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4070号 2025年4月17日

「儲かる業界と儲からない業界」があるのはなぜか? ーSCP理論が示す答え

(本日のお話 2954字/読了時間4分)

■こんにちは。紀藤です。

昨日は3件のアポイント。
また、大学の学生との1on1などでした。
その他、早朝に10kmランニング。夜はピアノのレッスンでした。
ピアノ発表会まで、あと11日。頑張ります…!



さて、先日から始めました『世界標準の経営理論』の読書レビュー、今日も引き続きお届けしてまいります。
全40章あるこの本。長いようですが、毎日1章ずつ解説していけば、40日ほどで読み終えることになります。そして、終えた頃には「経営戦略のメガネ」が手に入っているはずですし、たった1ヶ月で新しい視点が手に入ると思うと、ワクワクしますね
連続40日投稿するというわけではなく、他のテーマも挟みつつ進めていきますので、気が向いたときに読んでいただけたら嬉しいです。
それでは、本日の第1章をお伝えしていきたいと思います!

それではどうぞ!

■経済学ディシプリンの「10の理論」とは

まず、本書は3部に分かれていますが、第1部は「経済学ディシプリン」と呼ばれる領域から始まります。この中に10の理論が1章ずつ紹介されます。具体的には以下のような構成です。
――――
<第1部:経済学ディシプリンに基づく10の経営理論>
第1章:SCP論
ー構造的に儲かる業界、儲からない業界の違いを説明する
第2章:SCP理論をベースにした戦略フレームワーク
ー例:マイケル・ポーターのファイブフォース分析、ジェネリック戦略など
第3章:リソース・ベースト・ビュー(RBV)
ー企業内の経営資源に着目した理論
第4章:SCP vs リソース・ベースト・ビュー/競争の型の違い
ー競争戦略の基本理論の両者を整理する
第5章:情報の経済学
ー「情報の非対称性」が経済活動・意思決定に与える影響。
第6章:情報の経済学とエージェンシー理論
ーエージェントとプリンシパルの間に生じる利害対立と情報格差の扱い。
第7章:取引費用理論
ー組織の存在意義・存在範囲の一端を解き明かす理論。
第8・9章:ゲーム理論
ー長期的な戦略関係、繰り返し状況での協力と裏切りの分析など
第10章:リアル・オプション理論
ー「不確実性」下での柔軟な意思決定を投資の“オプション”として評価する理論。
――――
すでにこれだけでも、私はお腹いっぱいな気分になりました(笑)。
というか「経済学ディシプリン」と言うだけで舌を噛みそうです。(ちなみに”ディシプリン”とは、学問においては「専門分野」「研究領域」を意味するそうな)
押さえておきたいのは、これらの理論群は「経済学の考え方」、特にその前提にある「人間は合理的に行動する」というスタンスに基づいているということです。
――――
各人は自分にとって可能な行動の中で最も好ましいものを取る
— 神取(2014)『ミクロ経済学の力』より
――――
つまり、人で構成される企業もまた合理的に意思決定するものと考え、この合理性を前提とした経営理論がこの10個の理論だよ、というわけですね。

■「SCP理論」ってなんだ?

そして第1章で紹介されるのが「SCP理論」です。
このSCP理論は、ハーバード大学のマイケル・ポーターによる有名な「競争戦略(ファイブフォース分析など)」の元となった理論です。MBAの経営戦略の教科書では定番の内容でもあります。
SCPは「Structure–Conduct–Performance(構造ー遂行ー業績)」の略で、要は「自社の周囲の競争環境を少しでも“独占”に近づけることができた企業が、安定して高い超過利益を得られる」という考え方です。
例えば皆さんも、「儲かる業界」「儲からない業界」という話はなんとなく耳にしたことがあるのではないでしょうか。
例えば、米国では、製薬、金融、情報処理機器などの業界は、比較的利益率が高い傾向があります。
一方、航空、林業、金属産業などは株主資本利益率が低い傾向があります。

■キーワードは「完全競争」と「完全独占」

このような違いがなぜ起こるのか? それを説明するのがSCP理論です。
このSCP理論の重要なキーワードが、「完全競争」と「完全独占」です。
業界の構造が「完全競争」に近いか「完全独占」に近いか、その違いで利益率の違いが生まれるとされています。

◎「完全競争」はまったく儲からない
「完全競争」とは、以下のような状況です。

• 価格への影響力がない企業が多く存在しており(条件1)
• 参入障壁・撤退障壁が低く(条件2)
• 同じような商品・サービスを売り、差別化されていない(条件3)

こうなると企業間の競争は非常に激しく、最終的には利益が限りなくゼロに近づいていく…という構図になります。
品質に差がなければ、値下げ合戦になり、結果として「共倒れ」になってしまうというわけですね。
米国の航空業界は、1978年の規制緩和以降、100以上の航空会社が乱立し、まさに完全競争に近い状態にあるそうです。サービス面で差別化しようとしているものの、ビジネスモデル自体に差はなく、厳しい価格競争にさらされている状況とのこと。

◎「完全独占」はめっちゃ儲かる
一方、対極にあるのが「完全独占」です。
これは理論的なもので、実際にはこの状況にある企業は存在していません。
しかし、「独占に近い状況」はあり、身近でいえば、現在のGAFAなどのプラットフォームビジネスが近いイメージです。
市場において圧倒的なポジションを持ち、他社の影響を受けにくく、価格を自ら決められるような状況です。実際、過去にはMicrosoftがOS市場での支配的地位を問題視され、OS部門とアプリケーション部門の分割命令を受けたこともありました。
また、「製薬業界」も比較的独占に近い業界といわれます。
新薬を開発するのに約200億円の研究開発費がかかるため、参入障壁が極めて高い。結果として、企業数も限られ、価格決定権を持ちやすくなるというわけです。

■「完全競争」と「完全独占」の間のどこにいるか?

ここでのポイントは、完全競争と完全独占はあくまで“理論上の両極”であるということ。
また、この2つの間にあるグラデーション、スペクトラムの中で、自社がどこに位置するのかを考える。これがSCP理論の核心です。
そしてSCP理論を経営戦略に活かすには「できるだけ完全競争から離れて、独占に近づく」という方向に舵を切ることで、高い利益を目指すのが王道となります。
以下、図示されている「完全競争と完全独占のスペクトラム」にこの章の最も重要なエッセンスが詰まっている、とのこと。

■まとめと感想

SCP理論は1970〜80年代に登場したものですが、GAFAのような現代企業のケースにも適用できるなど、いまだに実用性の高い内容となっています。
私は「人材開発・組織開発」の業界に身を置いていますが、この理論を読んで、「自分のいる業界はどこに位置しているのだろう?」と改めて考えさせられました。
教育業界自体、それほど大きいマーケットではないものの、リクルートやパーソルなどの大手が価格の基準をある程度決めている中で、個人事業主がより低価格で提供している構図があります。
このような状況は、果たして完全競争に近いのか、それともニッチな独占が成立しうるのか。
もし自分が勝ち抜くとすれば、やはり「独占に近いプロダクトやサービス」を持つことが重要になってくるんだろうな…、などと思うのでした。(できるかどうかは置いておきます)
どこで戦うか、自分のポジションをどう取るかが、これは、経営だけではなく我々個人個人のキャリアにも当てはめられそうですね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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