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4113号 2025年5月30日

この世のかなりの部分を説明できる?!「ゲーム理論」とはなにか

(本日のお話 2454字/読了時間3分)

■こんにちは、紀藤です。

昨日は、午前中「チェンジ・マネジメント」のオンライン研修の実施でした。

本日も、先日より続けております60万字の対策『世界標準の経営理論』の全章レビュー、引き続きお届けしてまいります。

本日は全30章のうちの「第8章 ゲーム理論」をご紹介いたします。

「ゲーム理論」という言葉は聞いたことがあっても、具体的にどういうものかは知りませんでした。
しかしこの章を読んでみると、どんなものかもわかると同時に、「なぜ牛丼チェーンは、価格競争をしてお互いに利益を圧迫してしまったのか?」「なぜ大阪のエスカレーターは右側に立って、東京は左側に立つのか?」などの理由にも説明がつき、大変興味深い内容でした。

ということで、早速中身をみてまいりましょう!

■「ゲーム理論」とは?

ゲーム理論について本章では以下のように説明されています。
――――
「相手がある行動を取ったら、自分はどう行動するか」あるいは、「自分がある行動を取ったら、それに対して相手はどう行動するか」といった、相手の行動を合理的に予想しながら、互いの意思決定・行動の相互依存関係メカニズムと、その帰結を予測するもの
――――

P152

たとえば、ファミリーマートとセブンイレブンとローソンは、コンビニの大手ですが、そのような競合他社の行動は、自社の戦略にも影響を与えます。

ふと思えば、10年ほど前にセブンイレブンにコーヒーマシンが置かれました。その行動によって集客が進み、セブンは一歩先を行ったと思われます。しかし、その行動により、追随するように次々に他社もコーヒーマシンを導入して、今では当たり前になりました。

そんな風に、戦略は自社や競合他社との相互作用で成り立つわけですが、その理由を説明するような理論とも言えるのか、と思います(これは私の解釈です)。

■ゲーム理論における「競争」の例

さて、この「ゲーム理論」にはいくつかの「ゲームの例」が存在します。
まずひとつが、生産量などの数量を意思決定する「数量ゲーム」と、意思決定を同じタイミングで行う「同時ゲーム」という二条件で説明される「クールノー競争」と呼ばれるものがあります。

事例として、上記のクールノー競争条件下における、A社とB社が「増産」と「現状維持」の意思決定をする、以下のようなシナリオがあります。

――――
シナリオ1: 両者共に2021年に現状維持を選べば、利益は共に前年と同じ15億ドルである。
シナリオ2: B社だけが増産した場合、市場は緩やかに拡大しているので、同社は新たな顧客を獲得でき、利益は25億ドルまで増加する。他方、現状維持のA社の利益は15億ドルにとどまる。
シナリオ3: 逆にA社だけが増産すれば、同社の利益が25億ドルとなる。現状維持のB社の利益は15億ドルにとどまる。
シナリオ4: A社とB社の両方が増産すると、緩やかな市場の伸びを超えて供給超過となってしまい市場の値崩れが起きて、両者の利益はともに17億ドルにとどまる。
――――
P153

■支配戦略とナッシュ均衡とは

◎「支配戦略」とは
さて、上記の条件において、A社とB社がお互いの戦略を読みあった上で、ゲームを行うと「自社の最適な戦略が見えてくる」ことになります。

たとえば、A社の立場からすれば、「B社が現状維持でも増産でも、”A社は増産をしたほうが利益が高くなる”」ので、相手がどう出てきても、「増産一択」になるわけです。

このように、相手の行動如何にかかわらず一つに絞り込める選択肢がある場合を「支配戦略」というそうです。

◎「ナッシュ均衡」とは
そして、B社からしても、「A社の戦略に関わらず、増産を選ぶのが合理的」となるので、この競争において、「シナリオ4」(両者の利益はともに17億ドルにとどまる)が最終的に定まる結果となるわけです。

「相手の行動の場合分けを行い、それを元に自社の最適な戦略を探し出す」ことで最終的に定まる結果(均衡)を「ナッシュ均衡」と呼びます。

しかし、悩ましいのが「市場としては両者とも17億ドルにとどまる」ということです。この結果、全体のパイは小さくなるということ。かといって、競合間で得た利益を山分けしよう!というのは、競争法上違法であることも多く、ナッシュ均衡はやむを得ない結果とも言えるようです。

▽▽▽

この結果、過剰生産→価格割れを繰り返す「半導体サイクル」のような現象がおきたり、牛丼業界や宅配業界の低価格合戦でお互いを消耗させるようなことが、起こってしまう理由になる、とのことでした。

普通であれば、寡占状態にあると利益率が高いはずなのに、こうした結果として完全競争と同じような水準まで利益率が下がることを「ベルトラン・パラドクス」と呼ぶそう。起こってしまう様々な現象に、きちんと名前がついているのですね…!

■まとめと感想

一番おもしろかったのが、本章のまとめです。本章の冒頭に「この世のかなりの部分は、ゲーム理論で説明できる」という理由がわかった気がしました。以下、引用いたします。

――――
我々のビジネス社会には、「なぜこんなことをするのだろうか」というような、その国特有の制度、慣行、不文律がある。
そしてそれらは、変えたくてもなかなか変わらない。
例えば日本なら、名刺交換などがそれに当たるかもしれない。
世界中のほかのどの国でもやらないのに、なぜ日本だけ恭しく名刺を交換するのかといえば、
それは「相手が恭しく名刺を出すなら、自分もそうしておこう」と、互いに合理的に空気を読み合った上でのナッシュ均衡だからである。
――――
P166

他にも、「なぜ大阪のエスカレーターは右側に立って、東京は左側に立つのか?」も、そうするほうが「合理的だから」というナッシュ均衡によって説明されるというのも、たしかに…!と納得してしまう話で実に面白く思った次第です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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