「植物は裏切らない」。育種家の生き方から学ぶ”強みの活かし方”の話
(本日のお話 3354字/読了時間5分)
■こんにちは。紀藤です。
先日、とある勉強会仲間での忘年会がありました。
そこである『育種家のプロ』の方に、彼の「強み」についてお話を伺いました。
その内容が面白く、キャリアの面からも「自分の強みを発揮して生きる」ことのケーススタディという印象を受けるとともに、「強みとは、様々な要素が幾重にも重なっているものなのだな」と感じたのでした。
今日はそのエピソードのご紹介と、そのお話を「強みの5つ要素」という点から、検討してみたいと思います。
ということで早速参りましょう。
■育種家のプロフェッショナル
さて、今回お話を聞いた竹下さんは、植物をこよなく愛する人です。
肩書は「品種ナビゲーター・育種家」。プロフィールを引用させていただきます。
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品種ナビゲーター・育種家。1965年東京生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、キリンビールに入社。
新規事業としてゼロから花の育種プログラムを立ち上げ、同社アグリバイオ事業随一の高収益ビジネスモデルを確立。
2004年には、ALL-America Selectionsが北米の園芸産業発展に貢献した育種家に贈る「ブリーダーズカップ」の初代受賞者に。
現在は、植物・食文化・イノベーション・人材育成・健康の切り口から、様々な情報発信やセミナー等を行う。
技術士(農業部門)、J.S.Aソムリエ、NPO法人テクノ未来塾理事。主な著書「野菜と果物すごい品種図鑑」(エクスナレッジ)「日本の品種はすごい」(中央公論新社)他著書多数。
https://sayegusa-e.org/persons/daigaku_takeshita/
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これまで、2冊の本を書かれています。
1冊目は『日本の品種はすごい』という本です。
日本のうまい植物がどのように作られてきたのか…、植物が持つ潜在力を発揮させる育種家の物語。
そして2冊目は『日本の果物がすごい』という本です。
日本の歴史と経済を「果物」から語るという新しい視点の、もう一つの日本史です。
どちらも大変勉強になる本です。
あの美味しい数々の野菜や果物たちが、どのように品種改良を経て、今に至るのか…、
その背景が書かれており、食に対する知見が広がったように感じさせられる本です。
(そういえば、昔よりもトマトもピーマンも、すごく甘く、美味しくなっているなあと感じますが、それも育種家の努力の賜物なのでしょうね)
■「植物は裏切らない」
さて、竹下さんの植物に対する愛情と知識は、凄まじいものがあります。
曰く、「なぜ植物が好きになったのか?」と聞いてみました。すると、「植物は裏切らないからです」とのこと。
曰く、高校のときは「人間嫌い」であったそうで、「じゃあ 動物のほうが好きかも?」という流れから、ムツゴロウさんの弟子になろうと考えた時期もあったそうです。しかし動物は「人の気持ちが伝わらない」と感じ、「動物も人間と一緒だな」と思うようになったとのこと。
そこで「植物」に関心が移ります。そこで「植物を枯らしてしまう」といった出来事がありました。そのときに「なんで枯れてんだよ」とは他責に思わなかったのが、個人的に衝撃だったそうです。
人間にも動物にも感じたことがない「自分の育て方のせいなのだ」という感覚。それが、他責思考から自責思考として捉えた人生で初めての感覚であったとのこと。植物は、自分が行ったことを、そのまま返してくれる。そこから植物に対する「知りたい」という思いが強く湧き上がり続け、今に至るそう。
最初は『植物』でも「花」への興味を軸としていますが、そこからの「品種改良」をかけ合わせ専門家となります。さらには「果物」へと展開し、「歴史」、さらには「食文化」へといくつもの軸を拡大傾向に展開を続けて今に至られています。
何より、植物に対する情熱が高校から50年間にわたり、”枯れることがない”のが、本物感をすごいと感じます。
■「強み」を5つの要素で考えてみる。
応用ポジティブ心理学者でありロンドン大学のスティファン・パーマー氏らは、強みを5つの要素で分類しています。
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・(1)性格の強み
・(2)遺伝的才能
・(3)興味・関心
・(4)リソース(資源)
・(5)習熟したスキル
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この観点から「竹下さんの強み」を見ると、次のように分析できると感じます。
(1)性格の強み
まず、あくなき「探究心」。一つのテーマを徹底的に追求し、知りたい知りたいと情報を収集し続ける姿勢があります。
国会図書館にこもって、大隈重信の歴史を植物の歴史から紐解く……みたいなことをやっていると活き活きと語りますが、そんな人は他に聞いたことがありません。
より詳しく言えば、一つのテーマを掘り下げ、学びの体系を張り巡らされた地下城のごとく構築していく「向学心」。
それに過去の歴史を遡る「歴史視点」という、1点集中型の掘り下げが特に強いと感じさせられます。
(2)遺伝的才能
また、性格にはある程度の遺伝的要素があることも知られています。
竹下さんは、どちらかというと外に開かれて活動するよりも、一人で黙々と探究していくのだそう。その気質的基盤が、性格の強みとも相まって影響しているように見えました。
(3)興味・関心
そして、これはまさに「竹下さんの中心にある強み」と感じます。
植物という対象に対して、「何十年と枯れることなき探究心を持ち続けている」という点です。
「さかなクン」は有名ですが、ある1つのテーマにひたすら埋没できること。
微差を積み重ねると、時間の福利により圧倒的な差となりますが、「興味・関心」を持ち続けることの凄さを感じさせられます。この領域への情熱が突出しています。
(4)リソース(資源)
そして環境です。竹下さんは、この研究を“仕事として深められるポジション”にいたことが大きいかと思います。
いくら本人が好きでも、それを生かせる環境がなければ、強みを存分に発揮することはできません。お話は聞けませんでしたが、各種専門家との繋がりも相当あることが推察されました。
(5)習熟したスキル
またプロフィールにもあるように、「育種家」として様々な評価を得られています。植物の歴史や品種に関する膨大な情報を持ち、それをわかりやすく説明できる能力があります。その結果としての出版もその証左でしょう。
この習熟したスキルが、その人の見えている”がわ”の部分となり、市場価値を創出する部分にもなります。これは一朝一夕で獲得されるものではありません。
ただ大事なのが、(1)~(4)の結果、生み出されるものであるということです。
■強みを発揮するとは「自分らしく生きること」
竹下さんには枯れることなき興味・関心があるのですが、「まだまだ」ト思っているそう。
この面白さを、いかに世の中に伝えていくのか、そして注目してもらうのかという点には伸びしろがあるそう。「市場の需要」はそのままビジネスの規模にも繋がりますから、ビジネスという意味ではまだ拡大の余地があると述べていました。
ただ、お話を伺っていて面白かったのが、経済的価値はもっと伸びしろがあったとしても、あるいは求めがちであったとしても、「自分ができる”強み”を使って、好きなことに没頭し、それを日々できていること自体が幸せだと思う」という点でした。
周りを見渡しても、実際に、上記の「強みの5つの要素」がばしっとハマる生き方ができている人は、必ずしも多いわけではないようです。
だからこそ、ファーストステージとしては、「性格の強み、興味・関心、遺伝的特徴などを生かせる場所を見つけること」が第一歩なのではないか、という話になりました。
そこをクリアしたら、セカンドステージとして「市場と強みのマッチングを狙い、注目を集め、ビジネスとして成立し、経済価値がついてくる」のでは、というお話になりました。
経済価値になりやすいものとそうでないものは分かれる部分があります。
しかし、いずれにせよ、自分が自然と発揮できて、求められ、活躍できる場所を追求すること。これが幸福度を高め、大事なのことなのだと、改めて思わされた時間でした。
竹下さん、改めてありがとうございました。
皆様も、ぜひよろしければ著書をお読みいただければと思います。
日々の食卓にならぶ野菜や果物が、より愛おしく見えるはずです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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