「資源保存理論」ってなんだ? ーチームには”モノとつながりと元気”の支援が必要であるー
(本日のお話 2453字/読了時間4分)
■こんにちは、紀藤です。
昨日日曜日は、朝から大学院のランニング部にて10km走りました。
その後、大学の授業ミーティング、そのまま宮崎へ出張のため移動でした。
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さて、本日のお話です。
本日は「資源保存理論(Conservation of Resources:COR理論)」のレビュー論文をご紹介します。
近年、ワーク・エンゲージメントの研究の中でも、しばしば目にする理論だなあ…と思っていましたが、あまり深く追ったことがありませんでした。
ただ、よくよく見てみると「資源を持つ人は、更に獲得しやすくなる」というサイクルは、世の中に存在しているようです。「富めるものがさらに富める」「20~30代の何も経験がないうちは爆走したほうがよい」という話にもつながる話のようで、実に興味深いものでした。
ということで、早速、内容を見てまいりましょう!
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<今回の論文>
タイトル:Conservation of Resources in the Organizational Context: The Reality of Resources and Their Consequences(組織的文脈における資源保存理論:資源の現実とその結果)
著者:Stevan E. Hobfoll / Mina Westman
ジャーナル:Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior、2018年
所属:Rush University Medical Center, Department of Behavioral Sciences, Rush Medical College(ラッシュ大学医療センター 行動科学学科/米国イリノイ州シカゴ)
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■30秒でわかる本論文のポイント
・COR理論は「人は価値ある資源を獲得・保持・保護したい」という進化的欲求を前提に、ストレスを〈資源喪失〉〈喪失の脅威〉〈投資失敗〉で捉えます。
・本論文では、1:資源喪失のインパクトが際立つ〈4原理〉、2:資源が束で移動する〈キャラバン〉とそれを支える〈パッセージウェイ〉、3:損失・獲得スパイラル等の〈3補助命題〉を再整理し、30年分の知見を総覧しました。
・リーダー疲労が部下に飛び火するクロスオーバー研究、多文化比較による普遍性検証など応用範囲を示す一方、資源定義の肥大や第4原理(絶望原理)の実証不足といった課題も明示しています。
■研究の概要
では、本研究はどのような内容なのか?1989年に提唱されてから30年の歴史がある「COR理論」のレビューの方法や目的などを紹介いたします。
◎研究の目的
・1989年以降、バーンアウトやJD‐Rモデルの礎として引用されてきたCOR理論を、組織文脈に限定して批判的に再検証すること。
・Lazarus & Folkmanの「認知的評価」(主観)中心のストレス理論と異なり、資源の実体的有無に焦点を当てる点を強調し、両理論の接点・相違点を整理すること。
・資源キャラバン概念の登場以降に急増したマルチレベル/文化横断研究を統合し、理論の射程と限界を明らかにすることを狙いとした。
◎方法
・文献収集
PsycINFO・Web of Scienceを用い、1989〜2018年の英語査読論文+主要書籍を網羅的に検索。キーワードは “COR theory” “resource loss spiral” など。初期ヒット約900件から質的基準(組織領域への直接適用・理論的貢献)で214件に絞り込んだ。
・レビュー手順
ナラティブ統合法を採用し、(a) 理論枠組みの進化、(b) 実証研究の量的傾向、(c) 測定・概念課題、(d) 応用・文化的検討──の4テーマに分けて整理した。
・分析視点
個人-チーム-組織の階層間波及、時間的ダイナミズム、文化差(西欧・中東・アジア)を重層的に比較した。
■主な結果
レビューの結果、主に以下の5つのことがわかりました。
(1) 「4原理を再検証」について
・損失の優位性:資源喪失は獲得の約2倍の効果量でウェルビーイングを低下させる。
・資源投資:自己効力感や同僚支援への初期投資で離職率が10〜23 %減少する。
・獲得逆説:資源が乏しい層では小さな獲得でも効果が大きい。
・絶望原理:資源枯渇群では攻撃的対処行動のオッズ比が約3倍になる。
(2) 「資源キャラバン&パッセージウェイ」について
・「資源」は束(キャラバン)として蓄積・移動し、組織文化・制度という“通り道(パッセージウェイ)”が強いほど成長傾斜が急勾配になる。
(補足:「個人が持つ複数の資源は、お互いに補強し合いながら“束”で増える。そして、その束をスムーズに運ぶ“道路”(組織文化・制度)が整っていればいるほど、資源は一気に増えやすい」ということ)
(3) 「補助命題の実証」について
・損失スパイラル:喪失が喪失を呼び、バーンアウトを加速させる
・獲得スパイラル:豊富な資源がさらなる獲得を呼ぶ好循環がある。
・脆弱性命題:資源低位群は同じ要求水準でもバーンアウトが1.4倍。
(4) 「クロスオーバー現象」について
・上司の疲労は部下の離職意図へβ = 0.32で波及。夫婦120組でも資源喪失が翌週の怒り感情を媒介する。
(5)「測定・文化的課題」について
・資源項目が研究ごとにばらつき、メタ解析が難航する
・文化差例:西欧では「時間的裁量」が資源、日本では義務感として作用が逆転する。
■結論:研究からわかったこと
◯“現実の資源”重視の意義
主観的評価よりも、資源の客観的変動がストレス反応を強力に規定していた。したがって、職場ストレス対策は「感じ方」だけでなく「資源供給そのもの」へアプローチする必要がある。
◯多層的連鎖の理解が不可欠
個人資源はチーム文化や制度と相互作用しながらスパイラルを形成する。個別介入のみでは効果が限定的であり、キャラバンとパッセージウェイ――すなわち“通り道”の整備が鍵となる。
◯クロスオーバー現象の臨界点
ネガティブ資源移転は上司→部下、配偶者→本人といった近接者間でとくに顕著だった。したがって、リーダー自身のストレスマネジメントは組織全体のリスクヘッジでもある。
■まとめと感想
改めて、「心理的・社会的・エネルギー資源」の重要性を、皆が認識する必要性を改めて感じるものでしたし、リーダーが環境整備を行う必要がある理由も、そんなイメージで職場を見ると、納得いくように感じた次第です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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