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4442号 2026年4月24日

アイデンティティは3回壊れる?! 螺旋式に発達する心の話 ー『中年からのアイデンティティ心理学』#10

(本日のお話 2918字/読了時間4分)

■こんにちは。紀藤です。

さて、本日も引き続き、『中年からのアイデンティティ心理学』の読書レビューをお届けしております。
今日は「第6章 老いへの葛藤と成熟 ―高齢期への移行期」より内容のご紹介です。
中年期初期は40代のはじめ、そして中年期の後期は定年後の60代というようにいくつかのステージがあります。本章では、定年退職・子の巣立ち・体の変化が一気に重なる60代頃(高齢期への移行期)を取り上げています。

そこで起きる「喪失」と「アイデンティティの危機」、そしてそこからどう立ち直っていくのか、という話です。それでは、どうぞ!

■60代に重なる「3つの変化」

社会慣習上の区分では、還暦が60歳、古希が70歳。そして多くの企業・官公庁の定年は65歳前後です。そのため、おおよそ60代が「高齢期への移行期」と位置づけられます。この移行期には、大きく3つの変化が重なると言われています。

(1)身体的・生理的な変化
40歳前後から始まる肩こり・腰痛・筋力や持久力の低下、疲れやすさ。生活習慣病のリスクも増えていきます。女性の場合は、更年期に伴う心身の変化も加わってきます。

(2) 家族関係の変化
50代になると、子どもたちが就職・結婚と自立していきます。「親」としての役割が少しずつ終わりに向かい、今度は「祖父母」という新しい役割が生まれてくる。子どもの成長は喜びでもあるけれど、その一方で「対象の喪失」という体験でもある、と表現されているのが、興味深かったです。

(3) 職業における変化(定年退職)
そして、最も大きな変化が、定年退職です。詳細は、この後に続ける「4つの喪失体験」にて解説いたします。

■定年退職がもたらす「4つの喪失体験」

定年退職は、職業生活の終わりを示し、アイデンティティにとって非常に大きな問いかけとなります。本書では、定年期に経験される喪失として、以下の4つが挙げられています。

(ここから)
ーーーーーーーーーー
(1)生活を守ることへの不安
→収入が途絶えることへの経済的な不安です。
(2)所属集団から離れる不安
→長年属してきた組織・仲間・肩書きから切り離されること。「◯◯会社の人間だ」という帰属意識が消えることで生じる、役割喪失感や社会的地位の低下の感覚です。
(3) これまでの蓄積が無になる不安
→長年かけて積み上げてきた経験やスキルが「もう必要ない」と言われるような感覚。あれだけ頑張ってきたのに…という虚無感、でしょうか。
(4) 自己実現の場を失う不安 仕事を通じて「何かをなしとげる」という場がなくなる。これは経済的な話というより、「自分はここにいていいのか」という、存在意義への問いに近いものだと思います。
ーーーーーーーーーー
(ここまで)

これらはいずれも、「半ば強制された喪失体験」として訪れるとのこと。望んでいたかどうかに関わらず、時が来れば訪れる。だから否定的な意味合いを帯びやすい、と言われるのも、なるほどな…と思います。

■「危機」をどう受け取るかの7つのパターン

では、こうした定年退職という「危機」に直面したとき、人はどう反応するのでしょうか。本書では、以下の7つのパターンが紹介されています。

(ここから)
ーーーーーーーーーー
A.積極的歓迎型:危機を乗り越え、新たなアイデンティティを自ら切り拓く
B.受動的歓迎型:受け入れつつも、主体的な再構築まではできていない
C.中立型:危機として捉えず、問題意識も特にない
D.危機型:危機を認知し、まだ葛藤の真っ只中にいる
E.諦め型:なりゆきに任せて、流れていく
F.逃避型:向き合うことを避けて、目をそらし続ける
G.アンビバレンツ型:揺れが続き、どちらにも定まらない
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(ここまで)

ちなみに、「アイデンティティの状態と7つのタイプの組み合わせ」では、以下のように説明されています。

(ここから)
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・アイデンティティ達成 → A
・モラトリアム → D、G
・早期完了 → B
・アイデンティティ拡散 → C、E、F
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(ここまで)

この7つのパターンで「アイデンティティ達成」に至るかどうかを分かつのは、大きく2つの問いです。

1.定年退職をきっかけに訪れた否定的変化を"危機"と認知するかどうか
2.その危機と、ちゃんと葛藤したかどうか

短期的には、危機を認知しない方が「楽」に見えるかもしれません。でも、なぜ自分が生きるのか、自分は何者なのか、そうした深いところでの「納得感」があるかどうかが、人生後半の豊かさを左右するのだと思われます。

誰かのせいにせず、環境のせいにせず、「自分の問題として消化しようとすること」。それがアイデンティティの発達であり、「心の発達」と呼ばれるものではないだろうか、私にはそのように感じました。

■アイデンティティは「螺旋」を描いて発達する

ここで、本章の最後に紹介されている、とても印象的な考え方をご紹介したいと思います。アイデンティティは「一度確立したら終わり」ではありません。

本書では、アイデンティティは螺旋式に発達すると述べられています。人生の中で、少なくとも3回、大きな危機が訪れると述べています。

(ここから)
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1度目は「青年期」。 「自分は何者か」という問いに、初めて本気で向き合う時期です。
2度目は「中年前期(40代頃)」。 これまでの価値観が揺らぎ、「このままでいいのか」という感覚に包まれる。いわゆる"中年の危機"です。
3度目は「定年退職期(60代頃)」。 身体・家族・仕事の変化が重なる中で、再び「自分とは何か」を問い直すことになる。
ーーーーーーーーーー
(ここまで)

右肩上がりではなく、螺旋を描きながら。危機のたびに自分を問い直し、再構築することで、人は少しずつ深みを増していく。これを読んで、個人的にはなんだか安心しました。ある意味、社会的にこうしたアイデンティティの揺さぶりは定期的に訪れてくる(現代では)とされているし、「危機が来た」ということは、弱さではなく、成長のサインなのかもしれない。そう思えると、少し気持ちが楽になりました。

■まとめと感想

また、個人的な話をすると、私は今、独立して活動しています。会社員として定年を迎えるわけではないので、定年退職期における喪失の形は少し違うかも知れません(そもそもこの形を続けるならば、定年はないですし)。

しかし、だからこそ思います。自分が60歳の時に最も輝いていられるために、今の自分に何ができるか。そのイメージを持ちながら動いていけるなら、節目ごとにアイデンティティを問い直すことで、むしろより深く「自分の軸」を見つけていくこともできるかもしれないな、と。

郷ひろみ氏の著書の『黄金の60代』という書籍を思い出しました。
郷さんは、アイデンティティ危機を、体験的に知り尽くしていたのかもしれませんね…!

危機は、避けるものではなく、くぐり抜けるもの。螺旋を描きながら、少しずつ成熟していく、そんな人生観が味わい深く感じられた次第です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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