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3382号 2023年5月28日

今週の一冊『対立の炎にとどまる――自他のあらゆる側面と向き合い、未来を共に変えるエルダーシップ』

(本日のお話 2915字/読了時間4分)

■こんにちは。紀藤です。

さて、毎週日曜日は
お勧めの一冊をご紹介する
「今週の一冊」のコーナー。

今週の一冊は

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『対立の炎にとどまる――自他のあらゆる側面と向き合い、未来を共に変えるエルダーシップ』

アーノルド・ミンデル (著)


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です。

■Sitting in the fire。
(炎の中に座す)

本著書の原題は
上記のタイトルで書かれています。

炎とは、
「対立」を比喩した表現です。

この対立の炎の渦中に、
自ら身を置くことで
新しいアウェアネス(=気づき)が生まれる、

これが本著書で伝えている
主要なメッセージです。

■本著書は既に20年以上前に、

『紛争の心理学』

として翻訳されており、
その復刻版となります。

前書きによると

・この著書は、紛争解決の専門家や
ファシリテーターのバイブルとして広く読まれており

世界中の政治・ビジネス・社会的リーダーが
本書で提唱する「プロセスワーク」を学びに来ている

と書かれています。

それくらい人の根本に根ざす
主要な考え方が表現されている、

とも捉えられそうです。

■「対立の炎」と表現されるように、

対立とは決して
心地よいものではありません。

個人と個人の対立もあれば
大きな文化的な対立もあります。

本書ではこの対立の構造を
より大きな構造で捉えています。

一言でいえば

”あらゆる個人的な対立は
世界中の問題と繋がっている”

としているのです。

■例えば、代表的な
現代に持ち越されている課題に、

・ソ連崩壊後の東欧諸国の対立

・アメリカに根深く残る人種差別

・日本企業におけるジェンダー問題

などが挙げられます。

そして、
現代の問題を注意深く眺めてみると

過去からの引き継がれた課題が
”対立の構造”を引き起こしている事に気づきます。

身近な日本企業における
ジェンダー問題も、

過去から引き継がれてきた
企業における男性優位の文化が

仕事と家事の役割における
無意識的なバイアスを生み出してしまい、
未だに子育て・家事は女性が中心、
という風潮を生み出している側面は
やはりあるでしょう。

■そして、その文脈に組み込まれた

ある日本家庭の夫婦で役割分担における
「対立」が起こるとしたらは、

それは個人の対立を越えて

大きな日本社会における
ジェンダー問題という対立が表出した
一側面である、、、

とも捉えられるわけです。

つまり、個人の対立も無意識的に
大きな対立のフラクタルな構造(相似形)と
して立ち現れる、ということです。

■本書で、

「対立によるアウェアネス」が
大切にされているのは、

”本当に重要で複雑な問題は
落ち着いて話をすることはできない”

からであると言います。

落ち着いて話ができるのは
基本的に扱いが比較的容易な時です。



著書ではこのように述べます。

”他者と仲良くやっていく術を学ぼうというのは、
安直な理想論だ。

市民フォーラム、ギャング、コミュニティ、
企業、大学などの問題に取り組むと、
様々な立場から圧力を受けることになる。

(中略)

けれども、このワークにど没頭し、
自分自身が引き裂かれることに身を委ねると、
何かが起こることがある。

そのとき、極めて困難な状況そのものが、
素晴らしい教師になりうるのだと認識し始めるだろう。”
(P77)。

■また、

”対立の炎に座す”

ことは、自分の内側でも、
様々な感情が引き起こされます。

例えば、

個人的な価値観、感情、過去の痛みが
思い出される。

価値観に近しい
どちらかに肩を入れたくなる、

あるいは、
特定の誰かを糾弾したくなる、

、、、など。

しかし

「対立」に巻き込まれている人は、
そう言わしめる何かが背景にある。

それらを評価・判断せずに
ただ受け止める(=炎の中に座す)というのは
まさに内的な成長が求められます。

■著書のミンデル氏はこうも述べます。

”(否定的に感じる)
彼らに対する私の攻撃的な感情を
受け入れなければならなかった。

また、私とは反する人々に対する
愛を学ばなければならなかった。

それは難しいことだったが、
自分の怒りを認められるようになってはじめて、
私は過去と現在の自身の傷や挫折を通じて、

本当は誰にも罪がなく、
みんなが一緒に目覚める必要があると気づくことができた”

、、、と。

「対立の炎」の中に

自らを晒すことは、
非常に普段で、大変なことです。

その文脈に当事者として
組み込まれていたとしたら、

「大変なこと」という言葉では表せないくらい重く、
リスクがあり、自らを落胆させ、
見て見ぬふりをしたくなることもあるでしょう。

■ただ、穏便に済ませようと、

抑圧された感情
満たされない要求
怒り、悲しみなどを

見て見ぬふりをして
微笑みを携えて対話を重ねても、

その対話の中は、

”本当は表出されたがっている何か”

に触れずにいようとすると

コアの部分に触れないものに
なってしまう可能性もあります。

■私事ですが、
このことを語る上で、
ある経験を思い出します。

私もこの著書で語られる
「プロセスワーク」を中心とした

『システムコーチング®』

という手法を約1年間かけて
学んだ経験があります。

その学びのコーホートの仲間とは、
今でも良き縁が続いているのですが、
「自分がこの仲間を大切にしよう」と思えたのは、

あるワークショップでの
対話がきっかけでした。



どういう対話かというと

「コーホート(集まり)の
今後のありたい姿を考える」

というテーマでワークをした時の話。

出てきた話は、

・みんなが繋がり合う
・お互いが深くなり合う

というようなビジョンが
それぞれ語られましたが、

一つにまとまるような空気に
ならなかった印象がありました。

私はなんとなく感じていた

「、、、とはいっても、みんな忙しい。
繋がり合う必要はないのでは?

それぞれが必要な人と
関係を続ければそれでいいし、
現実的だと思」

と水を浴びせるようなことを
語りました。

あくまでも個人としての感覚ですが、

それは場全体でどこかで流れている声を
代弁したように感じていました。

「対立」とまでは言わずとも、
場に波を起こす意見で合ったと思います。

その意見に対して

「とはいっても、全体としての
やっぱりこのつながりを大事にしたい」

という強い「場としての意見」が
生み出されていきました。

その一連の流れでは

・自分の思っていることを
率直に語り、それが受け止められたこと、

・その上で、新しい考えとして
「繋がりを作りたい」が生み出されていった過程に
自分が立ち会うこと

それを通じて、

自分もこの仲間を大切にしたい、
という思いになった経験がありました。

それは、「まあそうだよね」と
流していたら、決して生まれなかった感情だと思います。

■つまり、
小さな例ではありますが

”強い感情を場に出し、
生み出される対立の中で
生まれる気づき”

はある、ということ。

もっと重たいテーマでも
本書の中で数多く紹介されます。

■本書では

「対立」をどのように見立てて、
どのように向き合うのか、、、

そのための概念、考え方
具体的な事例などが
豊富に紹介されています。

著書を読み、私自身

「対立」とは必ずしも
避けるべきものではなく、

お互いが気づき、成長し、
次のステージに行くための機会である、、、

そんなことを感じさせられた著書でした。
(やっぱりこわいですが)

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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<今週の一冊>

『対立の炎にとどまる――自他のあらゆる側面と向き合い、未来を共に変えるエルダーシップ』

アーノルド・ミンデル (著)

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