「人と一緒に学ぶ」と、批判的思考力は高まるのか? ―大学生72名を対象とした協同学習の研究から―
(本日のお話:3390 字/読了時間4分)
■こんにちは。紀藤です。
さて、現在も絶賛、高校のリーダーシップの授業に
関わらせていただいております。
全20回あった授業も、残すところあと3回。
自分自身、初めてのチャレンジということもあり、
これまでの授業を振り返ると、できたこともあれば、
「ここはもっとできたな…」と反省することも多くあります。
…とはいえ、その中で高校生と共にリーダーシップについて考えるという、
よい体験をさせていただいているな、と思っている次第です。
▽▽▽
さて、そんな中で、現在行っている授業は、
あるプロジェクトについてチームのみんなで話し合い、
協力しながら課題解決を進めていくというものです。
いわゆる「プロジェクト・ベースド・ラーニング(PBL)」と
呼ばれる学習方法です。
そして、こうした学習の中で、他者と協力して学ぶことを
「協同学習(Cooperative Learning)」と呼びます。
今回ご紹介するのは、
「協同学習が、批判的思考力(クリティカルシンキング)を高める」
という研究です。
大学生を対象とした研究ですが、共に学ぶことで、
どのように批判的思考力が高まるのかを検証した内容となっています。
ということで、早速内容を見てまいりましょう。
それでは、どうぞ!
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<本日の論文>
タイトル: The Effects of Cooperative Learning on Critical Thinking in an Academic Context
(学術的文脈における協同学習が批判的思考に与える影響)
掲載誌: Journal of Psychological and Educational Research, 20(2), 15–30
出版年: 2012年
著者: Mohammad Reza Sadeghi
所属: Department of Foreign Languages, University of Isfahan, Iran
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■30秒でわかる本論文のポイント
・イランの大学生72名を対象に、
「協同学習」が批判的思考力に与える影響を検証した研究。
・学生を「協同学習を行うグループ」と
「従来型の講義を受けるグループ」に分け、
授業前後の批判的思考力を比較した。
・結果、協同学習を行ったグループでは、
批判的思考力の総合得点が22.79点から36.90点へ上昇した
(対照群は24.10点から28.59点)。
・特に「証拠の信頼性を判断する力」「批判的に評価する力」において、
統計的に有意な差が確認された。
・他者との討論や意見交換、相互評価を取り入れた学習は、
批判的思考力を育てるうえで有効である可能性が示された。
■研究の背景と目的
◯「協同学習」とは何か?
そもそも「協同学習」とは、どのような学習方法なのでしょうか。
論文では、学習者同士の関わり方として、
以下の3つが挙げられています。
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1.競争的な学習: 他者と競い合いながら学ぶ
2.個別的な学習: 自分自身の目標に向かって、一人で学ぶ
3.協同的な学習: 共通の目標に向かって、他者と協力しながら学ぶ
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ここで重要なのは、単に
「グループで活動すれば、協同学習になる」
というわけではないことです。
協同学習には、共通の目標を持つこと、
互いの学習に責任を持つこと、対話をすること、
協力するためのスキルを使うこと、
そして活動を振り返ることなどが重要だとされています。
つまり、同じ机に座って、
なんとなく一緒に作業するだけでは不十分なのですね。
◯批判的思考力は、他者との対話で高まるのか?
さて、今回の研究で着目したのは
「批判的思考力(Critical Thinking)」です。
これは、単に相手の意見を批判したり、
否定したりする力ではありません。
「本当にそうなのだろうか?」
「その主張には、どのような根拠があるのだろうか?」
「別の見方はできないだろうか?」
といった問いを通じて、情報や主張を吟味する力です。
これまでの研究でも、協同学習が推論力や問題解決力を
高めることは示されてきました。
一方、イランの大学における外国語学習という文脈では、
十分な検証が行われていませんでした。
そこで本研究では、
「協同学習は、大学生の批判的思考力を高めるのか?」
を検証することにしたのでした。
■研究の方法
研究対象となったのは、イランのイスファハーン大学で
英語を学ぶ大学4年生72名です。
学生を以下の2グループに分けました。
・実験群(36名):協同学習を取り入れた授業
・対照群(36名): 従来型の講義形式による授業
授業は1学期間、合計8セッション実施されました。
実験群では、6名ずつの小グループを編成し、
グループ内での意見交換、討論、活動結果の発表、
相互評価などを行いました。
また、評価にも工夫があり、
授業活動70%、期末試験30%という構成を取り入れ、
個人の得点だけでなく、協力への貢献も評価に反映させました。
一方、対照群では、従来型の講義形式による授業を行いました。
そして、授業前後で批判的思考力を測定し、
どのような変化が生じたのかを比較したのです。
測定には、批判的思考に関するテストを使用し、
特に以下の3つの側面を分析しました。
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・批判的分析: 情報や主張を分析する力
・証拠の信頼性: 根拠や情報の信頼性を判断する力
・批判的評価: 情報や議論を吟味し、評価する力
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■主な結果(わかったこと)
◯わかったこと1:協同学習によって、批判的思考力の得点が高まった
まず、批判的思考力の総合得点についてです。
授業前後の平均点を比較すると、以下の結果となりました。
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<グループ授業前 → 授業後>
・学習群 22.79点 →36.90点(+約14点)
・従来型講義群 24.10点 →28.59点(+約4.5点)
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また、批判的思考力の下位尺度をまとめて検証した分析でも、
統計的に有意な差が確認されました。
つまり、「一人で講義を聴いて学ぶ」だけでなく、
「他者と協力して学ぶ」ことが、
批判的思考力を高める可能性が示されたわけです。
◯わかったこと2:「証拠の信頼性」と「批判的評価」に有意な差が見られた
次に興味深かったのは、批判的思考力のどの側面に
違いが見られたのか、という点です。
分析の結果、特に以下の2つで有意な差が確認されました。
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1.証拠の信頼性を判断する力(p<0.001)
情報や主張について、「その根拠は信頼できるのか?」と吟味する力です。
2.批判的に評価する力(p=0.007)
示された情報や議論を、そのまま受け入れるのではなく、検討・評価する力です。
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一方、「批判的分析」についても
協同学習群の得点は高い傾向が見られましたが、
論文に掲載された統計値には不整合があり、
個別の有意差については慎重に解釈する必要があります。
いずれにしても、協同学習は、
特に「根拠を吟味する」「情報を評価する」といった思考に
関わっている可能性が示されました。
◯わかったこと3:改善は見られたものの、批判的思考力の水準は依然として低かった
もう一つの発見は、
協同学習によって得点が高まったとはいえ、
全体としての批判的思考力の水準は、
依然として低かったということです。
著者は、この背景として、
暗記中心の教育方法や、表面的な質疑応答、
学習内容と実生活とのつながりの弱さなどが
影響している可能性を指摘しています。
協同学習は有効であるとしても、
それだけで十分な批判的思考力が身につくわけではない、
ということなのかもしれません。
■まとめと感想
さて、今回の研究では、「英語専攻の大学生」を対象にした授業の中でも、
協同学習によって批判的思考力が高まる可能性が示されたという点が、
なかなか興味深いところでした。
他の研究でも、協同学習が批判的思考力を高めるという報告があります。
他者と共に話をすることで、自分とは違う「当たり前」を持っている人に対して
説明したり、議論したりする。
こうしたプロセスが
「批判的思考力(本当にそうなのか?根拠があるのか?)」という思考を
鍛えるのではないか、と思います。
私も遅ればせながら、クリティカルシンキングというものを
真面目に学んでいる今日この頃ですが、グループで話をすると、前提となる「当たり前」が違っていることに、大きく驚かされます。
そして、対話が批判的思考力を鍛えてくれる、と実感をしています。
そして、協同学習、すなわち「共に学ぶ」ということは、
そうした力を高めていくための一つの方法なのだな、
と改めて感じた次第です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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