的新しいものであること、また強みの構成要素の性質について、それぞれのアプローチごとに違っているため、比較することはとても難しいものです。それらを踏まえた上で、どれを活用するのかを考慮することが必要です。以下それぞれの、自己評価式のアセスメントの特徴をまとめています。

◯ストレングス・ファインダー2.0(Gallup社)
・「才能に努力をかけたものが強みになる」という、特性論と環境論の両方の視点を強みと考える概念に基づいている。
・リーダーシップの4つの領域、実行力、影響力、関係構築力、戦略的思考力の観点で結果を記述している。
・リーダーシップ特性と、いくつかの個人的な強みには相関関係がある。(ビック5の良心性と、強みの規律性の相関など)
・研究がギャラップ社内であるため、参照データが少ないが、公開されているテクニカルレポート2007によると、信頼性スコア(テスト・リテスト)は、0.59~0.72である。(0.7以上が高い)

◯VIA(バリューズ・イン・アクション)
・性格の強さを評価・測定するためのモデルを開発した(Peterson,2010)。
・世界で影響力のある哲学的・宗教的な文献から、強みの6つの領域(知恵、勇気、人間性、正義、節制、調節)を特定した。それらを個人が充足感を得るために24の特徴的な強みに分類した。
・性格特性を因子としているため、ビック5(性格診断の最も有名なもの)のモデルに近いことを示唆する証拠がある。

◯Strength Profile
・「強みの開発分野」と「相対的な弱点」を評価に含めることで、強みの評価プロセスに幅広いアプローチを撮っている。
・60の強みの属性(好奇心、信頼性、行動力など)について、「どれくらい使っていて元気になるか(エネルギー)」、「どれくらい有能であるか(パフォーマンス)」、「どれくらい頻繁に使っているか(使用)」を評価する。
・そして、1)実現した強み、2)未実現の強み、3)学習した行動、4)弱みの4つに分類される(Linley ea al,Stoker,2012)
・信頼性スコアは0.82であり、VIA、ストレングスファインダーに比べて高い。

◯ストレングス・スコープ
・思考、感情、関係性、実行の4つの領域にマッピングされた24の強みリストについて個人を評価する。
・ストレングスファインダーと同様に、職場での行動に焦点を当てており、リーダーシップに関連する強みをフィードバックする。
・信頼性と妥当性については公開されたデータがなく、結論を出すことはできない

◯スタンドアウト
・ストレングス・ファインダーの開発にも携わったマーカス・バッキンガムによって開発された(Buckingham_2011)。
・18の才能を使って、6つの職種におけるパフォーマンスを予測するというもの。
・リーダー、マネジャー、プロフェッショナル、セールス、サービス、サポートの6つの職種におけるパフォーマンスを予測する。
・18の才能は、9つの強みの役割にマッピングされる。
・信頼性は0.64~0.93、妥当性についてのデータは報告されていない。

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■「他者の”アセスメント”」から強みを理解する
次に、「他者の視点から強みを見つける方法」です。マルチソースフィードバック(多数の評価者からのフィードバック)と呼びます。手法としては「アセスメント」と「インタビュー」の2種類があります。

◯マルチソースフィードバックとはなにか
平たく言えば「複数の人にその人について質問をする、360°評価のようなもの」です。このマルチソースフィードバックを活用すると、自己評価の信頼度の低さを調整し、個人の強みに対する認識を高めることができます。

理由としては、自己評価にはポジティブバイアスがかかりやすいからです。そこに、他の評価者を加えることで、評価の予測妥当性が向上するとされています。(ちなみに「群衆の知恵」という概念に基づいていて、個人のバイアスを排除し、より正確な現状を理解することができるそう)

◯マルチソースフィードバックの効果とは
マルチソースフィードバックは非常に効果的であることが証明されています。現在ではそれ自体が介入とみなされているが、コーチングと組み合わされることも多いものです。特にリーダーシップ行動については他者からの認識が重要であるとされます。

◯マルチソースフィードバックの傾向とは
ちなみに、マルチソースフィードバックでは、いくつかの傾向があることがわかっています。たとえばこのようなものです。

・上司は業績基準を重視する傾向があり、直属の部下は関係性の側面から評価する傾向がある。
・他者と比較して自分のパフォーマンスを「過大評価」している場合、再度行うと、自分の評価を再調整してスコアが下がる傾向がある。
・逆に「過小評価」している場合、“自信のなさ”と“基準の高さ”の現れであり、コーチはこのズレを減らす手助けをすることが求められる。

余談ですが、昔の職場で、このマルチソースフィードバックを20代前半に行いました。そのとき、自分を「過大評価」しすぎて、研修で非常に苦しんだ経験がありました(なんで他者は低いのに、あなたはこんなに高い評価つけてるの?裸の王様だね!みたいに言われた記憶が・・・汗)。
その苦い経験をしてからというもの、この類のものは、ちょっと謙虚に(過小評価ぎみに)つけるようになりました。おそらくそういった方も、私以外にもいるかも…と思いました。それくらいインパクトが強いとも言えるかもしれません。

以下、マルチフィードバックのいくつかの種類が解説されていました。少し多いですが、並べてみたいと思います。

◯多因子リーダーシップ質問表(MLQ360)
●特徴:「変革型リーダーシップ」「取引型リーダーシップ」「受動的・回避的リーダーシップ」の3つのカテゴリーに分けられている。
●強み:MLQはリーダーシップの効果的な要素から、機能していない要素まで、強みと弱みの両方を網羅的に理解できるのがよいところ。
●その他:信頼度が高いリーダーシップの質問表として幅広く利用されている(Bass and Avolio,1997)。

◯リーダーシップ・バーサタイル・インデックス(LVI)
●特徴:「強みを発揮しすぎても、しなさすぎてもパフォーマンスに影響がある」という信念に基づいた質問表。2つの領域、「力を発揮できる領域」「戦略的に運用する領域」を特定できる。
●強み:評価者が「使いすぎ」「使い足りない」「まあまあ」で評価できる
●その他:リーダーシップ理論とは上手く整合されていない(Kaiser,Lindberg and Craig,2007)。

◯ロミンジャーの声360
●特徴:国際的非営利の教育機関CCL(Crenter for Creative Leadership)の研究から生まれた。67のコンピテンシーと19のキャリアを推進する/抑制するものについて評価。
●強み:コンピテンシーの重要性を伝えること、過剰使用の可能性を伝えられるところ
●その他:コンピテンシーは「戦略」「業務」「勇気」「エネルギーと意欲」「組織のポジショニング・スキル」「個人と対人関係のスキル」の6つの要素から成り立つ(Dai and De Meuse,2007)

◯ストレングススコープ360
●特徴:「具体的な強みに関するアンケート」を360度評価で行うもの。

◯オーセンティック・リーダーシップ質問表(ALQ)
●特徴:自己評価と他者評価の両面で実施ができる。質問の構成要素は「関係の透明性」「バランスのとれた処理」「自己認識」「内面化された道徳観」。ALSの4つの次元と整合している。(Walumbwa et al,2008)

◯リーダーシップ・プラクティス・インベントリ
●特徴:リーダの実践に焦点を当てた変革型リーダーシップの指標として開発。5つのコア要素として「道を示す」「ビジョンを共有する」「プロセスに挑戦する」「他者の行動を可能にする」「心を励ます」からなる。(Poser and Kouzes,1993)

などが紹介されてました。

***

■「他者への”インタビュー」から強みを理解する
次に他者への構造化されたインタビューを通じて、自らの強みを明らかにする方法です。こちらは「ハイポイント・インタビュー」と「フィードフォワード・インタビュー」の2つが紹介されていました。以下、ご紹介いたします。

◯ハイポイント・インタビュー
・「リーダーが仕事で最高の状態にあったとき、その背景は何だったのか?、その最高のパフォーマンスを支える具体的な強みな何だったのか?」について半構造化インタビュー(いくつかの決まった質問&自由質問)を行うもの。
・そのことで、その人の「強みに関連した物語」が理解できて、『強みがどのような場面で、どのように活用されているのか』『本人や周囲の人の強みをどのように補完しているのか』を抽出することできる。

◯フィードフォワード・インタビュー
・AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー=価値を認める質問)という、ポジティブ心理学のアプローチの原則に基づいた半構造化インタビュー(Kluger and Nir,2006)。
・やり方は、これまでにあった「大切なポジティブな出来事」を聞き出し、その「出来事の成功にまつわる条件(強み)」を明らかにする。そして、特定された強みを実行するための「将来の計画」を明確にする。
・着目すべきところは、標準的なフィードバックをされた人と比べて、このフィードフォワードインタビューに参加した人は、目標を達成する可能性が有意に高いことである。(McDowall,Freeeman and Marshall, 2014)

***

■まとめと結論
本章では、強みの評価尺度は、まだ開発途中ではあるものの、ストレングスベースのコーチングに価値を与えているとし、その理由は3点挙げていました。

<強みの特定と評価が価値をもたらす理由>
1)「自分の強み」がどこにあるのか本人が意識できる
2)「自分の強み」を効果的に活用できているか確認する指標となる
3)ストレングスベースのコーチングにおいて、強みを活用するための言語とフレームを提供する

そして、強みの定義、評価方法、差別的妥当性などについては、コンセンサスが得られていませんが、強みに基づくアプローチを取り組む上で妨げとなるものではないとし、活用を勧めています。
具体的な活用方法としては、ここまで述べたような様々な評価手法、

1)「強みの自己評価(ストレングス・ファインダー、VIAなど)」
2)「強みの他者評価(マルチソースフィードバック/MLQなど)」
3)「強みのインタビュー(ハイポイントインタビューなど)」を組み合わせて使うことが望ましい

としています。

そうして信頼性高く強みを特定することによって、意図的に強みを活用することができ、職場でも強みについての会話を促すことになるであろうとのことでした。

改めて、ストレングス・ファインダーなどのアセスメントだけ行うのではなく、インタビューや他者評価なども含めて実施をすることが「強みの特定」の上で重要であることを理解した章でした。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

※本日のメルマガは「note」にも、図表付きでより詳しく掲載しています。
よろしければぜひご覧ください。
<noteの記事はこちら>

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<本日の名言>

カエルを二匹飲み込まなければいけないときは、
大きい方から飲み込むこと。
それと、あまり長いあいだ見つめないことだ。

マーク・トウェイン
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