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『心をあやつる男たち』

今週の一冊『心をあやつる男たち』

2502号 2020年12月27日

(本日のお話 3885字/読了時間5分)


■こんにちは。紀藤です。

昨日は某企業様への
ストレングス・ファインダー研修の
オンラインでの実施。

参加者の方が皆さま
素晴らしい方ばかり。

かつオンラインにも慣れていて
ZOOMのチャットなども使いながら
皆で作り上げたような素敵な時間でした。

改めてご参加いただきました皆さま
ありがとうございました!



さて、本日のお話です。

毎週日曜日は、お勧めの一冊をご紹介する
今週の一冊のコーナー。


今週の一冊は、


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『心をあやつる男たち』
福本 博文 (著)



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です。



■「自己啓発セミナー」

と聞くと、皆さま
どんなイメージをお持ちでしょうか?


メルマガをお読みいただいている皆さまの中にも、
参加されたことがある方もいるかもしれませんが、

一般的には、

「自己啓発セミナー」=「怪しいもの」

と捉えられる風潮があるのではないかと。



■では、そう思われるルーツとは、
一体どこにあったのでしょうか?

いつの間にやら

「セミナー=怪しい」

という構造が
出来上がっているとしたら

その理由は一体
どこにあるのでしょうか?



■その答えの一旦が、この著書の

『心をあやつる男たち』

に描かれている
実に興味深い実話です。


日本経営管理教育協会
→人間成長センター
→パーソナリティ研究所

と名前を変え、
内容を変えてきた堀田氏という
実在したセミナー会社についての話を中心に

実在の団体、登場人物も含め、
著者が取材を通じて明らかにしてきた
ノンフィクションのルポタージュです。



■時は1962年。


日本にアメリカ発の

『ST(センシティビティ・トレーニング=感受性訓練)』

なるものがやってきたところから
話が始まります。



■このトレーニング、一体なんなのか?

簡単に概要を説明すると、
こんな内容です。



約12日間の合宿型のトレーニングで、
富士山の麓で行われる合宿。

その間は、途中で退出することは認められず、
「実験室」と呼ばれる場所に

1グループ約10名ほど参加者が集まり、机を囲む。

参加者は、1回1時間半のセッションで、

”「今、ここ」で起こっていることを語る”

ことを求められます。

それを合宿中何度も繰り返します。


その間、トレーナーは、
「今、ここ」で起きている事に集中させつつ、
参加者の内面に隠されたものを探っていきます。


■すると、参加者の間に、
段々変化が現れます。


「あなたの態度はいつも威圧的だ」

「そうだ、説教じみていて不快だ」

「いつもあなたはそうなのか?」


、、、最初は様子見だった参加者が
3日目、4日目に進むにつれて
内面を追求するような話になっていく。


参加者同士の”吊し上げ”のような
要諦を醸し出すことになり、

自分の隠された部分を
発露させるようなプロセスが起こる。


その過程で、
自分の内面に気付きが生まれていき、

本人の自己意識に変容が現れたり
人間関係において明らかな変化が現れたりする。


、、、そんなトレーニングが

『ST』

と呼ばれる手法の、
ざっくりとしたイメージです。



■なんて書くと、

「やっぱりあやしい」

と感じる方もいるのではないかと(苦笑)。


ただ、この「ST」というトレーニング自体は、
教授等によって開発され、
その効果も同時に実証されているものでもありました。


しかし元々、ベトナム戦争の帰還兵の
PTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療のための
”集団精神療法”として始まったルーツを持つトレーニングであったため、

精神療法的な色を持ち、かつ心に触れるため
危険性もあるトレーニングであったのです。



■ただ、この「ST」を始めとした手法は、
当時の詰め込み型教育から
一線を画するものでもありました。


そして当時
立教大学のリチャード教授を筆頭に

「立教大学キリスト教教育研究所」

と呼ばれる団体が、
主に牧師向けのこのトレーニングを
日本に普及する目的で作られ、
日本での展開が始まります。



■しかし、問題が起きます。


時は1960年代です。

日本のGDPが、
まさに世界2位になろうとしているとき。


産業界にこのトレーニングが
展開し始めて、その危険性が露見されていきます。


成果を上げる中間管理職がほしい。

強い幹部社員を「作り上げ」たい。

ゆえに、

「社員が劇的に変容するような
凄まじい効果をもたらす研修があるらしい」

と『ST』が紹介され、
そして展開されていったのでした。



■そして、研修から帰ってくると
目を見張るように変化をする社員をみて、
大手の企業が、次々に研修に送り込みます。


しかし、この著書で主に紹介される、

堀田氏のセミナー会社では、
独自開発をしたトレーニングで

かつ、”短期間で劇的な変化”を
求める企業の需要に答えようと、
次第に暴力まで使うようになっていきます。

そしてそれは、同様に
他のセミナー会社でも行われていました。


(以下、その一端を描いた箇所を
本書より引用いたします)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

STを導入する企業の社員たちの間で、
その得体のしれない訓練は恐怖の的になっていた。

暴力を講師するのは、堀田だけではなかった。

メンバー同士が殴り合うのも
日常的な光景であった。

「貴様ぁ!真剣にやっているのか。
前にでて、足を半歩ひらけ。
いま気合をいれてやるから、歯を食いしばれ!」

受講者の大半は、戦争を経験している。

<チェンジ>した古参兵が、
初年兵に向かって容赦なく「愛の鞭」をふりかざした。

「ありがとうございましたぁ!」

俺も殴ってくれ、と言うものまでが現れるのだ。


※本文より引用
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


、、、今見ると、明らかにおかしいですよね(汗)。

でも、当時は企業が
こぞって導入をしていた時期が、
実際にあったのです。


しかし、これらのトレーニングは
「精神療法」という人の心の深い部分に触れ、

場合によっては、
人格崩壊などもあるため、

ゆえに専門家が、
その兆候を捉えていることが必須。



■しかし、需要の増加により
きちんとトレーニングされていない者が

トレーニングを行い、
研修の最中自殺者が出るなどの影響があり、

週刊誌に取り上げられ、
そして堀田氏自身も逮捕されるなどで

次第に1970年代になり、
下火になっていったのです。


、、、そしてその過去は、

意識していないレベルでも
空気として今に続いている、

という現実があります。



■この書籍は、

この『ST』のセミナーをめぐる登場人物と、
その際に実際に起こった事故、
週刊誌に報道された記事、

それらの話と取材から

中心的な存在であった会社と
社長を中心にドラマのように描かれるため

壮絶な現場へと
タイムスリップさせてくれるような本です。




■かつ本の後半では、

『ST』の盛衰に続き、
これまたアメリカで起こった
ヒッピームーブメントの一つである


”ヒューマン・ポテンシャル・ムーブメント”
(=人間性回復運動)


という中での、

「自己啓発セミナー会社の勃興」

が描かれます。



■マズローの欲求五段階説の普及と、
「自己実現」という言葉が注目された背景もあり、

日常生活で満たされない人を始め
感情的な高揚感とともに、”自分を再発見”させる
自己啓発セミナー。


それは理論的に開発されたトレーニングの
一部を表面的に組み合わせたものであり、

感情的な揺さぶる、
自分を打ち破るような経験をさせる
号泣するような演出等があります。

そこで”自己変容”を体験する。


その後は、その感動を分かち合うという名目で
友人・知人を勧誘していくという
マルチ商法のモデルを活用し、

「心のネズミ講」

よろしく瞬く間に
参加者を増やしていった、
という特徴を持つ会社が目立つようになります。


■20代の人が主に
参加者の対象となりましたが、

”セミナー中毒”

のように高いお金を払い
その高揚感を得るために私財を投入し、
借金までしてしまう。

セミナーの中にしか居場所がなく、
職場や家庭で自己実現ができていない。

はたから見ると明らかに様子がおかしいのに
本人が気づいていないという状態、

でも本人は、本当にピュアに
善意で行っている。


一方、その気持を「無料奉仕」として
営業活動に見込み、商業利用している
自己啓発セミナー会社。

それらが流行した経緯から

「自己啓発セミナー的なものは
全部怪しい…」

となっている様子も
やはりあるようです。



■ポイントは、

「全部悪いわけではない」

ところ。


前半の、『ST』については、

参加した7割は、

「自己変容の経験をしており、
他者にも強く勧めたい」

と思っているという事実があります。


きちんとトレーニングをされた
トレーナーが扱えば、
それは「効果を発揮した」のです。


ただ一方、3割の人に
何らかの「心理損傷」が
現れるという危険性もある。


この事実が注目されずに
このような心を取り扱う手法について
知識がない、トレーニングをされていない人が
需要の高まりに追いつかず、安易に量産されてしまうこと、

これが問題なのでしょう。



■善意と商業が混ざったり、

善意と虚栄心が混ざったりすると、

特に、「人の内面や心」を扱う研修は
危険な方向に走ってしまうこと、

このことをこの本は、
訴えかけているように感じます。



■人材開発に関わる人は
その歴史的背景を知る上でも
ぜひ知っておいていただきたい一冊です。

実に面白く

「ああ、そういう背景があったから、
”自己啓発セミナー=あやしい”
という印象があるのだ」

と気づかせてくれます。


そして、私自身も「研修」という
この本の歴史の延長線上にいる身として
きちんと学び、理論的な背景と知識のもと、
トレーニングを届ける必要があると

自戒を込めて強く思った次第です。


実に興味深い一冊でした。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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<今週の一冊>

『心をあやつる男たち』
福本 博文 (著)


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