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4082号 2025年4月29日

「営業をサボって小説を読んでいた話」を『エージェンシー理論』で紐解く

(本日のお話 3056字/読了時間4分)

■こんにちは、紀藤です。

『世界標準の経営理論』の読書レビュー、今日も引き続きお届けしてまいります。

本日は「エージェンシー理論」なるものを取り上げていきます。

これめちゃくちゃ面白くて、営業時代の「自分の営業サボってしまっていたエピソード」の理由が明確にわかりました(汗)

たとえば、「いやー、もうこれ以上は(数字)詰めないですね(汗)」といいつつ来期に数字を回してしまったあの話(今期は達成したからもういいかな)。

あるいは、「今日は夕方のアポがあるので、直帰します!」といいながら、当時ドハマリしていた『精霊の守り人(小説です)』を、カフェで読んでいたあの話…などなど。

当時の上司の方、ごめんなさい。(ちなみに基本は真面目にやっていました。数字もできるだけ今期に入れていました。ごくたまーに、そういうことがあったということです。←いいわけです。やっぱりごめんなさい)

▽▽▽

しかし、これも「人は合理的に考える」という経済学の前提に沿ってみれば、ある意味、皆に起こり得ることともいえます。

だって、「今期数字を詰めまくったら、来期の目標が上がって大変な上に、来期の数字が足りなくて詰められる」のだから、「今期達成しているなら来期に回したほうが合理的」というのは、十二分に想像できる話です。

こうしたことがなぜおこるのか? を理論として紐解くことができるのが、「エージェンシー理論」です。ということで、前置きが長くなりましたが、早速見てまいりましょう。

それでは、どうぞ!

■「エージェンシー理論」とは?

さて、「エージェンシー理論は」、取引が成立した後に生じる組織上の問題を説明する理論です。上記の私の例でいえば、「雇用契約を結んだ”後”に、私と会社の間に起こった問題(サボる問題、数字今期に詰め切らない問題)だったわけです。

別の例で、書籍では「保険ビジネス」が例に挙げられていました。

たとえば、Aさんが保険会社と、自動車保険の契約をしました。 Aさんは普段、注意深く運転する人でした。 しかし、保険に加入したことで「安心」してしまい、以前ほど注意深く運転しなくなりました。保険会社としては「え、慎重に運転してくれるから保険料安くしたのに…」となるわけで、残念な結果です。

――――
こうした現象を「モラルハザード問題(エージェンシー問題)」と呼びます。
(別名、プリンシパル=エージェント理論とも呼ばれます。 ・プリンシパル(依頼者):例えば保険会社。「注意深く運転してほしい」 ・エージェント(代理人):例えば加入者。運転する役割を担う)
――――

こうした関係性のなかで、プリンシパルが期待する行動をエージェントに委ねたとき、期待どおりにいかない現象が生まれる(=モラルハザード)、というわけです。

■「モラルハザード」が生まれる2つの条件

さてでは、なぜこうしたモラルハザードが起こるのでしょうか?
本章では、2つの条件が指摘されています。

◎原因1. 目的の不一致
プリンシパルとエージェントの間で、目指すところがズレること。 たとえば、保険会社は「注意深く運転してほしい」と思っていますが、加入者は「保険に入ったから大丈夫だろう」と油断してしまう。
(先の私の例で言えば、「今期の数字を作ってほしい上司」と「今期は達成したから来期の目標負担を減らしたい自分」がこれに当たります)

◎原因2. 情報の非対称性
プリンシパルが、エージェントの行動を逐一把握できないこと。 保険会社は、加入者の運転の様子を24時間見張るわけにはいきません。
(先の私の例で言えば、「営業で直帰します」といっても、それは上司にはわからない、というのがこれに当たります)

この2つが揃うことで、モラルハザードは生じやすくなります。

■組織にはモラルハザードがつきもの

こうした問題は、企業組織においても「必ず発生」するといわれています(ですよね)。
特に経営学で注目されている研究テーマでは、以下の2つのテーマが圧倒的に多いそうです。

1つ目が「部下の管理・監督問題」。
2つ目が「コーポレートガバナンス問題」です。

たとえば、部下の管理を考えてみましょう。

上司(プリンシパル)は、「部門の目標達成のために、部下に一生懸命働いてほしい」と願っています。しかし、部下(エージェント)は、必ずしも常に全力を尽くすわけではない。しかも、部下が外出先でさぼっても、上司はその行動をすべて把握できない。

という例です。この構図、どこかで見覚えがある方も多いのではないでしょうか。そう、私の例です。(たぶん、営業経験がある皆さんもあるはず)

しかし、これは一般社員だけではなく、同じ構造は、「社長(CEO)と部長」、「株主と経営者」の間にも存在するのです。

■経営者と株主の間にも起こるズレ

たとえば、経営者と株主の間で考えましょう。

経営者の任期は、2年2期という慣行が日本企業ではあるため、自分が経営者の間は、リスクをとって失敗するよりも、波風立てずに終わりたい。

一方、株主は「リスクをとってでもチャレンジしてほしい」と期待する。 このとき、やはり利害の不一致が起こります。

あるいは、経営者が「利益よりも、規模拡大」を優先することもあります。 なぜなら、利益を追求するには、人員削減や給与カットといったつらい決断が必要になるから。そこから逃げたくなる心理が働くのです。

こうした構造もすべて、「合理的な人間行動の結果」として説明できるわけです。

ここに対して、精神論で「誠実であれ」「本気を出せ」と叫んでも、この合理性の構造を無視すれば、組織はうまく回りません。だよねー、とこの章を読みながら心の中で呟いてしまいました。

■モラルハザード問題への対策

では、どうすればよいのでしょうか。本章では、2つの対策が提案されています。モニタリングとインセンティブです。

◎対策1. モニタリング
こちらは、プリンシパルが、エージェントを監視する仕組みを設けること。たとえば、
・上司が部下に定期報告を義務づける
・株主が社外取締役を置き、経営陣をチェックする
などです。これは「情報の非対称性」を少しでも埋めるための工夫です。

◎対策2. インセンティブ設計
エージェントの行動を望ましい方向に導くため、報酬制度を設計することです。たとえば、
・部下に業績連動型の給与を導入する
・経営者にストックオプションを付与する
報酬が成果に連動すれば、エージェントも自然と行動を変えるインセンティブを持つようになります。

■同族経営の強さ

最後に、本章で紹介されていた同族経営の強さについても触れておきたいと思います。

――――
同族経営──つまり、創業家が大株主であり、経営にも関与している企業は、非同族企業よりも業績が良い傾向があることが、1961~2000年の日本の上場企業を分析したデータで示されているそうです。
とくに、婿養子が経営に入るケースでは、所有と経営が一致しやすく、目的の不一致が起こりにくい。よって、短期的にも長期的にも、より大胆で筋の通った戦略をとることができるのです。
――――

これもまた、「人間の合理性」を前提に考えると、非常に納得感のある話だなと感じました。

■まとめと感想

改めて、「人間の合理性」を前提に世界を見ることで、これまで「なぜだろう?」と思っていた現象が腑に落ちました。

そして、精神論だけでは解決できない。
だからこそ、仕組みとルールで解決する。

「性善説で人を見るが、性悪説でルールはつくる」いった、ある経営者のお話にも、共通するように思ったエージェンシー理論の示唆でした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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