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4422号 2026年4月4日

「自己実現」には、時に苦しいものである ー読書レビュー『ユング心理学入門』 第7章 自己ー

(本日のお話 2992字/読了時間3分)

■こんにちは。紀藤です。

昨日は、4月から始まる高校の授業の教員向けの説明会でした。

実に20数年ぶりの高校のルールなどを聞いて、
改めて子どもたちに向き合う気持ちが沸き起こってきた時間でした。
授業のスタートに向けて、しっかり準備していきたいと思います。

楽しみになってきました。



さて、本日のお話です。

本日で最終章になりました「ユング心理学入門」です。

最終章らしく、人が生きること、成長することとはなにか?、
光と影を統合させることこそが生きることである、そんなメッセージを考えさせられる、哲学的で、思考と価値観を揺さぶられる章でした。

ということで、本章でのポイントを見ていきたいと思います。

それでは、どうぞ!

■心を発達させることは、「自己」を見つける旅である

ユングの考えのキーワードにあるものが「相補性」というものです。

タイプにおける「外向と内向」「思考と感情」、「ペルソナとアニマ」など、それぞれ対極的なものの間のダイナミズムに支えられて、私たちの心は全体性・統合性を持っています。

たとえば、タイプであれば、若かりし頃は「思考」を有意にして、論理性・客観性を軸に戦ってきたけれども、中年期になり「感情」を発達させようとして、急に情緒的な人になる。
あるいは、ペルソナとして企業戦士の仮面で外的適応をしてきた中で、あるときに自分の中の幼き頃の創造性や優しさを楽しむよう無邪気なアニマの存在に気づき、急に芸術に目覚める、などなど。

人の心の発達は、点ではなく、線。
ダイナミズムとは、自分の内側にある思考や感情などの機能のバランスが、「時」とともに移り変わっていく様子を示します。
一度得た(心の)安定を捨ててまで、人はどこかに置き忘れている、あるいは見ないようにしている新しい自分の機能や態度を発達させようと、「一度違う自分になる」「脱皮する」ようなことを求めるようです。

そうした旅路を「心の全体性・統合性」と呼び、『自己』の概念というようです。
(私の解釈で言い換えております。専門家の方から見ると違っているかもしれません⋯ご容赦ください)

■人生の究極の目的は「個性化」である

さて、第7章のタイトルである『自己』とはなにか。

まず、人が高い次元の統合性に向かう”意識を超えた働き”が生じることが、ユングの考えでは前提としてあるとします。以下、引用です。

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個人に内在する可能性を実現し、その自我を高次の全体性へと志向せしめる努力の過程を、ユングは「個性化の過程」、あるいは「自己実現の過程」と呼び、人生の究極の目的と考えた。
(P250)
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そして、高い次元の統合性に向かう”意識を超えた働き”の中心が「自己」である、とユングは考えたそう。
「自我」は意識の中心であり、「自己」は心の全体の中心である。

ユングは、私たちが普段「自分だ」と認識している「自我」と、無意識まで含めた全体性である「自己」を明確に区別しました。

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・自我: 外界(社会)に適応するための意識の中心。
・自己: 内界を統合する中心。男性性と女性性、思考と感情など、対立する要素を包摂するもの。
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「自我」を忘れると社会生活が破綻しますが、「自己」を忘れると人生の意味を失ってしまいます。この両者のバランスを保ち、高次の全体性へと向かう歩みこそが、ユングの言う「個性化」なのです。

◯相手の中に「自分の影」を見る

また、「自己」を考えるときに、「相手の中に自分の影を見る」という考え方も紹介されます。
たとえば「なんとなく認められない相手。でもその理由がわからない」という状況があるとします。

そんな時、実は認められない相手の中に、「自分の中のイヤな部分(認められない部分)」を見出していたり、あるいは「本当は自分もそうしたいのに、それを自由にやっている相手に嫉妬している」みたいなことです。

こうしたことを統合していくことも、「自己」の問題の一つです。
人との関係に向き合うことは、自分と向き合うことでもある。そして、自分の内界の問題が解決されると、不思議と人間関係の問題も解決する、ということが起こるわけです。逆もまた、然りでしょう。

ユングは「すべての周りにいる人が『自己』である」と述べたように、人が「自己実現」というときに、それは友人、兄弟、夫婦、親子など実際的な問題が関わってくるといえます。

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「個性化は二つの主要な面をもっている。まず一つは、内的・主観的な総合の過程であり、他の一つは同様に欠くことのできない客観的関係の過程である。ときとして、どちらか一方が優勢となることもあるが、どちらも片方だけでは存在することはできない」
P258
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■自己実現は「時計の針」を見てはいけない

そして、こうした「個性化の過程」言いかえれば、「自己実現の過程」のいて、”発達させる重要な「時」”の存在についても触れられています。
たとえば、以下のような「時」が、顕著に自己実現の過程として現れると述べます。

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・⑴第一反抗期と第二反抗期:6歳前後(小学校就学前)と10歳前後(小学3.4年生頃)。これまでと段階の異なる自主性の確立へと努力を払う傾向がある。時に破壊的な行動になることもある。

・⑵思春期:自我意識の確立のとき。

・⑶人生の後半に差し掛かった時:40歳前後(人生70年の感覚における40歳前後なので、現在では50歳前後でしょうか)。人生の後半に至るための転換期として重要である。「下ることによって仕事をまっとうする」逆説を生きることを統合していく。
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そして、こうした人の自己実現の過程、個性化の過程における、重要かつ意義深い「時」を、一般的な時(時計の針で見る)と区別をして考える必要がある、とも述べています。それを、「クロノス」と「カイロス」という表現で区別をしています。

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・クロノス=量として測れる客観的な時。つまり、時計によって測定できる(例:勤務時間、面接時間、劇場の開演時間、恋人との約束の時間)

・カイロス=意味やチャンスとしての主観的な時。内的な重要な体験など(例:素晴らしい芸術の鑑賞、恋人に会うなど)
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こうした「カイロス」という時間が訪れた時に、そうしたものを「クロノス」と混同しないこと。
1年や2年は、現代のおけるクロノスとしては長すぎる時かもしれない。しかし、「自己実現の過程」としては、必要な時=カイロスだったのかもしれません。

■まとめ:「自己実現」は苦しいものである

元々、「人の強みとはなにか?」という疑問から入っていき、強みの研究は特性論であることから、タイプ論の性格検査であるMBTI®を学んだことから、ユング心理学に興味を持ちました。
人の「強み」というと、何かのために役立てるという目的論的なものが前景化している印象がありますが、自分の足りないところ・抑圧していた部分を統合していくことこそが「自己実現」であるというメッセージ。それがユング心理学の魅力だと私は感じます。以下、本書から引用いたします。

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アメリカにおける自己実現の考えは、その光の部分のみを見て、ユングが述べているような暗い部分を見逃してしまっている点に、甘さを感じさせられる。
心理療法にたずさわるものとして、人間の成長の可能性への信頼をもつことは非常に大切であるが、自己実現に伴う危険性と苦しみをよく知っていることも必要なことであると思われる。
P260
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そのことに深く納得するとともに、人が「自分を生きる」ことの奥深さを、今一度立ち止まっている、そんな感覚を覚えています。
無邪気に「強み」本を書いていたほうが、ずっと楽だったのですが、それでもなお、この本を読んでよかったな、と思っている次第。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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