今週の一冊『あした死ぬ幸福の王子 ストーリーで学ぶ「ハイデガー哲学」』
(本日のお話 2653字/読了時間4分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日土曜日は、立教大学のリーダーシップの授業の
中間発表会(ポスターセッション)でした。
多くのフィードバックをする&される1日ですが、
これからフィードバックを受けて、企画がブラッシュアップされるのが楽しみです。
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さて、本日のお話です。
毎週日曜日は、最近読んだ本の中から一冊をご紹介する「今週の一冊」のコーナーです。
本日ご紹介する本は、世界的名著とされる『存在と時間』を著した、マルティン・ハイデガーの哲学をストーリー仕立てで、読みやすい物語として解説した著書です。
あくまでもハイデガー哲学の超入門的立ち位置のため、その真髄を理解できたのかどうかはわかりませんが、自分と照らし合わせながら、楽しく、考えさせられる一冊でした。
ということで、早速中身を見ていきたいと思います。
それでは、どうぞ!
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<今週の一冊>
『あした死ぬ幸福の王子 ストーリーで学ぶ「ハイデガー哲学」』
飲茶(著)/ダイヤモンド社
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■「あした死ぬ幸福の王子」はどんな本?
ちょっと余談ですが、哲学とは「当たり前の前提を疑うこと」であると、ある哲学を研究している知人が語っていました。
たとえば、「他者や経験から教訓を得る」という、態度も、「思考を深めず、盲目的に一つの立場に頼る浅はかな精神と言えるのかもしれない」と前提を疑ってみる、などです。
ただ、そうした知的行為は、普通の人には難解です。ゆえに、読むことはおろか、書籍を手にすることすら躊躇してしまうもの(私もそのひとり)。
▽▽▽
そんな中で、著者の飲茶氏は、それらの複雑な哲学の根幹を、わかりやすく解説し、多くの人に届けられる本をいくつか書いています。
そして、今回の著書は「超難解といわれるハイデガー哲学」を、サソリに刺されて死ぬことが決まってしまった王子と、湖畔で出会った老人との対話を通じて、物語として伝えてくれる作品となっています。
以下、本書の紹介文を、引用いたします。
(ここから)
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★20世紀最大の哲学者に学ぶ「限りある時間の使い方」
もし、あした死ぬとしたら、今までの日々に後悔はありませんか?
世界的名著『存在と時間』を著したマルティン・ハイデガーの哲学をストーリー仕立てで解説!
ハイデガーが唱える「死の先駆的覚悟」(死を自覚したときに、はじめて人間は本来の人生を生きることができる)に焦点をあて、私たちに「人生とは何か?」を問いかけます。
★超難解なハイデガー哲学をストーリーで読み解く!
舞台は中世ヨーロッパ。傲慢な王子は、ある日サソリに刺され、余命幾ばくかの身に。
絶望した王子は死の恐怖に耐えられず、自ら命を絶とうとしますが、謎の老人が現れ、こう告げます。
「自分の死期を知らされるなんて、おまえはとてつもなく幸福なやつだ」
謎の老人との出会いをきっかけに、王子は、ハイデガー哲学を学んでいきます。
老人との対話、かつて自身が暴行を加えてしまった物乞いの少女との交流を通じて、「存在」「時間」、そして「死」について考える旅に私たちをいざないます。
なぜ幸せを実感できないのか、
なぜ不安に襲われるのか、
なぜ生きる意味を見いだせないのか、
残されたわずかな時間のなかで、王子が対峙するさまざまな出来事や湧き出る感情を通じて、ハイデガー哲学のエッセンスを学べるとともに、
限りある時間をどう過ごしたいか、どう生きたいかを考えるヒントが本書には詰まっています。
Amazon本の紹介より引用
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(ここまで)
■ハイデガー哲学の「キーワード」を読み解く
本書の構成は、ハイデガー哲学のキーワードの紹介、まつわる登場人物のエピソードが繋がって展開されていきます。そのため、難解とされるハイデガー哲学を私事としてイメージしやすい形になっているのが魅力です。
ということで、物語に沿って登場する主要概念を整理し、“キーワード → エッセンス → 物語上のシーン” という形でまとめてみます。
【死の宣告】
死を突き付けられることで“当たり前”の日常が揺さぶられ、〈本来性〉への入口が開く。(序章――王子が余命を知らされ、自分の存在への思索が始まる)
【死の哲学者】
ハイデガーは「人間は “死に向かって存在する”(Sein-zum-Tode)」と喝破。死は恐怖ではなく、人生設計を根底から組み替える羅針盤となる。
(第1章で、湖で出会った老人が「死を忘れた者は、生を生き損ねる」と諭し、王子との対話が始まる)
【現存在(Dasein)】
私たちは「世界に投げ出され、世界とかかわりながら意味を織り上げる存在」である。主体と客体が分かれる前の、生きた存在のあり方を指す。
(第2章で“王子”と、読者自身と見立て、自己認識を迫る内容が描かれる)
【道具体系】
モノは“目的-手段”の網の目の中でだけ機能する。ハンマーとクギの例のとおり、単独で完結する存在はない。しかし、本人だけは「道具の主体」であるため、道具にはなり得ない。そうなっては本来的な生き方とは言えない、というのが印象的で4章に続く。(第3章で、老人が王子に説明をする)
【本来的生き方】
「誰かの代わりがきく“道具のような生”を脱し、自分の可能性を引き受ける在り方」が重要では、と問う。(第4章で、王子という“役割”に埋没する王子が揺さぶられはじめる)
【死の先駆的覚悟】
自らの有限性を前倒しで引き受け、そこから逆算して今日を選び抜く――ハイデガー流 “後悔しない時間術”と題される。(第5章にて、物語で伝える教訓として提示される)
【良心の呼び声】
群衆や習慣に埋没しそうになったとき、内側から響く「お前は本当にそれでいいのか?」という警鐘(呼び声)に気づけと述べる(第6章にて、“内なる声”として、王子が暴力をふるった少女に対する罪悪感などと向き合う)
【被投性&企投性(時間性)】
被投性:生まれる時代や境遇を選べない “投げ込まれ”ること、
企投性:それでも未来へ可能性を投げかけ、〈プロジェクト〉を立てる自由がある
(第7章にて、人間(現存在)は「過去に縛られず、未来を設計できる存在」として語られる)
【世界内存在】
人は客観世界の“外”に立つのではなく、初めから 〈世界の只中〉 で他者・道具・状況と絡み合っている。(第8章――王子が“自分の居場所”を再発見する場面と説明される。やや難しい)
■まとめと感想
私はハイデガー哲学が何たるかを知らず、また、原著を読んだことがない者です。そんな私ですが、楽しく読みつつ、ハイデガー哲学に、興味を持つことができました。(超難解なハイデガー哲学、とあるので、原著にチャレンジするのは勇気がいりますが…汗)
印象に残っているのは、実はハイデガー哲学以上に、登場人物の王子の、パンチの効いたキャラ設定(傍若無人な王子が、ハイデガー哲学に触れて、急激に感性豊かになっていく様子など)などですが、「死があることで、今このときの意味が感じられる」というメッセージは、確かに感じられる一冊でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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