「卓越を目指す」と「完璧主義」はどこがどう違うのか? ー論文からの示唆ー
								(本日のお話 3124字/読了時間4分)
■こんにちは。紀藤です。
今週は、個人的にとてもありがたい、そしてチャレンジフルな
「強みに関する新しい研修プログラム」を実践させていただく機会に恵まれています。
「強み」にも関連した概念に「卓越性」というのがありますが、
新鮮な経験で、自分の「まだまだ」「もっといけたはず」という、
”卓越を目指したい気持ち”という、自分のこだわりによって、
自分を認めるところと、反省するところの間で揺れている、
そんな貴重な経験をしている研修開発~実践のプロセスの最中におります。
*
さて、そんな「卓越性」に関連してある興味深い論文がありました。
そして、「卓越性(STRIVING FOR EXCELLENCE)」はともすると「完璧主義(PERFECTIONISM)」にもなってしまう、強みにも弱みにもなりうるもの。
一見、似ているようで実は異なるこの2つの特性。どちらも「高みを目指す」姿勢を持っていますが、完璧主義は時に人を苦しめ、卓越性の追求は人を成長させます。
本研究は、この2つを「動機づけの質」という視点から一本の“連続体”としてとらえ、どのように異なるのかを、心理尺度の開発と最新の統計手法を通じて明らかにした論文です。
「なるほど、こういうわけ方ができるのか⋯」と非常に勉強担った論文でした。
ということで、さっそく中身を見ていきましょう!
■今回の論文
・タイトル:A MOTIVATIONAL APPROACH TO PERFECTIONISM AND STRIVING FOR EXCELLENCE: DEVELOPMENT OF A NEW CONTINUUM-BASED SCALE FOR POST-SECONDARY STUDENTS(完璧主義と卓越性の追求への動機づけ的アプローチ:高等教育の学生を対象とした新たな連続体ベース尺度の開発)
・著者:MARIE LASALLE / URSULA HESS
・ジャーナル:FRONTIERS IN PSYCHOLOGY、2022年
・所属:ケベック大学モントリオール校 心理学部/フンボルト大学ベルリン 心理学部
■30秒でわかる要約
・完璧主義と卓越性の追求を「自己決定連続体(外的→取り入れ→同一化→内発)」で測る新尺度MPSESを開発しました。
・MPSES(MOTIVATED PERFECTIONISM AND STRIVING FOR EXCELLENCE SCALE)とは、完璧主義と卓越性の“動機づけの質”を測るために新たに開発された尺度です(後ほど詳しく説明します)。
・大学生サンプルでESEM(探索的構造方程式モデリングという統計手法)により良好な適合と、信頼性・妥当性を確認し、また6週間の再検査信頼性も確認しました。
・結果、「外的・取り入れ動機」は「不適応(神経症傾向・自己卑下)」と関連していました。「同一化・内発」は「適応(誠実性・自尊感情)」と関連していました。また、「努力の質」が、完璧主義と健全な卓越性を分ける鍵だと示しました。
という内容です。
■研究目的/背景
・完璧主義は「完璧主義的懸念(PC)」と「完璧主義的努力(PS)」の2因子で理解されてきたが、PSは適応・不適応の両側面を持つ。
・著者らは、自己決定理論(DECI & RYAN)に基づき、行動の「動機づけの質」でこれらを区別できると仮定した。
・高等教育の学習文脈で、完璧主義と卓越性の追求を一続きの連続体として評価できる尺度(MPSES)を開発した。
■方法
研究1A:43項目作成→ESEMで構造分析→31項目を採用(N=267)
研究1B:収束・弁別的妥当性検証(N=97)
研究2:短縮版27項目で再検査信頼性・時間不変性を評価(N=287)
使用尺度:HF-MPS, MAAS, GCOS, BIG FIVE, SELF-DEROGATION, RSESなど。
■完璧主義から卓越性への連続体
論文で示されていたのが、MPSES(完璧主義と卓越性の動機づけ図る尺度)が示す「完璧主義から卓越性の追求までの動機づけの連続体」を視覚化したものです。
左から右へ「自己決定の度合い(AUTONOMY)」が高くなっていきます。
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・AMOTIVATION〜INTROJECTED =完璧主義
→ 外的評価やプレッシャーによる行動。心理的ストレスが高く、自己卑下や神経症傾向と関連する。
・PS〜INTRINSIC =卓越性の追求
→ 自分の価値観・興味に基づく努力。誠実性・自尊感情・幸福感と関連する。
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とし、以下のような連続体として説明がされています。
●AMOTIVATION(無動機):
・動機づけの種類=行動に意味を感じない
・心理的特徴=努力の欠如
●PC(EXTERNAL)外的動機:
・動機づけの種類=他者評価・罰・賞による努力
・心理的特徴=不適応的完璧主義
●INTROJECTED(取り入れ):
・動機づけの種類=内面化されたプレッシャー(失敗したら自分にがっかりする)
・心理的特徴=内的プレッシャー型完璧主義
●PS(IDENTIFIED)同一化:
・動機づけの種類=自分の価値観と一致した努力
・心理的特徴=適応的完璧主義の移行点
●INTRINSIC(内発的動機):
・動機づけの種類=向上や学習そのものを楽しむ
・心理的特徴=卓越性の追求
(※この図はNOTEに記載しておりますので、
メール本文末のURLをご確認ください)
■主な結果
・ESEMモデル適合良好(CFI=0.968, RMSEA=0.037)
理論どおりの構造がきれいに再現され、尺度の設計が正確であることを示しています。
・信頼性 Α=.79〜.89、6週間再検査 R=.68〜.78
項目の一貫性と時間的な安定性が高く、信頼できる尺度であることを確認しました。
・シンプレックス構造(隣接因子ほど高相関)を確認
動機づけが外的から内発的へと連続的に変化する“連続体”であることが裏づけられました。
・外的・取り入れ・無動機 → 神経症傾向↑・自己卑下↑
プレッシャー型の動機づけほど、ストレス傾向や自己否定感が強い傾向が見られました。
・同一化・内発 → 誠実性↑・自尊感↑
自律的で意味のある努力をするほど、安定した性格特性と自己肯定感が高まることが示されました。
・年齢効果
年齢が上がるほど動機づけは自律的になり、男性は卓越性の追求スコアがやや高い傾向がありました。
■研究からわかったこと
・「完璧主義」と「卓越性の追求」は断絶ではなく連続体である。
・左側(外的・取り入れ)はプレッシャー型、右側(同一化・内発)は価値・興味型となる。
・努力の“動機の質”がウェルビーイングを左右する。
・「取り入れ」段階は過渡的ゾーンで、適応/不適応の両特性を持つ。
■まとめと感想
私たちが持つ特性というのは、まるで『スター・ウォーズ』のアナキンのように、光と闇の両面を併せ持っています。勇気は無謀さに、思慮深さは融通の利かなさに、批判的思考は疑い深さや皮肉さに。どんなにポジティブな力も、方向を誤れば“ダークサイド”に転じてしまうことがあります。
そう考えると、特性というのは「いい」「悪い」と単純に分けられるものではなく、どのような動機でその力を使っているかによって色合いが変わるのだと思います。
この論文で示された「卓越性」と「完璧主義」の関係もまさにその一例であり、同じ“向上を目指す力”が、自分の価値観に基づくのか、それとも外的な圧力によるのかによって、まったく異なる結果を生むことが明らかにされていました。
特に印象的だったのは、「完璧主義と卓越性は断絶ではなく連続体である」という点です。どちらも「高みを目指す」点では同じですが、根底にある動機が外的な評価なのか、内的な価値なのかが、その人の行動の質を決定づける。この洞察は、強みの心理学にも深く通じる発見だと感じた次第です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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