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3358号 2023年5月4日

ドラッカーの語る「マネジメントの技能」ってなんだ?

(本日のお話 6158字/読了時間6分)

■おはようございます。紀藤です。

引き続き、宮崎に来ております。

大学院の仲間との打ち合わせ。

のんびりした家族とともに、
本を読んだり、散歩したりしました。
時間がゆっくりと流れております。



さて、本日のお話です。

引き続き、本日も

『マネジメント 基本と原則(エッセンシャル版)』
P.F.ドラッカー


を元に、
ドラッカーの語るマネジメントを
紐解いていきたいと思います。

本日は「第6章 マネジメントの技能」です。

それではまいりましょう!

タイトルは

【ドラッカーの語る「マネジメントの技能」ってなんだ?】

それでは、どうぞ。

■「第6章 マネジメントの技能」の
冒頭は、このように始まります。

(以下、引用)

”マネジメントとは、一つの仕事である。
したがって、それには特有の技能が必要とされる。

いかなる者も、それらの技能すべてを
完全に習得することはできない。

しかしマネジャーたるものは、
それらの技能が何であり、いかに役立ち、
何を要求するかを理解しなければならない。

特に基本的な技能についての
基礎知識を持たなければならない”
(P149)

、、、と。

■マネジメントは一つの仕事。

そしてそこには
「特有の技能」「基本的な技能」があると
いうのです。

さて、ではその基本的な技能とは
一体なんなのか、、、?

それをドラッカーは

・『意思決定』
・『コミュニケーション』
・『管理』
・『経営科学』

の4つの項目として
本章で節として示されています。

ということで、
一つずつ見ていきたいと思います。

■まず最初に紹介されるのが

『意思決定』

です。

意思決定の好例として
「日本流の意思決定のコンセンサス」が
本書では紹介されています。



え、日本?
失われた30年とか言われてるのに?

と思われた方もいるかもしれませんが

本書の初版は1974年と
日本企業が席巻していた時代です。

その点も含め注目されていたと思われます。

その中では、

「日本流の意思決定のエッセンス」として
として、以下の5つの要素を紹介していました。

1,何についての意思決定を決めるかに重点を置く
2,反対意見を出やすくする
3,当然の解決策よりも複数の解決策を問題にする
4,いかなる地位の誰が決定すべきかを問題にする
5,決定後の関係者への売り込みを不要にする

つまりこれは

日本の調和を重んじる文化も影響した
「合意形成のプロセス」が評価されたようです。

こうしたものがアメリカのスピード感を持って進める方法とは違う、
しかし効果的なプロセスとして紹介されました。

■そして、次に
「意思決定のポイント」として

ドラッカーは具体的に、
以下のような点を挙げています。



◯「問題を明確にする」
:問題に対する答えは人によって違うが、
答えの違いの多くは、何についての意思決定かについての認識の違いから生ずる。
間違った問題に対する正しい答えほど実りがないものはない。

◯「意見の対立を促す」
:マネジメントの行う意思決定は、全会一致によってなされるようなものではない。
対立する意見が衝突し、異なる見解が対話し、いくつかの判断の中から選択が行われて
初めて行うことができる。意見の対立を見ないときは決定を行わないことが原則である。

◯「意見の相違を重視する」
:ある案だけが正しく、その他の案はすべて間違っていると考えてはならない。
なぜ他の者は意見が違うのかを明らかにすることからスタートしなければならない。
何か自分と違う現実を見、自分と違う問題に関心を持っているからに違いないと考えなければならない。

◯「行動すべきか否か」
:行動するかしないかの指針は以下の2つである。
1、行動によって得られるものが、コストやリスクよりも大きいときには行動する
2、行動するかしないかいずれかにする。二股をかけたり妥協したりしてはならない。

◯「意思決定の実行」
:意思決定の中に実行の手順や責任を組み込んでおくことも必要である。
決定を実行に移すためには、次の問いを考えること。
ー この決定を知らなければならないのは誰か
ー とるべき行動は何か/それはなぜか
ー 行動をとるべき者が行動できるためには、その行動はいかなるものでなければならないか

◯「フィードバックの仕組み」
:決定後の状況が、想定したとおりに進展することは少ない。
実行の成果からのフィードバックがないかぎり、期待する成果を手に入れ続けることはできない。
そのために、
1,意思決定の前提となった予測をはっきりさせる(書面で明らかにする)
2,決定の結果について体系的にフィードバックをする
3,フィードバックの仕組みを実行前に作り上げておく

(P152 ~156)



とのこと。

■「意思決定」において、

・意思決定をする”前提”や
・意思決定を行う”プロセス”、
・意思決定を実行するための”ポイント”

などを整理しておくことが
マネジメントの技能として必要である、

として、その瞬間だけではなく
意思決定の全体像を整えることが
重要であるというメッセージにも感じます。

■次に、

『コミュニケーション』

です。

コミュニケーション、
日常でもよく使われる言葉である一方、

それが意味することが正確にはよくわからない
(人によって認識しているものが違う)

言葉の一つかと思います。



ドラッカーはこのコミュニケーションについて、
「4つの基本」として以下のことを述べました。

(ここから)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
<コミュニケーションの4つの基本>

1)コミュニケーションは「知覚」である

:「誰も聞かなければ、音はない」というように、
コミュニケーションは知覚され、感じられてこそ意味を持つものである。
(つまり、「言いましたよね?」だけでは意味がない。
受け手が理解できる言葉で伝え、受け手が受けとめることができなければ、
コミュニケーションではない)

2)コミュニケーションは「期待」である

:われわれは期待しているものだけを知覚する。
期待しているものを見て、期待しているものを聞く。
期待していないものは知覚することに対して抵抗する。
(つまり、聞きたいことだけを聞いているし、
聞きたくないことは意識的か無意識的かにせよ、スルーしてしまう。
よって期待に沿わないと思われることは、間違いなく伝える工夫が必要である)

3)コミュニケーションは「要求」である。

:コミュニケーションは受け手に何かを要求する。
受け手が何かになること、何かをすること、何かを信じることを要求する。
そしてそれが受け手の価値観、欲求、目的に合致するときに強力となる。

4)コミュニケーションは「情報ではない」。

:コミュニケーションは”知覚”の対象であり
情報は”論理”の対象である。人間的な要素はない。
情報は記号であり、受け手と送り手の間に何かしらの了解、
コミュニケーションがなければ意味を持たない。
コミュニケーションにとって重要なものは「知覚」であって情報ではない。

(P157~163)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(ここまで)

とのこと。

コミュニケーションが持つ、
その特徴を明確に言い表しています。

(特に、言ったよね→聞いてません、

という応酬は、家族でも仕事でも、
あらゆる世代に起こっている気がします、、、)

■このコミュニケーションを
組織の中で考えたときに、

”上から下へ”、だけでも成立しないし

(例えば、上司が「何を言いたいか」と
送り手に焦点があたっているから。
コミュニケーションの肝は、受け手である)

かといって

”下から上へ”、だけでも問題の解決にならない。

(下の者の言葉に上の者が「耳を傾けること」ができても、
それは始まりにすぎない。
結局、下の者が「耳を傾けること」ができないことも
ままあるからである)

ゆえに、

双方のコミュニケーションが成立する難しさについても
触れるのです。

■じゃあ、どうしたらいいの?

ということで、ドラッカーが言うのは

”「目標管理」こそが、
コミュニケーションの前提となる”

と述べるのです。

「目標管理」とは、
第5章でも述べられましたが

”企業もしくは自らの部門に対して、
いかなる貢献を行うべきと考えているか”

を明らかにすることです。

ここで語られる上司・部下の目標への考えが
双方の知覚の相違を明らかにします。

そして、
同じ事実を違って見ているということ自体を
お互いが知ることになるのです。

そして

「この前提のすり合わせこそが
コミュニケーションである」

というのでした。

組織において、
全部の前提をすり合わせる事は難しくとも、

共通の目標をすり合わせることは
決して不可能ではありません。

よって「目標管理」は重要なのです。

■そして3つ目が

『管理』

です。

マネジメント(management)を
直訳したときに出てくる言葉が”管理”ですが、
このことについても、ドラッカーは

組織における管理手段には「3つの特性」がある
といいました。

(ここから)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

<組織における管理手段の3つ特性>

1)管理手段は純客観的でも、純中立的でもありえない。

:測定という行為は、主観的な行為である。
測定する側もされる側も、何かしらの”偏り(バイアス)”を持つものである。
よって、管理において問題なのは「いかに管理するか、ではなく、何を測定するか」である。

2)管理手段は成果に焦点を合わせなければならない

:組織は、何らかの貢献を行うために存在する。
活動の成果は組織の外に現れる。
効率(=努力)を記録し、定量的に把握するのは容易であるが
組織の成果を記録し、定量的に把握する手段はほとんどない。
しかし、効率だけ定量化している組織は潰れる運命にある。

3)管理手段は、測定可能な事象のみならず、
測定不能な事象に対しても適用しなければならない。

:測定できるものは、すでに発生した事実、過去のもの、内部のものである。
測定できないものは、未来のもの、外部の重要な事象である。
ただし、そのときには定量化できない重要な事象にも目を向ける必要がある。

(P165-166)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(ここまで)

ここで語られているのは

「管理」というものの、実際には、

・客観的なものはないし
(主観でありバイアスも交じる)

・成果を記録することが大事
(でも、実際は定量化できなくて難しい)

・測定不能な事象に対しても適用しようとする
(測定できないものこそ、重要であるもの)

という、

”管理とはいうが、
管理できないことがあるのが現実”

という特性を述べているようです。

■しかしそうした
社会の複雑性を含めた上で、

「管理手段の7つの要件」を満たすことが必要と
ドラッカーは続けました。

以下の7つです。

(ここから)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
<管理手段の7つの要件>

1,管理手段は、効率的でなければならない。

:管理の労力が少ないほど優れた管理である。
管理手段を多くしてもより良く管理できるわけではない。

2,管理手段は、意味あるものでなければならない。

:管理の対象として測定するものは
重要なものでなければならない。

3,管理手段は、測定の対象に適していなければならない。

:例えば、苦情が「全体で1000件中5件」と測定されたとき、
それが一部の部門からだけでているのであれば、その事実が見えるようにしなければならない。

4,管理手段の精度は、測定の対象に適していなければならない。

:例えば、市場シェア26%という数字は、根拠があるようでない場合もある。
本当の姿を捉えられる正確さ・細かさで測定することが大事である
(大雑把な方が良いときもある)

5,管理手段は、時間間隔が測定の対象に適していなければならない。

:精度と同じように、頻繁な報告がよいよい管理を意味するわけではない。

6,管理手段は、単純なほどよい、

:複雑であっては機能しない。事態を混乱させるだけである。

7,管理手段は、行動に焦点を合わせなければならない。

:管理の目的は情報収集ではなく行動である。
よって、行動を起こすことのできる者似まで到達しなければならない。

(P165~170)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(ここまで)

とのこと。

そして、本節の最後に
「真の管理」としてドラッカーが言うのは

”組織は人の集合体であり、
それぞれの理想や、目的、欲求、ニーズがあり、
それを満たすものが賞罰である、

ゆえに、

「賞罰こそ、組織の目的、
価値観、位置づけと役割を教えるものである」”

と賞罰の重要性にも触れるのでした。

■そしてマネジメントの技能の最後が、

『経営科学』

です。

突如、経営科学という話が
入ってくるのは不思議な感じもしますが、
ドラッカーの意図はこういうことです。

以下、引用します。

”マネジャーは、自ら経営科学者である必要はない。(中略)

だが、経営科学に何を期待でき、
いかにしてそれを使いこなすかを知らなければならない。”
(P172 )

、、、と。

■ただし、

経営科学を知ることを
マネジャーの責任とする一方、

経営科学の歴史が、

「自然科学を測定する数学的な手法のいくつかが、
企業活動の世界にも活用できそうだ」

という視点から始まったことがもたらす
課題について触れています。

経営科学は元々
人や社会が織りなす複雑性、すなわち、

企業とは何か
マネジメントとは何か、
双方に必要なものはなにか、

などに関心が払われずに進んだため、

現場から「経営科学なんて役に立たない」となった要因にもなった、
と経営科学そのものの未熟さにも触れています。

経営科学が貢献をしようとするならば
企業やマネジメントという対象の定義をすることが必要であり、

総じていえば

「企業は人から成るシステムであり、
自然科学とは違う変化する存在を
前提としている」

ことを理解することから進めるべきだ、

というようなことを伝えています。

■そしてその上で、

「経営科学を使用するマネジャーの責任」として、
以下の4つのことを述べました。



<経営科学を生産的にするための
(マネジャーへの)4つの要求>

1、仮定を検証する

2,正しい問題を明らかにする

3,答えではなく代替案を示す

4,問題に対する公式ではなく理解に焦点を合わせる

(P177)



とのこと。

確かに、「科学」を知ることで

仮説を持つこと、
現状を分析すること、
違った視点から選択肢を考慮すること

が可能になります。

こうして経営科学を知ることが、
企業の診断や分析に役立てることになる、と示唆し

「マネジャーたるものは、
経営科学とは何であり、
何をなしうるかを理解しておかなければならない」

と章を締めくくるのでした。

■、、、と長くなってしまいましたが、

以上、「第6章 マネジメントの技能」から

・『意思決定』
・『コミュニケーション』
・『管理』
・『経営科学』

の4つ、まとめてみました。

改めて見ると、

・意思決定とはこうすべきとか
・コミュニケーションはこうあるべき

という手法の話よりも、

・意思決定やコミュニケーションは
そもそもどういうものか?

・どういう特性を持っているのか?

から考察し、掘り下げているところに
時代が変わっても色あせない深みを感じます。

こうしたことを

実践知として行うマネジメントとは
一つの特殊技能であると思いますが、

表面でなく本質を掘り下げることは
ブレない土台をつくることに繋がるとも思えます。

また明日も、続けたいと思います。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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<本日の名言>

変化はコントロールできない。
できることは、その先頭にたつことだけである。

ピーター・ドラッカー

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