今週の一冊 『血の轍』
(本日のお話 3253字/読了時間2分)
■おはようございます。紀藤です。
昨日土曜日は、宮崎にて
祖父の49日の法要でした。
その他、13kmのランニング。
大淀川という大きな川が宮崎には流れているのですが
その川沿いが良い感じで、気持ちよく走れました。
*
さて、本日のお話です。
毎週日曜日はお勧めの一冊をご紹介する
「今週の一冊」のコーナーです。
今週の一冊は
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『血の轍』(全17巻)
押見修造 (著)
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です。
■「血の轍、寝る前読んだんだけど、
重くて、眠れなかった・・・」
妻が、この作品の新刊が出るたびに
翌朝毎回口にしていたのが印象残っています。
今週ご紹介させていただく
本作品は、ビックコミックスペリオールで
連載されていた漫画です。
少し前に17巻をもって完結しました。
■その内容は、
表面的な物語としては
「いわゆる毒親とその息子のお話」
です。
しかしその実、読み進める中で
本作品が本当に描いているものは
「主人公である息子の
生涯に亘る内省の物語」
である事に気づきます。
■エピソードとしては、
かなり衝撃的です。
冒頭は美しい母、
そして平和な家庭(のように見える)
何気ない日常から始まる物語。
しかし、ある事件が起こることから
急激に物語は展開し始めます。
ネタバレになってしまうので詳しく語れないのですが、
ざっくり物語の概要をお伝えすると
・母の異常性が明らかになり、
やや狂気じみたストーリーの展開になる
・主人公の息子の中にある
”母に受け入れてもらいたい”という気持ちが
生々しく描かれていく
・母に受け入れてもらうことが
自らのアイデンティティの大部分になっていること。
そして、その葛藤が描かれる
・幼少期、思春期の母子関係の課題を
主人公の息子が向き合い、目を背けて
そして統合していこうとする
という物語です。
■作品をネットで調べると
関連検索ワードで
「おそろしい」
「こわい」
と出てくるのですが、
それは一貫して、
”なまなましい心理描写”
があるからだと思います。
読者の慮るわけでもなく、
内面に渦巻く強烈な苦しみや恐れや混乱などを
作者の画力を伴った絵と、
そして力のある言葉にするから、
リアリティが伴ったエンタメとなり、
目を背けられなくなる、、、
そんな感覚を持ちました。
■この本の著者が、
その作品について説明している
インタビュー記事がありましたが、
こんなことが書かれていました。
以下、引用です。
***
――『血の轍』の構想を得たきっかけは何ですか?
僕の漫画は、ファンタジーも含め、すべて私小説のような味わいがあります。
特に前作『惡の華』(講談社)は、僕の思春期の苦しみや孤独をもとにした自伝のような存在です。
『惡の華』で自分の描きたい内面世界はすべて出し尽くしたつもりでした。
ただその後、自分のテーマの一つである親子関係が
まだ描き切れていないという思いが湧いてきたんです。
思春期は母との関係にも悩んでいて。ぜんぶ出す覚悟で始めたのが『血の轍』です。
静一は僕の思春期がかなり投影された人物なんですよ。
――描くにあたって影響を受けた漫画家さんや作品は?
思春期の煮詰まった自意識は安達哲さんの『さくらの唄』、
内省の部分は、つげ義春さんの作品の影響を受けています。
自然と自分のことを考えさせられたり、
忘れたことを思い出させてくれたりするエンターテインメント作品が好きなんです。
だから自分が漫画を制作するときも、
まだ世の中にないテーマの内省できる作品を描いて、
まず自分自身がそれを読みたいって思うことが多いです。
※好書好日 「血の轍」押見修造さんインタビュー 思春期の母子関係の悩み、ぜんぶ出す覚悟で
***
とのこと。
「作者のあとがき」も
かなりインパクトがあるのですが、
この迫力は、
著者自身の悩み、苦しみや孤独を
ぶつけて描かれているのだな、と合点がいきました。
■少し前に、サビカスの
『キャリア構成理論』
という本で、
幼少期、思春期に母子関係で
適切な愛着が得られず、
自ら主体的に人生を選ぶことが難しく
内面の葛藤と不安を抱えながら
「漂う人」
というキャリアになった
事例がありました。
本作品『血の轍』を読んで
私の中ではつながるものを感じました。
「キャリア=轍」とも言います。
キャリアには生まれも影響します。
「生まれ=血」
ゆえに、この作品は
”生まれや育ちの中で
母子関係に注目して描いたキャリアの作品”
と考えることもできなくもない、
とも思えます。
■色々真面目に書きましたが
「究極の内省エンタメ」
とあるように、
目が離せなくなる作品です。
人によっては、
重たく感じる方もいると思うので
その辺りはご留意くださいませ。
以下、作品の紹介です。
(ここから)
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「惡の華」「ハピネス」「ぼくは麻理のなか」「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」など、
傑作を次々と世に送り出してきた鬼才・押見修造氏が、ついに辿り着いたテーマ「毒親」!
母・静子からたっぷりの愛情を注がれ、
平穏な日常を送る中学二年生の長部静一。
しかし、ある夏の日、その穏やかな家庭は激変する。
母・静子によって。狂瀾の奈落へと!
読む者の目を釘付けにせずにはおけない、渾身の最新作。
※Amazon本の紹介より
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(ここまで)
たいへん、面白い作品でした。
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<今週の一冊>
『血の轍』(全17巻)
押見修造 (著)
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