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4284号 2025年11月17日

読書レビュー『ユング心理学入門』ー序説 ユング心理学に学ぶー

(本日のお話 2754字/読了時間3分)

■こんにちは。紀藤です。

引き続き、沖縄にて。
また本日より新しい本の読書レビューをしてみたいと思います。取り上げる本はこちらです。

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『ユング心理学入門』

河合 隼雄 (著), 河合 俊雄 (編集)
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以前にご紹介した『カウンセリングとは何か』のレビューの中で、臨床心理学が広がった歴史が記されていました。

その代表として河合隼雄氏が紹介され、カウンセリングという言葉の社会的認知を広げ、臨床心理士という資格を作り、その養成のための大学院制度を整備した(『カウンセリングとは何か』P36より)と述べられています。

河合隼雄氏は、1962年にスイスのユング研究所に留学し、日本でもユング心理学を紹介した、心理学の中では非常に有名な人物です。

そのことはなんとなく見聞きしていたものの、彼自身の著作を読む機会はありませんでした。
そんな中、MBTIの認定ユーザーの資格を取る機会があり、ユング心理学についてももっと学んでみたいと思うようになってきた今日この頃。

まずは本書の全体像と、また河合隼雄氏の処女作ということで、河合氏がユング心理学を学ぶに至った経緯を語った序章についても紹介したいと思います。

それではどうぞ!

■河合隼雄氏は、なぜユング心理学を学んだか

さて、ここで日本にユング心理学を持ってこられた河合隼雄氏が、なぜユングを学ぶことになったのかという背景が書かれています。
このスタンスからも大いに学ぶことがあるなと感じ、私は印象的な序説でした。

河合隼雄氏は心理学を学ぶにあたって、「心理療法やカウンセリングがどうしてもできなかった、自信がなかった」と述べています。

「人間のために役立つことをする前に、人間を知ることが大切だと思った」。
そうした背景からロールシャッハテストという心理テストを詳しく勉強したり、わからないことを当時の権威の人に手紙を送ったり、心理療法について当時のアメリカの教授に熱心に質問したり、そうしたことを重ねます。

そしてある時、ユング研究所のシュピーゲルマン博士に分析を行ってもらう機会があり、「これほど話のわかる人がいるのか」という驚愕を得たそう。

しかしながら、聞いてみるとユング心理学の「分析」とは「夢分析」であると博士はいう。すると河合氏は、「夢のような非科学的なことを信用できない。
自分の中の日本人的な非合理性・曖昧性などが嫌いだから、西洋の合理主義・明快さを学びたかったのだ」と反論したそうです。

すると博士は、「いやいや、やってもいないのに非科学的ということこそ非科学的だ」というようなやりとりがあり、さらに「お前(河合隼雄)は東洋と西洋の間に立って貴重な貢献をすることになるだろう」などとも言われたそう。

その後も、納得できないものは納得できないとし、どんな権威であろうとも質問し、疑問を投げかけ、討論を重ねる河合氏の一貫したスタンスに、かっこよさを感じます。
そして、そうした繋がりもあり、ユング研究所に留学することになったという背景が語られています。

留学する1年前にユング自身は亡くなってしまったため直接会うことはできなかったものの、ユングの直接の弟子に接してきたので、ユングの魅力に関しては非常に生き生きとした話を聞くことができた。そんなことも述べられています。

■ユング心理学は「個性化」である

さて、肝心の「ユング心理学」とはいかなる学問なのか?

その根本が「個性化」であると述べています。

ユング心理学は、健康の体系を真理として提示するのではなく、人間のさまざまな心の存在を尊重し、そこに生じることを可能な限り生きようとするというスタンスが特徴であるそう。

なんだか不思議な言い方なのですが、「ユング心理学は『その人の生き方とユング心理学が重なる』という特徴を持つ」そうです。

つまり、ユングのことを述べると自分自身のことが混ざってしまうような、あるいはユングの言う通りに従おうとする人はユング派ではないと言える(?)という、と一見して読むだけではなかなか理解しがたい表現で語られていました。(読み進めるうちに理解できるのではあろうかと思いますが。)

■ユング心理学は「母性」である

次に興味深かったのが、「父性」と「母性」という考え方です。

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・父性とは「切断」。自分と相手を分ける働き。
・母性とは「全体性」。自我を越え、全体として心を見る働き。
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父性はフロイトが代表とのこと。近代科学や個人主義の考え方は、この「父性」のイメージに近いそうです。

一方、ユングは「母性」に注目したと述べます。
母性は「全存在」を見る視点であり、抽象的で明確さに欠ける、胡散臭いと見られることすらある。しかし「それは仕方ないと思う」と述べられていたのが印象的でした。

■ユング心理学は「死も考える心理学」である

また、フロイトが人間の心の発達を性に至るまでの段階として捉えたのに対し、ユングは人生の中年期以降、そして「死」までを含めた心理学を構築しようとしたそうです。

そのため、宗教—特にキリスト教—との関連性が深く、理解には宗教的背景も欠かせないと述べています。

以下、本書の目次です。

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<本書の目次>
序説 ユング心理学に学ぶ
第一章 タイプ
第二章 コンプレックス
第三章 個人的無意識と普遍的無意識
第四章 心像と象徴
第五章 夢分析
第六章 アニマ・アニムス
第七章 自己
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■まとめ

河合氏がユング心理学を学ぶにあたっての背景を読むだけでも、日本の心理学に多大な影響を与えた人物が、どれほど真摯に「人の心」と向き合っていたかが伝わってきます。

そして、疑問を持ち続け、自分の頭で考え、納得できるまで探求するという姿勢に、深く学ばされる思いでした。

また、この後の章も非常に濃密で、少しハードルは高そうですが、じっくり読み進めたいと思った次第です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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