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3699号 2024年4月10日

自信がない人に特に有効?! 強みに基づくリーダーシップが革新行動を高める ~中国314名への研究結果~

(本日のお話 4613字/読了時間6分)

■こんにちは。紀藤です。

昨日は、午前は立教大学のビジネスリーダーシッププログラムの
授業前の顔合わせでした。

学生の皆さんと共に、これからリーダーシップを探求していきますが、実に楽しみです。
皆さんにとって、良い機会となるように尽力したいと思う時間でした。
また午後はコーチング実践研修の実施でした。



さて、本日のお話です。

本日は強みに関する論文「強みに基づくリーダーシップと、革新的行動のつながり」についてご紹介いたします。

ストレングス・リーダーシップ(強みに基づくリーダーシップ)というものがあります。しかし、実際にこのリーダーシップスタイルと革新的行動に関連があるかは、あまり知られていないよう。

本論文では、中国企業の314名を対象に、両者の関係性の繋がりを、中核的自己評価(自尊心や自己効力感など)の影響も踏まえて、研究をした内容となっています。

なるほどー、と感じる内容で、また新たな概念も手に入り、実に面白かったです。それでは、早速内容をみてまいりましょう!

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<今回ご紹介の論文>
『フォロワーの強みに基づくリーダーシップとフォロワーの革新的行動:中核的自己評価と心理的幸福感の役割』
Ding, He, and Enhai Yu. (2020). “Follower Strengths-Based Leadership and Follower Innovative Behavior: The Roles of Core Self-Evaluations and Psychological Well-Being.” Revista de Psicología Del Trabajo Y de Las Organizaciones 36 (2): 103–10.
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■1分でわかる本論文のポイント

・本研究では、「フォロワーの強みに基づくリーダーシップ」、部下の「革新的行動」「心理的幸福感」の媒介的役割、そしてこれらの関係における「中核的自己評価」が果たす役割の関係を分析した。

・その結果、「フォロワーの強みに基づくリーダーシップ(FSBL)」は部下の「革新的行動」と正の相関があった。また「心理的幸福感(PWB)」は、「フォロワーの強みに基づくリーダーシップ(FSBL)」と「革新的行動」の関係を正に媒介していた。

・加えて、「フォロワーの強みに基づくリーダーシップ(FSBL)」の直接的・間接的効果は、自己評価が低い部下ほど、自己評価が高い部下よりも大きくなることがわかった。

という内容です。

要は、「フォロワーの強みにフォーカスすると、フォロワーの革新行動が増える。なぜかというと、フォロワーの心理的幸福感が高まるから。ちなみに、この影響はフォロワーの自己評価が低いほど影響が強い」というお話です。

使われている概念も整理しつつ、詳しく内容を見ていきたいと思います。

■ストレングスリーダーシップとは

まず、本論文の基礎的な「強みに基づくリーダーシップ(SBL)」、そしてその概念を展開した「フォロワーの強みの基づくリーダーシップ(FSBL)」の定義について見てみましょう。

◯強みに基づくリーダーシップ(SBL)

●SBL特徴「強みに基づくリーダーシップ(SBL:Strength Based- Leadership)」とは、ポジティブ・リーダーシップ・スタイルの一種であ り、リーダーシップにおけるポジティブ心理学の具体的な応用を示すものです(Linley et al.,2007;Welchetal.)。SBLの概念は、従業員の成長と発展の余地が最も大きいのは強みの領域であるという仮定に基づいて提唱されています(Buckingham & Clifton,2001;Burkus, 2011)。

●SBLの目標SBLの主な目標は、自らの強みを活用し、フォロワーの強みの活用を促進することによって、個人と組織の目標を達成することです。強みをベースとするリーダーは、自分自身やフォロワーの弱みを無視するのではなく、強みの機能を最大化し、弱みの悪影響を最小化することに重点を置いていることに注目することが重要とされます(Clifton & Harter, 2003)

●SBLの行動強みに基づくリーダ ーは、強みの特定、開発、展開など、常に自分の強みとフォロワーの強みに投資することで、強みが職場で十分に発揮されるようにし、それによって組織の効率性、生産性、成功を向上させます。(Burkus,2011)

◯フォロワーの強みに基づくリーダーシップ(FSBL)

次に「フォロワーの強みに基づくリーダーシップ(FSBL:Follower’s strengths-based leadership)」ですが、これはフォロワーの肯定的な主観的経験を育成し、
最終的に組織の有効性を向上させるために、フォロワーの強みの特定、開発、展開を意図的に 促進しようとするポジティブ・リーダーシップのスタイルと定義されます。

先行研究では、FSBLがフォロワーの潜在能力を引き出し、目標達成を高め、高いパフォーマンスを育むことができることを示しています(Lee, 2015)。

SBLは、その対象が「リーダーが自身の強みに目を向ける」ものですが、FSBLは「フォロワー自身の強みを見つけ開発する」ものであるところが違いです。

■その他の概念

以下、本論文で取り扱われている概念についても、その定義を整理いたします。

◯中核的自己評価(CSE)

「中核的自己評価(CSE:Core self Evaluation)」とは「自尊心(尊敬と評価に値する)」「一般化された自己効力感(自分の問題解決能力に対する信念)」「統制の所在(自分に起こることに責任を持つ)」「情緒的安定性または 低神経質性(楽観的で疑いや心配がない)」の4つの下位次元からなる構成概念です(Aryeeet al.)。
4次元の下位概念と比較すると 、全体構成概念としてのCSEは、個人のアウトカムに対してより強い予測価値を持つことが示されています(Judge etal.)。
また、CSEは、ボイス行動(Aryee et al., 2017)、上司による業績評価(Kacmar et al.,2009)、キャリア決定の自己効力感(Jiang, 2015)、客観的・主観的キャリア成功(Stumpp et al., 2010)、仕事と生活の満足度(Judge et al., 2005)といった従業員の成果との間に有意な関係があ ることが確認されています。

◯心理的幸福感(PWB)

「心理的幸福感(PWB:Positive well-being)」とは、ポジティブな感情の相対的な存在とネガティブな感情の相対的な不在を含む、従業員の心理的機能の全体的な 有効性に関するグローバルな判断のこととされます(Wright & Cropanzano, 2004)。
理論的な観点からは、PWBは適応と自己実現に関連する個人内特徴を含むため、幸福とは異なる概念とされます(Wright & Cropanzano,2000)。

◯革新行動

革新的行動(Innovative behavior)とは「職務、グループ、組織において、職務遂行・グループ・組織に利益をもたらすために、新しいアイデアを意図的に創造、導入、応用 すること」と定義されています (Ramamoorthy et al., 2005,p.143)。

■研究の全体像

それでは、以下研究の目的、仮説、参加者と方法と分析結果について見ていきたいと思います。まず「研究の目的」についてです。

◯研究の目的
~~~~
1、FSBLと革新的行動の関係を実証的に検証すること。
2,推測を検証すること。(具体的にはリーダーシップ理論の代替物として、CSEのような個人の特性が リーダーシップを不要にし、不可能にする可能性があるとされているがこれらを検証する)
3、FSBL、PWB、革新的行動の関係に対する CSEの調整効果を調査することで
~~~~

これらの先行研究や概念を元に、以下のように本研究では以下の仮説モデルを立てて、検証することとしました。

◯本研究の仮説
~~~~~
仮説1:FSBLは革新的行動と正の関係がある
仮説2:PWBはFSBLと革新的行動の関係を媒介する
仮説3:CSEは、FSBLとPWBの関係を負に調整し、CSEが低い従業員の方がCSEが高い従業員よりも正の関係を持つ。
仮説4 :CSEは、PWBを通じた従業員の革新的行動に対する FSBLの間接的効果を、CSEが高い場合よりも低い場合の方がより正となるように、負に緩和する
~~~~~

◯参加者と方法

●参加者:合計314人(46.5パーセントが男性、平均年齢35.14歳)(医療、金融、教育など様々な中国の企業で働く中国人従業員)

●調査尺度(1)統制変数:
・性別、学歴、組織在籍期間が統制変数とみなした。
(2)フォロワーの強みに基づくリーダーシップ(FSBL):
・研究者が知る限り、本概念を測定するための先行尺度はない。FSBLの定義に基づき、「強みに基づく心理的風土」(vanWoerkom & Meyers, 2015)、「強みの活用」「強みの活用に対する組織的支援」(van Woerkom et al.)の5項目を作成した
(3)中核的自己評価(CSE):
・Judgeら(2003)によって開発された12項目の尺度で評価された。
(4)心理的幸福感(PWB):・Zhengら(2015)が開発した6項目の尺度を用いて心理的幸福感を評価した(5)革新的行動(Innovative behavior):革新的行動は、スコットとブルース(1994)が開発した6項目からなる尺度で評価した。

■結果

◯相関分析の結果

わかったこと1:FSBLは、PWBとCSEと革新的行動に正の相関があった→FSBLはPWB、CSE、革新的行動と有意かつ正の相関がありました。

わかったこと2:PWBは、CSEと革新的行動と正の相関があった→PWBはCSE 、革新的行動と正の相関があることが示され、またCSEは革新的行動と正の相関があることも示されました。

◯交互作用の結果

わかったこと3:FSBLと革新行動の関係における、PWBの媒介効果は、CSEが高いフォロワーに比べて、低いフォロワーほど強い媒介効果を示していた

→交互作用の結果から、PWBは、CSEが高いフォロワーよりもむしろ、CSEが低いフォロワーにおいて、FSBLと革新的行動との関連に対してより強い媒介効果を有していました。なお、これはH4を支持するものでした。

◯フォロワーのCSEレベルとFSBLの関係
フォロワーのCSE レベルが低いほど 、FSBL はPWBによりプラスの影響を与えることが示されました。

■まとめと個人的感想

ストレングス・ファインダーの研修を実施していたときにある経営幹部の方が「強みは自己効力感を高めるそうですが、元々自己効力感などがフルMAXで高い人にとっては効果がないのでは?」と質問されたことがあります。

そのとき、確かにその可能性はあるよな、、、と思っていましたが、強みに基づくフォロワーへのアプローチは「中核的自己評価(自尊心・自己効力感・統制の所在・情緒安定感)」が”低い”ほうがより有意な媒介効果を示す、というのが、まさにその答えを示してくれている、と感じました。

改めて、自分の自信がない人ほど、自分の強みを見つめていくこと、また自信がない部下に対してこそ、強みに光を当ててあげることが、革新行動などの成果を期待する上でも大事なことなのだろうな、そのように思った次第です。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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