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4089号 2025年5月6日

人生の3つの財宝 ー読書レビュー『幸福について』#1-

(本日のお話 1998字/読了時間3分)

■こんにちは。紀藤です。

引き続き沖縄に来ています。
昨日は大学の授業準備での動画撮影など。
また家族と植物園へのおでかけでした。



さて、本日のお話です。

日頃から「強み」に関する論文を、研究の一環として読んでいますが、その土台となっているのが「ポジティブ心理学」です。
そして、ポジティブ心理学は、「人がより良く生きる・繁栄する(flourish=フローリッシュ)」条件を科学的に解明しようとしてきました。

シンプルにいえば「幸福」になるための方法論を探求しているこの学問と考えても、大きくはズレはないかと思います。

「人は幸福になるために生きている」。

そんな言葉が語られると、少なくない人が「まあ、そうかもしれない」と思いやすいのではないでしょうか。
なぜなら、不幸より幸せな人生のほうが快適だし、どちらを目指したいかというと、やっぱり幸せな人生であることに、否定的になる人は少ないと思うからです。

▽▽▽

そんな「幸福論」に対して、ペシミスト(悲観主義者)の哲学者ショーペンハウアーが1851年、彼が晩年63歳の頃に、『幸福について』という著書を記しています。

ショーペンハウアーは「人生は幸せな生活に合致するものなのか、あるいはせめて合致する可能性はあるのかという問いに対して、私の哲学はノーと答える」(P7)と述べているように、”人生とは退屈と欠乏と不満足に満ちている”と考えました。

そんな彼が『幸福について』を記していることが、ポジティブ心理学が好きな(私のような)人よりも、深みがあるメッセージであると感じるのでした。

ということで、この本について内容をご紹介しつつ、感じたことを共有させて頂ければと思います。

それでは、どうぞ!

■「人生は幸せでない」と考える哲学者の幸福論

「はじめに」で、ショーペンハウアーは「生きる知恵=人生をできるだけ快適に幸せに過ごす術」とし、それは「幸福論」ともいえる、と述べます。

しかし、そもそもショーペンハウアーの考えは、「人生は幸せな生活に合致するものではない」という立場です。
その中で「幸福論」なるものを書き上げるということは、彼自身のこれまでの立場を度外視していることで、加えてよくある通例の考えにとどまるという”迷妄”であり、条件付きの価値しか持ち得ないし、論述も完璧でもない、と述べます。

そんな風に、「はじめに」では、著作についての弁明のようなものが並ぶのが興味深く、そうした普段は異なる倫理的立場を持つショーペンハウアー
が述べる「幸福論」だからこそ、深みがあると感じるのでした。

■人生の3つの財宝

本書の「第一章 根本規定」では、幸福を形づくるものの参考例として、アリストテレス(紀元前384~322年)が述べたという『人生の3つの財宝』の話を引用します。以下の3つです。

――――――――――――――――――――――――――――
<人生の3つの財宝>
1.「その人は何者であるか」
・最も広義における人品、人柄、個性、人間性。
・ここには、健康、力、美、気質、特性、知性などが含まれる

2.「その人は何を持っているか」
・あらゆる意味における所有物と財産。

3.「その人はいかなるイメージ、表象・印象を与えるか」
・他者の表象・印象において何者なのか、他人の目にどのように映るか。
・その人に対する他者の評価であり、名誉と地位と名声にわかれる。
※P10より引用
――――――――――――――――――――――――――――

そして、幸福において最も重要なのが「1.その人は何者であるか」であるといいます。

たとえば、精神的な部分(=その人が世界をどう把握しているのか)であり、その人のものの見方が世界を貧弱なものにも、興味深く意義深いものにもなると述べます。

そして、最も長続きする喜びは、官能的な楽しみや、にぎやかな社交などではなく「精神的な喜び」である、それは主として持って生まれたものに左右されるとします(行動遺伝学でいう”楽観的な性格などと言い換えられるようにも思えます)。

「自分は何者なのか」とは、「どのような世界の見方をするのか」である。そして、それが本人の幸福に影響を与える、ということですね。

■幸福とは「自らに備わるもの」を活かすこと

そして、「自分は何者なのか」は「その人の身におのずからそなわるもの」であり、それは私たちから奪い取る事ができない恒常的で絶対的なものである、ゆえに他の2つの財宝よりも重要といいます。

ショーペンハウアーは、以下のように述べます。

――――――――――――――――――――――――――――
自力でできる唯一のことは、「今の自分は何者であるか」を最大限に活かすことであり、したがってそれにふさわしい熱心な企てのみを追求し、それに合った修行の道にはげみ、わき目もふらず、ひいては、それにピッタリした仕事や生き方を選ぶことである。
P17
――――――――――――――――――――――――――――

ヘラクレスのように頑丈で、並外れた筋力の持ち主は、それを活かす仕事に。また知的能力に圧倒的に秀でた人が、肉体労働をさせられるなどは、不幸な思いをすることになるだろう、とのこと。

■まとめと感想

ショーペンハウアーという、「人生は幸せにできているようになっていない」という立場の哲学者が、この話を語ることに深みを感じる章でした。

「はじめに」でも述べられたように、ショーペンハウアーからすれば、部分的で完璧といえない意見だとしても、「自身の”強み”を知る」「”強み”が活かせる場所を選ぶ」という、現在のポジティブ心理学にも通じる考えを述べていたところが、別の角度から捉えられた感じがした次第です。

ということで、また続きについても、後日ご紹介させて頂ければと思います。最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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