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3570号 2023年12月3日

今週の一冊『「あ」は「い」より大きい!? ー音象学で学ぶ音声学入門』

(本日のお話 2987字/読了時間4分)

■こんにちは。紀藤です。

昨日土曜日は、大学院の授業サポートをさせていただいた際の、
振り返り&懇親会でした。

先生方を始め、人・組織における尊敬する方が
勢ぞろいされており、大変刺激的な時間でございました。



さて、本日のお話です。

毎週日曜日はオススメの一冊をご紹介する
「今週の一冊」のコーナー。

今週の一冊は

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『「あ」は「い」より大きい!? ー音象学で学ぶ音声学入門』

川原繁人(著)/ひつじ書房

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です。

■どっちがmalumaで、どっちがtakete?

さて、皆様に少し考えていただきたいのですが、
ある図(カクカクした図と、丸っこい図)を見て、
どちらが「maluma」で、どちらが「takete」だと思いますか?

パッと見た印象、直感で構いません。

https://www.researchgate.net/figure/The-takete-maluma-effect-first-introduced-by-Koehler-1929-The-majority-of-participants_fig1_233397424

さて、ほとんどの人が左が「takete」、
右が「maluma」と選んだのではないかと思います。

興味深いことに、これは世界中で、文化や言語が違うところで聞いても、同じ結果になるそうです。
やっぱり左が「takete」で、右が「maluma」になる。

これはなぜかというと、言葉の音が持つ印象(=音象徴)があり、それらを人が感知する能力を持っているからのようです。

もうちょっと身近なところでいくと、ドラクエで言えば(世代でない人スミマセン!)「メラ」より「メラゾーマ」、「ホイミ」より「ベホマズン」(ドラゴンクエストの魔法の名前)のほうが強いのですが、これはやったことがない人でも、同じ印象を持つはず。

これも、「音象学」の観点からみると、「濁音のほうが強さを感じる」「モーラ数(音の数)が多いほうが強さを感じる」という特徴が現れています。

こうした名前に使われている音によって、イメージに影響が出る現象を「音象徴」と呼びます。



■音声学について

さて、こうした「音象徴」を含めた音の科学を真面目に行うものが「音声学」です。
補完関係にある学問には「言語学」がありますが、これは文の仕組みや単語の意味、社会と言語の関係を探求していますが、
「音声学」は”音声コミュニケーション”における研究に特化した学問領域となっています。

そして、この音声学は

「(1)調音音声学(=発音の仕方の研究)」
「(2)音響音声学(=話し手が発した音がどのように空気の振動となって伝わるかの研究)」
「(3)知覚音声学(=人間が空気の振動をどのように理解するかの研究)」

に分かれています。

そして、こうした発音の仕方(濁点・半濁点、あるいは「あ」や「い」がどう発音されるのか)と、人がその音を受け取る時に感じる印象が、実験によって明らかにされており、実に面白いです。

では、どんな違いがあるのかを見ていきましょう。



■共鳴音と阻害音

音声学の中で、大事な概念として「阻害音」と「共鳴音」があります。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・阻害音:p(パ行)、t(タ行),k(カ行)、b(バ行)、d(ダ行)、g(ガ行)、s(サ行)、z(ザ行)、h(ハ行)
・共鳴音:m(マ行)、n(ナ行)、y(ヤ行)、r(ラ行)、w(ワ行)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

共鳴音は、丸っこく女性的な印象を与えます(maluma)。
阻害音は、角ばっていて男性的な印象を与えます(takete)。

よって、日本を含めた世界では、男性のほうが「阻害音」を含む名前が多く(ジャック、ダニエル、権三郎など)、
女性のほうが「共鳴音」を含む名前が多い(ララ、ニーナ、やよいなど)そうです。

<「萌えメイド」と「ツンメイド」の名前を予測してみよう>

ちなみに、メイドカフェには、「萌え」系と「ツン」系がいるそうです(しらんけど)。

例えば、萌えとツンっぽいイメージのメイドさんがいて、
名前を「ワカナちゃん」と「サタカちゃん」だったとしたら、
どちらの名前が当てはまりそうでしょうか?

、、、おそらくですが、
より「萌え」っぽいほうが「ワカナちゃん」。
より「ツン」っぽいほうが「サタカちゃん」と選ぶのではないでしょうか。

これも阻害音と共鳴音の包含数が影響しているようです。



■大きい音と小さい音

また、こんな実験も紹介されていました。
ブレント・バーリンという人類学者が行った研究です。

1,「フィールドワークで新種の蝶が2種類(大きい蝶と小さい蝶)」見つかりました。
2,名前の候補として、『wampang』『wichikip』の2つが挙がりました。
3,さて、どちらの蝶に、どちらの名前をつけるか

という実験を考えさせたというもの。

どちらが『wampang』で、どちらが『wichikip』でしょうか?
ぜひ一緒に考えてみてください。
※図は以下より見ることができます
https://note.com/courage_sapuri/n/n80dfd791fd8a
さて、おそらく多くの人が

大きい蝶(a)に『wampang』、
小さい蝶(b)に『wichikip』を付けたのではないかと思います。

さて、この答えに繋がるものが「母音による大きさに与える印象の違い」があるとのこと。

<「あ」は「い」より大きい?>

アメリカ人の学生500人に、テーブルを表す2つの単語「mal」「mil」があったときに、どちらのテーブルのほうが大きいか?と答えた時、多くの人が「mal」のほうが大きい、と答えたという実験が紹介されています。

どうやら「あ」は口を大きく開けて発音するもの、「い」は口を閉じて発音するもの、こうしたところから意味に繋がっている可能性もありますが「あ」は「い」より大きいものとする音象徴を持つとのこと。

母音を「大きさ」の音象徴の順序で並べると、

「a」「o」>「e」>「u」>「i」

となるようです。(「あ」と「お」はどちらも大きい)

なので、動物もも威嚇する時は「いぃぃぃ!」ではなく「おおぉぉ!」。
『ジョジョの奇妙な冒険』の主人公・空条承太郎も「オラー!!」と言って相手を殴る(!)と本でも紹介されていました。



■長さと強さの関係

また興味深い視点に、「名前が長くなると強くなる」という、著者の学生さんによる発見も紹介されていました。

例えば、ポケモンも「ピチュー→ピカチュー」とか「ニョロモ→ニョロボン」となります。あるいは、冒頭に紹介いたしましたドラクエの魔法も、長くなると強くなります。

ちなみに、音声学では、「長い」=「モーラ数(音の数)多い」といいます。

しかし、ここで疑問がわきます、ニョロモ→ニョロボンも、ホイミ→ベホマズンも、長いだけではなく、強さに影響を与える「濁音」も入っているし、増えているのです。

ゆえに、「これは”長さ”じゃなくて、”濁音”が影響して、印象を与えているんじゃないの?」というツッコミも考えられます。

ここで、その影響度合いを調べるために、統計的手法である重回帰分析を用いて、a)濁音、b)長さ(モーラ数)が、音の印象にそれぞれどの程度影響を与えるのかを調べたところ、「”モーラ数”は濁音とは独立して、音の印象に影響を与える」ことがわかりました。

やっぱり長いほうが、強い印象を与えるようです。



■まとめ

感覚的にもっていた音の印象を、科学的に理解することができる、実に面白い本でした。
こうしたことから値引きに使える(7.22ドルより、7.66ドル(sixty-six)のほうが小ささを感じる(安いと感じる)など、マーケティングにも活用されているそうです。

また子供の名付けの際に、女性的なイメージか、男性的なイメージか、どのような印象を持たせたいかによっても、音声学は使えそう。

著書では、その他にも、ここではご紹介できなかった発音の仕方や音の変化」などを研究データや図表を使って丁寧に、かつ面白く紹介されています。普段、耳にしている「音」について視点が深まる名著でした。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

※本日のメルマガは「note」にも、図表付きでより詳しく掲載しています。
よろしければぜひご覧ください。
「note」の記事はこちら

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<今週の一冊>

『「あ」は「い」より大きい!? ー音象学で学ぶ音声学入門』

川原繁人(著)/ひつじ書房

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