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2911号 2022年2月9日

ストレングス・ベースのコーチングの効果を紐解く(その4) ~リーダーシップに与えた影響/3つの結果からわかったこと~

(本日のお話 3756字/読了時間5分)

■こんにちは。紀藤です。

さて、本日のお話です。

先日に引き続き、本日も
「強みとコーチング」の論文について、
紐解いていきたいと思います。

昨日までは、

・ストレングス・コーチングのオーストラリアの研究の全体像
・コーチング有効性に関するエビデンスについて
・ストレングス・ベースのコーチングの手順

についてお伝えしてきました。

本日は

「具体的は結果として
どのような成果があったのか?」

について読み解いていきたいと思います。

※参考・引用論文は、

ダグ・マッキー博士(CSAコンサルティング)
『THE EFFECTIVENESS OF STRENGTHBASED EXECUTIVE COACHING IN ENHANCING FULL RANGE LEADERSHIP DEVELOPMENT_A CONTROLLED STUDY』(2014)
(ストレングス・ベースのエグゼクティブ・コーチングが、フルレンジ・リーダーシップ開発を強化する上での影響:対照研究)

です。

それではまいりましょう!

タイトルは、

【ストレングス・ベースのコーチングの効果を紐解く(その4)
~リーダーシップに与えた影響/3つの結果からわかったこと~】

それでは、どうぞ。

■さて、今日のお話は、
「ストレングス・ベースのコーチングの結果」
について、実際どうだったのか?

というお話です。

、、、ということで、
本題に入る前に、結果を測るための

「評価とは何か?」

について少しお話したいと思います。

■研修、研究等について
「評価」をするときに、
いくつかのやり方があります。

そして、それらのやり方によって
信頼度が変わってきます。



その評価手法のバリエーションは
大きく3パターンです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<評価手法のバリエーション>

(1)一群事後
・特徴:事後のみに測定を行う(事後アンケートのみ)
・メリット:運営側に工数がかからない
・デメリット:beforeーAfterで変化側からない

(2)一群事前事後
・特徴:事前と事後に、反復で測定を行う(事前と事後で比較)
・メリット:2回測定するので”のび”がわかる
・デメリット:事前データをとる工数・準備がかかる

(3)二群事前事後
・特徴:統制群(何もしない群)を設ける。
事前事後2つの群(研修を行った群:何もしない群)で測定し、
効果測定をより精緻に行う。
・メリット:研修の効果の信頼性が高まる
・デメリット:工数がかかる

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

要は、

・梅コース((1)一群事後)=研修参加者への事後アンケート
・竹コース((2)一群事前事後)=前と後で研修参加者のアセスメント等の比較
・松コース((3)二群事前事後)=前と後で研修参加者のアセスメント等の比較 + 何もしない対照群を作る

みたいな感じでしょうか。

梅→竹→松の順で、
より信頼度が高まる評価方法になります。
(手間も増えますけどね)

■そして、今回の論文の
ストレングス・ベースのコーチングの結果は

・松コース((3)二群事前事後)

という評価を行い、比較をしています。
ゆえに「信頼度は高い」と言えそうです。

■さて、ではどのように
介入をして、データ分析をして、
そして結果を導いたのでしょうか。

具体的に、以下のようなプロセスで行いました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<実験群への介入方法>

●{グループ1(実験群):ストレングス・ベースのコーチングの実施}

◯コーチ:名門ビジネススクールのコーチ陣(11名)、70%が修士取得、
平均28年のビジネス経験あり、開業心理士の資格を多くが持つ

◯実施方法:強みに基づいた開発目標を設定するフォーマットを元にコーチングを実施(90分✕6回)

◯第1回目ストレングス・ベースのコーチングの実施内容

STEP1)「ストレングス・ベースのインタビュー」:
ピーク時の経験や仕事の活力源に焦点を当ててインタビュー

STEP2)「『Realize2』アンケート(オンラインの強み開発ツール)」:
何が彼らを活気づけたのか、どこで自分の能力を感じたのか、
どこで自分の強みを生かす機会があったのかをフィードバック

※これによって、
・実現された強み(知っていて活用されているもの)
・未実現の強み(知っていても活用されていないもの)
・学習された行動(能力はあるが活力がないもの)
・弱み(能力と活力の両方が低いもの)
に関してのフィードバックを得ることができた

STEP3)「多因子リーダーシップ質問票(MLQ)の360度評価の結果フィードバック」:
変革型リーダーシップ
取引型リーダーシップ
自由放任型リーダーシップを含むフルレンジ・リーダーシップの各スコアで
定性的・定量的なフィードバックが行われた

STEP4)コーチング中に焦点を当てたい3つの目標を設定
・実現している強み
・実現していない強み
・学んだ行動や弱点

◯第2~6回目ストレングス・ベースのコーチングの実施内容

STEP1)第1回目に立てた目標に対する進捗状況の確認、
および、目標達成のための行動の約束をする

STEP2)ストレングス・ベースのコーチングマニュアルに記載がある
・自分の強みの認識
・調整
・ペアリング
・活用の振り返り
・評価
によりセッションごとの進捗状況を確認

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

とのこと。

、、、ちなみに「対照群(グループ2)」については
以下の通りの実施をしました。

「待機後に、少し時間をおいて
ストレングス・ベースのコーチングを実施する」

という流れです。

つまり、

・グループ2(対照群)は、
グループ1(実験群)のストレングス・コーチングの第1回目は
「待機」している。

・グループ1(実験群)の第2回目の実施から、
グループ2(対照群)は第1回目のコーチングを開始する
(開始時期に時差をもたせる)

・1回目・2回目とそれぞれの対照群で調査をすると
受けている時/受けていない時差が生まれる。

よって、それぞれのタイミングでの評価を比較することで
ストレングス・ベースのコーチングの効果が見られる

、、、とのこと(ちょっと複雑ですね)

※ちなみに余談ですが、
この実験で「対照群には何もしない」という選択をしなかった理由は
対象者に対して、

「なんであの人達だけやって、
私たちはコーチングやってくれないの?」

という意見も考慮しての実験だったのでは、、、
と推察しております。(実際はどうかはわかりませんけど)

■そして、

上記の介入を踏まえて調査をし
それらをデータの分析をしました。

やり方は、こんな内容です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<データ分析>

・1回目と2回目において
グループ1実験群とグループ2対照群の平均値を比較した
(対照群も2回目から介入するため、1回目と2回目の違いみ)

・観察数を最大化するために(回答数が多いほうが、信頼度も高まるため)、
異なるレベルの参加者を組み合わせ評価した(自己、上司、直属の部下、同僚)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

■そこからわかった結果がこちらです

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<結果>
フルレンジ・リーダーシップの質問票において
それぞれ以下のような結果がわかった

●結果1)変革型リーダーシップに与えた影響

→変革型リーダーシップの以下の5つの全てのスコアに対して、
実験群は「有意な向上」が見られた

*「変革型リーダーシップ」の要素
・理想化された属性
・理想化された行動
・刺激的な動機
・知的な刺激
・個別の配慮

●結果2)取引型・受動的・回避的なリーダーシップスタイルには
一部に影響があった

→ 以下の中で、実験群は
「自由放任主義(関与を避ける)」が「有意に減少」した

*「取引型リーダーシップ」の要素
・条件付きの報酬
・例外による管理(ミスの監視など)

*「受動的・回避行動」の要素
・例外による管理(消火活動)
・自由放任主義(関与を避ける)→◎ここに影響あり

●結果3)リーダーシップのスコアに対する影響

→ リーダーシップアウトカム(有効性、満足度、余分な努力)という
3つの指標について、全てが「有意に増加」した

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(ここまで)

とのこと。

そして上記の変化、特に結果1)は
対照群で実施をしていない時間帯に影響がなかった等から

結果、この実験では

【ストレングス・ベースのコーチングは、
変革型リーダーシップの要素を向上させる】

と言える、という結論でした。

■さて、
以上ストレングス・ベースのコーチングの介入、
結果をまとめてみました。

ちょっと堅苦しい言葉や表現も
多かったようにも思いますが(汗)
このように構造化されて整理されると、
見えてくるものが多くあると感じます。

例えば、

「暗黙知」
(言葉されていない・共有されていない知)

が介入手法、分析、結果を明らかにすることで
明確で、自信を持って語ることができる

「形式知」
(言葉にされ、共有されて、皆が使えることができる知)

として使えそうな感覚が得られる
とも思えます。

ゆえに先人の知恵について探索し、
咀嚼していくことで、

『自分のカード(武器)が広がる』

という感覚を持つことができる、
とも感じます。

■かつ、このような
掘り下げるプロセスは

『自分の視野が広がる』

というメリットもあります。

例えば、

「ストレングス・ベースのコーチングの専門家が、
世界にはいるのだ」

と認識が広がり、

そこからその人(今回で言えばダグ博士)の背景に
興味を展開させていくと、更に世界が広がります。

調べてみるとダグ博士は

『Strength-Based Leadership Coaching in Organizations:
An Evidence-Based Guide to Positive Leadership Development (English Edition) 』

という著書をKindleで出版しています。

ここにはより詳しい
「ストレングス・ベースのコーチングのエビデンスややり方」
が書かれています。

こういった本は、ベストセラーなるものではなく、
一般的に知られていません。(日本ならなおさらそう)

しかし必要な人にとっては珠玉の情報が含まれている、
という一冊になります。

これらも、

”掘り下げてみなければたどり着けなかった”

わけでありますし、
そういった意味でも、改めて

「論文を掘り下げて
専門的な視野を獲得する」

という手法も、大変有用なのだろう、
と感じます。

■深めて、広げる。

広げて、更に深める。

そんな風に自分自身の専門領域を
広げていきたいものだ、

そんなことを感じた次第です。

ということで改めて長文、
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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<本日の名言>

創造性を得るには、
確実性を手放す勇気が必要である。

エーリヒ・フロム(ドイツの精神分析学者/1900-1980)

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