今週の一冊『とんび』
(本日のお話 2123字/読了時間3分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日は、朝から残っていた仕事をジョナサンにて集中して行い、
午後は、家族でららぽーとへお出かけでした。
また夕方からランニング12km。
たまたまナイトランの大会と重なりましたが、
他のランナーがいると、自然とペースが上がることに気づきます。
こうした周りの力を頼りにしたいな、と走りながら思った次第です。
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さて、本日のお話です。
毎週日曜日は、最近読んだ本から一冊ご紹介させていただく「今週の一冊」のコーナーです。
今週はこちらの一冊です。
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『とんび』
重松清(著)
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これまで、自分の中に深く心に残った本はいくつかありますが、その中で間違いなく上位に入るものが今回ご紹介したい『とんび』です。
今日はこの素晴らしい作品について、個人的な感想を多めに、その魅力を語ってみたいと思います。
それでは、どうぞ!
■■息子が「やすさん」と呼んだ日
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「ヤスさんが、やしゃんになるんよ。舌足らずのネンネじゃけん」
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重松清の小説『とんび』のワンシーンです。
主人公の不器用な父親、ヤスさん。家族三人、はじめての息子アキラが最初に口にした言葉が「やしゃん」だったことを喜び、うれしそうに顔をほころばせる場面です。
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私事ですが、私の名前は「やすゆき」です。
ゆえに、友人や妻からは「やすさん」と呼んでもらっています。
『とんび』の主人公ヤスさんのような「不器用だけどまっすぐで、短気だけど愛情深い」みたいな性格ではありません。「不器用でちょっとずるい、愛情深そうだけど実は淡白」な私ですが、同じ「YASUさん」です。
半年前、私の息子が4歳になりました。「パパ」ではなく「おとうちゃん」と呼ばせたくて、そう仕向けていましたが。しかし、ふと「やすさん」と呼ぶようになりました。妻が呼んでいるのを真似しているようです。
我が子ゆえでしょう、愛らしいその声と様子を見るたびに、冒頭の「やしゃん、やしゃん」というエピソードを思い出し、「『とんび』、また読みたいな」と思っていました。
そして、たまたま先日、仕事で疲れた夜、本棚にふと視界に入り、8年ぶりに本を開いてみました。すると、もうアウト。物語に引き込まれ、あっという間に深夜に。。。そして、ただただ、泣ける、泣ける…。
夜ひとりで読んでいてよかった、と思いました。ぱさぱさしていた気持ちにうるおいがもたらされて、あたたかい気持ちになりました。
■父と息子と愛情の物語
この物語は、不器用な父ヤスさんと息子アキラ、そしてそれを取り巻く人々の愛情の物語です。本書の概要にはこのようにあります。
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昭和三十七年、ヤスさんは生涯最高の喜びに包まれていた。
高度経済成長に活気づく時代で
瀬戸内海の小さな町の運送会社に勤めるヤスさん。
愛妻の美佐子さんとのあいだに待望の長男アキラが誕生し、
家族三人の幸せを噛みしめる日々。
しかしその団らんは、突然の悲劇によって奪われてしまう―。
アキラへの愛あまって、時に暴走し時に途方に暮れるヤスさん。
我が子の幸せだけをひたむきに願い続けた不器用な父親の姿を通して、
いつの世も変わることのない不滅の情を描く。
魂ふるえる、父と息子の物語。
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※AmazonのBOOKデーターベースより引用
あとがきには、著者の重松清さんが「不器用な父の物語を描きたかった」と書かれています。
そして、「話の中身はすべてつくりごとである。しかし、書き終えたあとで読み返してみると、ヤスさんの行動や言葉の一つひとつが、不思議となつかしく感じられた。(中略)ご縁あって本書を読んでくださったあなたの胸にも、それぞれにヤスさんに似たところのある誰かの顔が浮かぶといいな、と願っている」とのこと。
8年前の当時は「不器用な父であるヤスさんと息子アキラ」を、自分を”息子の目線”を中心に読んでいました。しかし、息子がこの世に生を受けた今、自分が”父の目線”として読んでいることに気づきます。当時は見えていなかった視点が見えてきて、まるで別の作品と向き合っているような気がしました。
「やしゃーん」とぐずっていたアキラ。中学生になり「べつに」と口数が少なくなる。そして受験で東京に行き、やがて働き、関わる時間も少なくなる。しかし、息子に片思いをするように、ただただ愛情と幸せを願っている。邪魔をしないように、不器用にふるまう。
共に歩める時間の少なさと、これから離れていく様子を想像して、なんだか切なくなるとともに、今という時間を大切にしたいと思わされます。
■年月は「心震わせる部分」を増やしてくれる
さて、自分がこの『とんび』の小説をメルマガで紹介させていただいたのは、2017年の4月9日(1151号)でした。
『とんび』 - カレッジサプリ
見てみると、「心震わせる部分」そしてその総面積が当時に比べて変わっているように感じました。
たとえば、物語にはさまざまな背景を持つ人々も登場します。子どもがいない幼なじみ夫婦、シングルマザーのスナックの女将さん、長らく縁がなかった忘れていた父親とのつながりなど…。それぞれが持つ「哀しみや痛み」も想像できましたし、「血でつながった縁」という、宿命のような消えない何かが匂う場面もたくさん出てきます。
しかし、物語の中枢をどっしりと流れるあたたかい軸は、「血でつながらないけれど大切な縁」であることに気づきます。「血のつながり」も大事だけど、それと同等・それ以上に大事なつながり(同郷の仲間など)の存在も考えさせられます。人は、親だけに育てられるわけではありません。8年前は、そうしたメッセージが、はっきりとは見えなかった気がします。
同じ物語でも、いろんな視点から見えるようになることを発達と呼ぶ、なんて聞いたことがあります。この変化が発達かどうかは知りませんが、いずれにせよ年月が「心震わせる部分」を増やしてくれたと感じます。
日々の忙しさに、忘れていたことを思い出させてくれる物語として、心よりお薦めしたい一冊です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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