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3618号 2024年1月21日

今週の一冊『組織が変われない3つの理由 「元気」と「成果」を同時に実現する組織のつくりかた』

(本日のお話 3849字/読了時間4分)

■こんにちは。紀藤です。

昨日は子供と電車でおでかけでした。
最近は3歳を目前に「泣き叫ぶ」を覚え始めたので、
なかなか大変になってきております。

自我がすくすくと成長しているのを感じる今日この頃。



さて、本日のお話です。
さて、本日は最近読んだ本の中からおすすめの一冊をご紹介させていただきます。

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<今週の一冊>

『組織が変われない3つの理由 「元気」と「成果」を同時に実現する組織のつくりかた』
西田 徹 (著), 山碕 学 (著), 松村 憲 (監修)

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■組織が変われない3つの理由

さて、本書のタイトルにもなっている、組織が変われない3つの理由とは、一体何なのでしょうか? 結論を申し上げると、

理由1:「対立」を力に変えられていない
理由2:「今、ここ」しか見えていない
理由3:実行するメンバーの内発的動機づけができていない

の3つとなります。

いずれも「組織文化」や「人材」という組織のソフト面こそが、組織を変えるために必要と述べています。つまり、どれだけ秀逸な戦略を描いても、組織構造などハード部分をいじっても、それだけでは組織は変わらないということ。

ピーター・ドラッカーは「Culture eats strategy for breakfast(組織文化は戦略を朝食のように食べてしまう)」という言葉を残しましたが、まさにその通りなようです。個人的な理解としては「そこにいる人に心に光を当てなければ、組織は変わることはない」というのが本書で強調している一つのメッセージと感じました。

ということで、以下、組織が変われない理由について、簡単にまとめてみたいと思います。



◯変われない理由1:「対立」を力に変えられていない

まず1つ目の理由が「対立を力に変えられていない」と述べています
しかし、著書ではこの状況が続くことこそが、「組織に変革がもたらされない理由である」と述べます。読みながら本書で私が最も衝撃を受けた(かつ振り返るとその通りだとも共感した)内容がこの部分です。以下引用いたします。

組織内の「対立」について、多くの方はこのように考えます。
「対立はできれば起こらないほうがいいもので、避けるべきだ。皆が仲良く協力しないと変革は難しい」しかし私たちは、これに反対です。

変革を実現させるためには「対立」が必須である。それどころか、「対立」をなかったことにする限り、変革は起こらないーこのように考えます。

ここでは「対立の考え方をコペルニクス的に発想転換することが必要」と述べています。そしてキーワードが「薪を燃やし尽くす」とあります。つまり、お互いに感じている不満を出し合うことです。
この行為により、相手の氷山の水面下にある感情・動機・価値感・思いなどを受け止めることができる、というのです。

これは抽象的なようですが、よくわかります。思っていること、不満を伝えずに抱え込んでいるうちは、その出せていない感情・想いが毒素のように溜まっていき、出さない限り相手との対話の準備が整いません。
逆にこれらを吐き出して「思いを受け取ってもらえた」と思うと自分も歩み寄ることができます(余談:これは夫婦関係でもそうだな、と思います)。

これらの対立を上手にマネジメントするために、「エンプティチェア」などの介入施策も具体的に紹介しています。



◯変われない理由2:「今、ここ」しか見えていない

2つ目の理由が、「今、ここ」しか見えていないこと。これは「空間」=「自分以外の他者の視点(様々なステークホルダーや他部署の人など)」と、「時間」=「過去のこれまでの経緯や、未来のありたい姿」について、視点を変えて理解することができない、こととしています。

時間軸と、空間軸を超えて、自分を取り巻く組織の状況を、一つのシステムとして捉えて、そしてそのシステムの生成発展のプロセスに目を向けることができれば、新しい選択肢が見える可能性がある。しかし、「自分の部署・立場」「今の状況」に視点が集中しすぎるがゆえに、創造的な選択肢が浮かばなくなっている、と述べています。

ゆえに、視点を広げるための「ステークホルダーへのインタビュー」、「他との”役割”の転換をするワーク」、「年表の作成」などを介入施策として提案をしています。



◯理由3:実行するメンバーの内発的動機づけができていない

最後が、実行メンバーの内発的動機づけができていない、と述べます。当然ですが、戦略をいくら描いたとしても、それを実行するのは現場のメンバーです。メンバーが自分でやろう!と思えなければ、実行されることはありません。

外から与えられて「これやっといて」で、本当に自分ごととしてできるかというと、そんなことはありません。何かしらの理由をつけて、やらないままでなんとなく終わっていく…となってしまうケースがほとんどです。

ゆえに、戦略を描いたり、計画を立てること以上に、変革に関わるメンバーの当事者意識を高め、内発的動機づけ、モチベーションを喚起する巻き込みが必須になってきます。これは、コッターの変革の8ステップの「変革推進チームを結成する」にも近い話とも思えます。

ちなみに、著書では、『プロフェッショナル仕事の流儀 第1回 ”信じる力”が人を動かす_経営者・星野佳路(2006年1月10日放送)』を紹介して「メンバーの内発的動機づけを高めるプロセスの重要性を考える」という介入も紹介していました。

***

■個人的な感想

◯大人だから飲み込まないといけないこともある、の功罪

組織でよく言われるのが「ゆでがえる」という状態です。このままでは良くないだろうと思いつつも、何か一歩を踏み出すことができない。「色々あるけど今のまま」。この状態にある人も組織も、実際に多いのかもしれません。

本書で紹介されていた考え方の中で、トーマス・キルマンの「コンフリクト・マネジメント・モデル」が印象的でした。このモデルは「自分への立場の配慮」:高い or低い、「相手の立場への配慮」:高いor低いで、それぞれ、競争的・回避的・受容的・協調的としています。

「不満を言わずに黙って状況に従う」という行為は、自分の立場が低く、相手の立場への配慮が高く「受容的」。一方、「自分の不満をとにかくぶつける」は、自分の立場への配慮が高く相手の立場への配慮が低い「競争的」。実際はここまで極端ではなく「伝えるところはやんわり伝えるけれど、本当に本音の部分は言わない」という「妥協的」が一番多そうです。

もしかすると、日本の殆どの組織は、「受容的」「回避的」よりの「妥協的」になっており、本音を言わないことで、ゆるやかにゆでがえる的になっているのかも…とも感じたのでした。



◯「組織は変われるのか」に向き合った実践書

また、本書を手掛けられたバランス・グロースド・コンサルティング株式会社ですが、いくつかの研修を受けたり、関連する方からお話を聞かせていただいたことがあります。そして「組織が変われない”根本原因”について、深く探求をされた組織開発のプロ集団」という印象を以前から持っていました。

例えば、アーノルド・ミンデル博士の「プロセスワーク」という、新しい場所に向かおうとするときに起こる「心理的な抵抗感」(エッジ)という概念を用いたり、ロバート・キーガン博士(『なぜ人と組織は変われないのか』の著者)の「免疫マップ」の概念「表の目標(達成したいとする目標)」を阻害する「裏にある目標(実は守りたいもの)」を認知することなどでしょうか。
あるいは、組織におけるランク(主流派と非主流派の存在)など、組織の水面下に起こっている事象がもたらす作用などなど・・。

これらは論文などで定量的に示されている訳ではない(と私は認識している)のですが、モデルとしては納得できるものばかり。人と組織のジレンマを言葉にしたものには、数字では示しきれないものがあると感じます。

こうした概念を元に、未だ完全に科学としては証明しきれない、しかし信頼のおける概念を用いて、組織に向き合い、そして実際に変革をなされてきている方々がバランス・グロースド・コンサルティング株式会社の方々というイメージでございます。

本書はそれらの実践者のプロ集団が「組織が変われない理由と変わための理論を抑えつつ、実際にどのような介入を行えばよいのか?」を、具体的に示されている書であると感じました。

本書の素晴らしいのは、特に後半部分での介入の仕方が、具体的に明示されているところです。こうした難しい関わり方は「対話が大事です」で終わってしまうところを、本書は具体的介入策の例も示されています。

これは、実践の場にいる著者の方々の知見があるからこそ、文字にできたことであり、こうした内容を惜しみなく明かしていただけることにありがたさも感じた著書でもありました。(私も資格を持っているシステムコーチング®の技法を、かなりわかりやすく具体化してくれている本でもあります)

組織開発に関わる方には、特におすすめしたい一冊でございました。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

※本日のメルマガは「note」にも、図表付きでより詳しく掲載しています。
よろしければぜひご覧ください。
<noteの記事はこちら>

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<今週の一冊>

『組織が変われない3つの理由 「元気」と「成果」を同時に実現する組織のつくりかた』
西田 徹 (著), 山碕 学 (著), 松村 憲 (監修)

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