「天職に生きる」ために必要な要素とは何か? ースイス・ベルン大学の研究ー
(本日のお話 2453字/読了時間3分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日は10kmのランニング。
ならびに1件のアポイントと、執筆活動でした。
また先日募集させていただいた「強み発見&実践ワークショップ」のモニター募集も
50名を超える方に参加表明いただきました。ご協力、ありがとうございます…!
めまぐるしく、状況が動いています。
大変ですが、楽しくてワクワクしております。
ご期待に添えるよう、頑張ります!
*
さて、本日のお話でした。
本日は「天職(Calling)」に関する論文をご紹介します。
「強み」の論文でも、天職との関係を語るものがいくつかあります。
代表的なものは、2012年のチューリッヒ大学の「自分の特徴的な強みを4~7個使っていると、天職と感じやすくなる」という内容の論文などがあります。
今回のテーマは「天職を持っていること(Having a calling)」と「天職を生きていること(Living a calling)」は何が違うのか?
そしてその間をつなぐ要素は何か?という問いに迫ったものです。
私たちはよく「自分の天職を探したい」と願いますが、実は「天職だと感じている」だけでは幸福度は上がらず、それを実際に生きる=仕事として体現していることが重要だということが明らかになってきています。
ではどうすれば、感じているだけでなく、実践できるようになるのか?
この論文では、その鍵が「仕事の資源」にあると述べられています。
なかでも「自律性(自分で決める裁量の大きさ)」と「タスクの重要性(誰かの役に立っているという実感)」が、天職を生きるために不可欠であることが示されています。
ということで、内容をより詳しくみてまいりましょう!
■今回の論文
タイトル:Living one's calling: Job resources as a link between having and living a calling(天職を生きる:天職を持つことと生きることのリンクとしての仕事の資源)
著者:Andreas Hirschi / Daniel M. Spurk
ジャーナル:Journal of Vocational Behavior, 2018年
所属:スイス・ベルン大学(University of Bern, Switzerland)
■30秒でわかる要約
・「天職を持っている」だけでは十分ではなく、それを「実際に生きる」ことが重要であり、その間をつなぐ鍵が「仕事の資源(Job Resources)」であるという実証的研究である。
・ドイツの社会人232名を対象に調査を行い、特に自律性とタスクの重要性が天職を生きる感覚を媒介することが明らかになった。職場環境の設計が、天職実現に大きく寄与することが示唆された。
■研究の概要
◎研究目的/背景
・従来の研究では、「天職を持っていること」は人生満足度や仕事へのエンゲージメントと関連があるとされてきました。
しかし近年、「天職を持っているのに生きられていない場合」には逆に不満足感が高まることがあるという指摘もなされています。
・そこで本研究では、天職の存在(Having)と実践(Living)のギャップに注目し、仕事の資源(自律性・意義・支援)がそのギャップを埋める媒介要因になるのでは?という仮説のもとに検証が行われました。
◎方法
・デザイン:横断調査(構造方程式モデリング:SEM)
・対象者:ドイツ在住の社会人232名(平均年齢29.25歳)
・職種:経営管理・エンジニア・教育・マーケティングなど多岐
・除外基準:天職をまったく持っていないと回答した者、自営業者
<尺度>
・天職の存在:Presence of Calling Scale
・天職の実践:Living a Calling Scale
・仕事の資源:Work Design Questionnaire(自律性・タスクの重要性・社会的支援)
分析手法:構造方程式モデリング(SEM)+教育レベル・役職をコントロール変数として設定
◎主な結果
・天職を持つ人は、資源の多い仕事をしている
→自律性・意義・支援のすべてが高く評価される傾向
・「自律性」と「タスクの重要性」が媒介要因であることが判明
→単に「天職がある」だけでは不十分で、それを生きるには環境の支援(特に裁量と意味づけ)が必要
・社会的支援は間接的効果のみ
→職場の人間関係よりも、「仕事の構造」そのものが天職実感には影響
・地位や教育水準との関係も示唆
→上位職・高学歴ほど「天職を生きている」傾向=ある種の社会的特権といえる
■結論:研究からわかったこと
1.天職を生きるためには、職業のマッチング(職選び)だけでなく、仕事の設計(Design)が不可欠。
2.「裁量のある仕事」「誰かの役に立つと実感できる仕事」こそが、Calling実現の土台。
3.組織側がその環境をどう整えるか、個人がどれだけ裁量・意味を見出すかが鍵。
■実践に活かすヒント
1.ジョブ・クラフティングの視点を持つことで、「いまの仕事」で天職感を高めることができる。
2.企業としては、裁量のある職務設計と、貢献の可視化(誰にどう役立っているか)を促すと◎。
3.キャリア支援では、「職選び」だけでなく、「職場資源の捉え直し」が効果的。
■応用イメージ・リミテーション・今後の課題
応用:研修や人材育成で、ジョブ・リソースの自覚と設計を支援するワークが有効
限界点:横断研究のため因果関係は断定できず、逆因果の可能性(=天職を生きるから資源が増える)も残る
今後の課題:縦断研究や介入研究による因果モデルの確立、および非管理職・非正規職への応用検証
■まとめと感想
「どこかに自分にぴったりな天職があるはず」と青い鳥を探してしまいますが、この論文が教えてくれたのは、「天職は“見つける”ものというより、“耕す”もの」という視点です。
今の仕事が天職とは思えなくても、自分の判断で動ける余地(自律性)を増やし、誰かの役に立っている感覚(タスクの重要性)を見出していくことで、それが天職へと“変わっていく”可能性がある。
そして、これはまさに冒頭にご紹介した「強みを活かしたジョブ・クラフティング」と整合すると感じました。
今の仕事で変えられる部分はどこか、特に自分の強みを活かせるような働きかけはできないか…?、そうしたチャレンジをすることで「天職に生きる」ことになる。これは示唆に富む考えのように感じました。
天職は、仕事と自分の関係性のなかで育てていくもの。そんなことを感じさせられた次第です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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