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3218号 2022年12月13日

「老夫老妻ヲ介護ス」「ベトナム帰還兵」…人の物語をしる質的研究

(本日のお話 2885字/読了時間4分)


■おはようございます。紀藤です。

昨日は1件のアポイント。

並びに午後からは
「生産性向上ワークショップ」の実施でした。

また夜は15キロのランニング。
久しぶりに5分/1キロくらいのペースで
まとまった距離を走りましたが、気持ちが良かったです。

2023年5月の野辺山100キロウルトラマラソンに
先日申込みをしたので、調整をしていきたいと思います。

まず目標は月150キロから。



さて、本日のお話です。

現在、大学院の論文を進めておりますが
その中で「質的研究」という
インタビューの発話データを元に
分析をする手法を行っております。

これが、なかなか面白いです。
(大変なのですが)

今日はこの質的研究について
その魅力を皆様にご共有させていただければと思います。

それではまいりましょう!

タイトルは



【「老夫老妻ヲ介護ス」「ベトナム帰還兵」…人の物語をしる質的研究】



それでは、どうぞ。



■「質的研究の論文って
 読んでいて面白いですよね」
 
大学院の同期の仲間が、
そんな事を言っていました。


何となくその肌感は
わかっていましたが、

最近、書籍や論文を読む中で
その感覚がより強くなっています。


質的研究は面白いのです。



■ちなみに「質的研究」とは何か?

ちょっとかしこまった
アメリカ心理学会(APA)によると
以下のようなに説明されますす。


”質的研究という用語は、

 自然言語(すなわち単語)や
 経験の表現(たとえば社会的相互作用や芸術的表現)の
 形式をもつデータを分析する
 
 さまざまな一連のアプローチを記述するために用いられる”
 
(※引用:サトウタツヤ他(2019).質的研究法マッピング.新曜社 P6)


とのこと。



■はい、ますます
よくわからなくなりました(汗)


私なりの解釈ですが、

物事が起こる原因や因果を、
因数分解して理由を研究するのが「量的研究」

だとすると(いわゆる統計とか)


因数分解しきれない、
細かな行間を含めた活動や
心理プロセスを研究するのが「質的研究」

というイメージ。
(注:あくまで私の解釈です)



■大学院の質的研究の授業では


”「量的研究」は、鍵盤楽器。
 ド・レ・ミと音階がハッキリ分かれている

 「質的研究」は、弦楽器。
 ド・レ・ミの中間部分で虹色のように存在している音がある。
 それを記述しようとするのが質的研究のイメージ”

 
というように説明されておりました。

抽象的な表現ではありますが

自然科学だと数字で示し、
その要因を明確に切り分けることが
できるかもしれません。

でも「人や集団の心理」を扱う
人文社会学ではなかなかそうもいかなそうですし、
その部分を見るには、統計だけでは見えないものも
確かにあるといえそうです。



■という「質的研究」。

そのアプローチ方法の一つに


『M-GTA』
(Modified-Grounded Theory Approach)


なる方法があります。


なんだか、必殺技か
車みたいなネーミングですが、

”人と人のかかわり合いで成り立つ人間の実践を
 理論化する質的研究のアプローチ”

とされています。


ポイントは

「現場に活かすための
 小規模の理論形成を目的とした研究」

ですよ、ということです。



■抽象的な話が続いているので、
具体的な事例をご紹介します。

ここから、少しでも
質的研究の面白さが伝わればと願いつつ。


例えば、

”老夫、老妻ヲ介護ス”(木下,2009)

という研究です。


これ、どんな研究かと言うと
「老々介護についての研究」です。

より詳しくいえば、

「高齢夫婦世帯の
 夫による妻の介護プロセスの研究」
 
なのです。


大都市にすむ
妻を介護している高齢夫21名に
インタビューをし、
そのデータを分析しました。


そうすると、その語りから
ある枠組みが見えてきます。


以下、上記研究から引用しつつ、
お伝えさせていただきます。


***

【”老夫、老妻ヲ介護ス”木下(2009)
 ~高齢夫婦世帯の夫による妻の介護プロセスの研究~】
 
 
・妻が発病する
 ↓
・家事経験がある夫もいれば、
 これまでない夫もいる
 ↓
・それからですね

ここから
<介護スキルの蓄積>がはじまる。



続いて、

<介護日課の構造化>

が起こる。たとえば

・妻のための介護時間の確保
・合理化するための工夫 あるいは

・介護のための中断
・応援親族が欠如している
・外部支援が限定的である
・予期せぬ失敗

という経験や行為が
始まっていく



一方、外部サービス活用も語られます
その中には様々な困難も含まれる。

・ナース・ヘルパーとの関係が不安定になる
・自身も介護保険を利用する
・介護保険への不満

などがあり、
この間での葛藤が起こることも。



そしてその中で

<改めて夫婦であること>

を認識する。

その中には

・妻への思いや
・妻への慮り 

もあれば、一方

・受容が困難

という状況を受け入れられないケースも起こる



そしてそれと並行するように

<砂時計の時間間隔>

があり、

・やり残し願望
・施設入所へのためらい

などがある。



これらの

・<介護日課の構造化>
・<改めて夫婦であること>
・<砂時計の時間間隔>

などが相互にバランスを取っているのが
高齢夫婦の夫による介護の現状である


これらのバランスがとれないと
悲劇的な結果としての

・共倒れ
・虐待

が起こり得てしまうことがわかった


※木下康仁(2020).『定本 M-GTA』.医学書院
 ”老夫、老妻ヲ介護ス”(木下,2009)を参考に編集”
 
***


という研究です。



■このように


「高齢夫婦世帯の夫による
 妻の介護プロセス」

と見たとき、

記述されたパターンは
ある仮説ではあるものの、
一つの小さな理論を形成しています。

21名のインタビューを通じて
小規模な分析対象者の中では

「小規模の中の理論」

ができたといえます。

そしてこれは
現場に活用しうる理論、

ともなります。



■たとえば

上記の理論で生成された図を
ケアマネージャーや介護スタッフが
理解し、用いることで

・夫の思考や感情状態の分析、
・必要な介入、必要な介護スキル獲得の支援

が可能になる、というのです。
(竹下,2021)



■そしてその他にも、
様々な質的研究があります。

たとえば、

◯「ベトナム帰還兵」の研究

:戦争に参加することとなったアメリカ人の若者を対象とした
 戦争参加前から帰還後の心理プロセスを描く。
 
 生存への切望、拭えない怒り、恐れなどが
 どのように立ち現れ、向き合っているのかを分析している

あるいは、

◯「死のアウェアネス」の研究

:終末期患者と医療スタッフの関係性についての研究。
 
 患者の気付きの封じ込め、患者の疑念の表面化
 治療の演じ合い(気付き隠し)、末期事実の公然化
 というプロセスを分析している
 
などがあります。



■これらはどれも

「ある人たちの物語」を
追体験とまでは言わずとも、
想像することを可能にします。


それはドキュメンタリーほど
生っぽさはない一方、

「小規模の理論」として
研究された手法で分析されています。

ゆえに、”確からしさ”は
より存在しているという意味では
重みがある、とも言えるかもしれません。



■今自分もまさに
このプロセスをやっておりますが、

このプロセスを楽しみつつ、
小規模の理論を見つけていきたい、

と思っている次第です。


ちなみに研究テーマは

「コーチングスキル獲得のプロセス(仮)」

を研究しております。

またご興味がある方は
ぜひ研究後、お話させてくださいませ!


最後までお読み頂き、ありがとうございました。


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<本日の名言>

現実とは、あなたの外側にあるだけでなく、
あなたの内側にもあるのです。

ドロシー・ロー・ノルト

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