「誠実さ」が欠点になるとき ー真実は、時に人を傷つけるー
(本日のお話 3154字/読了時間3分)
■こんにちは。紀藤です。
さて、本日のお話です。
「あの人は誠実だよね」と聞いたとき、どう思いますか?
おそらく、「いい人そう」とか「信頼できそう」とポジティブな印象を持つのではないかと思います。
(一方「ちょっと面白みがなさそう」という見方もあるかもしれません。BAD BOYSは、いつの時代も人気です)
さて、話が脱線しつつも、この「誠実さ」という概念。
「なんとなくいい」と思うものの、その意味を捉えるのが難しい概念でもあります。
まじめなこと、信頼があること、嘘をつかないこと、約束を守ること…。
私たちの日常ではそうした意味が混在しているようです。
そんな中、今回ご紹介する論文では、「誠実さ」について、
既存の実証研究や理論的枠組みを精査したレビュー論文として、全体像を整理してくれています。
特に個人的には「誠実さの欠点」という部分が心当たりがありすぎて、思わず唸らされてしまいました。
ということで、早速見てまいりましょう。
■今回の論文
・タイトル:When the truth helps and when it hurts — How honesty shapes well-being(真実が役立つときと害をなすとき:誠実さが幸福感を形作る方法)
・著者:Bonnie M. Le / Princeton X. Chee
・ジャーナル:Current Opinion in Psychology、2022年
・所属:ロチェスター大学(University of Rochester)
■30秒でわかる論文のポイント
・誠実さは単なる「正直さ」だけでなく、真実を求め、他者にも正確な情報を促すという対人的な側面を持っています。
・誠実な人は自己受容や人生の意味を感じやすく、高齢になるほど身体的健康や長寿に寄与する可能性があります。
・誠実さは人間関係を深める一方で、配慮を欠いた「真実の暴露」は、相手を傷つけ関係を破壊する凶器にもなり得ます。
・幸福を高めるための誠実さには、「何を伝えるか」だけでなく「どう伝えるか」という文脈と親切さが不可欠です。
■研究の背景と目的
誠実さは多くの社会で美徳とされていますが、実は「誠実さがいつ幸福に繋がり、いつ欠点になるのか」については曖昧な点が多く残されていました。
これまでの議論は哲学的なものが中心で、実証的なデータに基づいたコストと便益の整理が求められていました。
本研究の目的は、個人、対人関係、誠実さがウェルビーイング(幸福感)にどのような影響を与えるかを、既存の膨大な研究からレビューし、明らかにすることにあります。
■誠実さの「三要素モデル」とは
本論文では、誠実さを単なる性格特性としてだけでなく、以下の3つの要素からなる動的なプロセスとして定義しています。
1.信念表明:自分自身が正確だと信じている情報を、偽らずに伝えること。
2.真実追求:自ら正確な情報を求め、自分の信念をアップデートしようとすること。
3.理解促進:他者に対しても、正確な情報を共有するよう促すこと。
つまり、誠実さとは「自分が嘘をつかない」「自分の信念に基づいて生きる」(信念表明・真実追求)以外にも、他者との関わりでも真実を伝えるように促すこと(理解促進)など、社会的な営みも含まれているのが興味深いです。
余談ですが、性格特性のビッグファイブでも、「誠実性(Conscientiousness)」と訳されることがあります。
ただし、ここでいう誠実性は、「目標達成のための計画的で責任感のある行動を取る傾向」として、自己管理能力の高さ、適切な慎重さなどが表現されているので、少し意味は違うようです。
■研究の方法
本稿は、個別の実験結果を報告するものではなく、多数の研究論文を統合して評価する「レビュー論文」の形式をとっています。
・デザイン:横断研究(ある時点での調査)および縦断研究(長期的な追跡調査)のレビュー。
・使用された主な尺度:
ーHEXACO分類法:性格の「正直さー謙虚さ」を測定する標準的なモデル。
ー真実性コミュニケーション尺度(TCS):最新の誠実さ測定ツール。
・分析の視点:個人内の心理的利益、対人関係の質、組織や国家レベルでの市民的美徳という3つの次元から分析を行っています。
■主な結果(わかったこと)
◯わかったこと1:誠実さは「身体の健康」を高める
誠実な人は、瞬間的な楽しさ(快楽的幸福)よりも、「人生の目的や自己成長」(ユーダイモニックな幸福)を強く感じる傾向があります。
・高齢者を対象とした4年間の追跡調査では、誠実な人はうつ病、肺がん、移動困難のリスクが低いことが示されました。
・薬物乱用の減少といった「健康行動」や、ストレス反応の抑制といった「生物学的メカズム」が寄与していると考えられています。
◯わかったこと2:誠実さは「対人関係」をより良いものにする
個人間だけでなく、組織や社会全体において誠実さはポジティブな連鎖を生みます。
・対人関係:誠実な開示は親密さを深め、相手にも誠実さを引き出す動機付けとなります。
・組織・社会:誠実な文化がある組織では従業員の幸福度が高く、市民的美徳が重んじられる国では納税などの規則遵守が個人の生活満足度を高めます。
◯わかったこと3:誠実さは「高齢になるほど育まれていく」
研究によれば、高齢層は若年層よりも誠実さが高いという報告があります。
社会的な成熟や、他者への責任ある関わりといった役割を果たす中で、誠実な行動が報われるというプロセスが生涯を通じて機能している可能性があります。
■実践に活かすヒント
この研究を日常生活に活かすなら、以下のことを意識してみるとよいです。
・ビジネス・組織において: 単に「嘘をつかない」だけでなく、リーダーが「真実追求(正確な情報を求める)」と「理解促進(部下に正確な情報を促す)」を実践することで、組織のコミットメントを高め、非生産的な行動を減らすことができます 。
・真実の伝え方が重要: 「本音」を伝える際は、それが相手の幸福を損なわないか、という文脈を読み取ることが重要です。
誠実さは、親切心とセットになったときに、最も関係性の質を向上させます。
■まとめと感想
私もこの論文を見て、かつての後悔を思い出していました。それは「本音を勇気を持って伝える」という大義名分で、大事な人を傷つけてしまったことがある、という話です。
基本的にそれは、やり直すことはできません。
記憶のかさぶたは、傷が綺麗に治ったとしても、そのあとが縫い目のように残ってしまうからです。
実は「真実」というのは、曖昧なものです。
「感じていること・思っていること」というふんわりした考えの雲のようなものが胸のうちに浮かんでいて、その中には色んな要素があります。
「正直に思っていること」の中にも、自分の率直なモヤモヤと、相手の視点に立ったときに見える景色への配慮が混じります。
あるいは、こうしてほしいという願いと、そうは言っても難しいだろうなという相手の状況への理解も混じります。入り混じりながら、その思考の雲全体が「自分の本音」として色々な色を有して漂っています。
それを「共有される真実」で伝えるとき、自分の一方的な視点だけで何の配慮も遠慮もなく具現化してしまったら、相手には「トゲトゲの鋼鉄ボール」を豪速球で投げつけるような行為となります。
それはとてつもない殺傷能力を有してしまいます。
まさに本論文にある「誠実さの欠点は、共有される真実の情報が傷つけるものである場合、過酷な方法で伝えられる場合に生じる」という指摘そのものです 。
「誠実さの利点は、真実を親切かつ配慮ある方法で共有する際に最も明確に現れる」 。
この論文の一文こそが、「誠実さ」における、とても重要な要素のひとつなのだな、と改めて思わされた次第です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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