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3565号 2023年11月28日

自信のない人ほど「強みの開発」がよく効く?! 強みの介入と個人的成長について調べた論文

(本日のお話 4156字/読了時間6分)

■こんにちは。紀藤です。

昨日は、ある会社のマネージャーの皆様への
約4ヶ月間に亘るマネージャー研修のDAY1の実施でした。

新しいプロジェクトということもあり、
当日に至るまで、ああでもないこうでもないと悩み、

プロジェクトメンバーとも幾度となく打ち合わせを
重ねた研修の第一日が無事終えられたこと、

そして参加いただいたマネージャーの皆様も
前向きに取り組んでいただけたように見えて、
ほっと一安心した1日でした。

同時に、皆様からの期待も感じたので、
これからのプログラムももっと練り込んでいかねば、、!
と気持ちも引き締めさせられた時間でした。

今できることを全部投入しつつ、
参加者の皆様と会社にとって、
良いインパクトを残したいと思います。
(相変わらずドキドキし続けそうです・・・)



さて、本日のお話です。

本日も引き続き「強み」に関する論文のご紹介です。
今日の論文は「強みの介入と個人的成長」がキーワード。

強みを開発すると、個人の成長は促されるのか?

この疑問に取り組んだオランダのディルブルク大学の研究です。
それでは早速見てまいりましょう!

タイトルは、

【自信のない人ほど「強みの開発」がよく効く?!
強みの介入と個人的成長について調べた論文】

それでは、どうぞ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<本日の論文>
『個人の成長を強化する:”個人的成長の自発性”に対する強み介入の効果』
Woerkom, Marianne van, and Maria Christina Meyers.(2019).
”Strengthening Personal Growth: The Effects of a Strengths Intervention on Personal Growth Initiative.”
Journal of Occupational and Organizational Psychology 92 (1): 98–121.
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

■論文のざっくりまとめ

<研究の背景>
・「個人の成長」は、個人の中心的なニーズであるだけでなく組織の成功のための重要な要件でもある。
それにもかかわらず、従業員の個人的成長を促すことを目的とした職場介入はまだ少ない

<研究の内容>
・本研究では、「従業員の強みの特定・開発、・活用」を目的とした介入が、「個人的成長の自発性(Personal Growth Initiative:PGI)」を刺激する有効性を調査した。
・具体的には、84名の教育専門家をサンプルとし、強み介入群と待機リスト対照群に振り分け 、フィールド実験を行った。

<研究の結果>
・1ヶ月の追跡調査において、介入は「一般的自己効力感(General Self Efficacy:GSE)に直接的効果をもたらし、「個人的成長の自発性(PGI)」には間接的効果をもたらすことがわかった。
・さらに、強みの介入は一般自己効力感(GSE)の初期レベルが低~中程度の参加者に特に有効であることがわかった。

、、、なるほど。

たしかに「個人の成長」は、組織の成功にも重要です。
そして、従業員の強みの開発は、従業員の自己効力感(自分はできる、と思えること)に影響を与え、個人の成長に繋がったというのは、実に興味深い結果です。より深く見てまいりましょう。

***

■「個人の成長」をどのようにして測るのか

さて、今回の論文でのキーワードの一つが「個人の成長」です。
この一見曖昧な、”個人の成長”なるものをどのように測定するのか?成長っていったって、色んな側面があるので、見える化するのが難しそうです・・・。

この「個人の成長」に際して、Robitschekらの研究で提唱されている『個人的成長の自発性(Personal Growth Initiative:PGI)』なる尺度を用いています。
曰く、『個人的成長の自発性(Personal Growth Initiative:PGI)』は、自己改善の為の一連のスキルであり、以下のスキルが含まれるそうです。

{「個人的成長の自発性」の4つのスキル}

<認知的スキル>
1,変化への準備(自己の成長に関連する肯定的な信念、態度、価値観を反映したもの。これによって個人が成長したい領域を特定できるようになる)
2,計画性(成長を達成するための、具体的かつ現実的な計画を策定する能力のこと)

<行動的スキル>
3,資源の活用(成長志向の目標を促進する資源を利用すること)
4,意図的行動 (自己成長のために作成した行動計画を意図的に実行すること)

しかし、”「個人的成長の自発性(PGI)」をどのように開発できるかについては殆ど知られていない”とも論文で述べられています。

ポジティブ心理学の分野で語られている「個人の強みを特定し、それを活用することが、さらなる発展への道筋となる」という考えを前提として、”強みの介入”が”個人の成長”にどのように影響するのか?を研究してみよう、というのがこの論文の一つのテーマでもあります。

***

■本研究の仮説

さて、これまでの研究で知られていることには、”強みの介入が「自己効力感(Self Efficacy)」に直接的な効果をもたらす”(Toback, Graham-Benrmann& Patel2016) ことでした。
ちなみに「自己効力感」とは ”ある行動を自分は遂行することができると自分の可能性を認識していること”(Bandura,1997)とされます。
簡単にいえば、「オレはできる!」と思える自信に近いかもしれません。

あらゆること全般に自己効力感がある場合もあれば(一般自己効力感)、ある特定の仕事や作業には自己効力感が高い場合もあります(特定自己効力感、職務自己効力感など)。
この自己効力感の考えを、先述の「個人的成長の自発性(PGI)」を述べたRobitschekは発展させ、”一般自己効力感(GSE)とは積極的にかつ意図的に自己を変化させるための一連の認知的スキルと行動的スキルを指す”(Robitschek,2012)としました。
これらのことを総合してこの論文では、以下のような研究の仮説モデルを考えています。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「強みの介入」→「一般的自己効力感(GSE)」→「個人的成長の自発性(PGI)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

■研究の仮説モデル

<研究のプロセス>
さて、では本研究のプロセスについて、より詳しく見ていきましょう。
◯研究の対象者
・研究対象者は108名の参加者
・実験群47名(介入した群)、対照群61名(介入しなかった群)。
・5つの小学校に勤務する教育者、管理職、ティーチングアシスタント。

◯調査の進め方
・介入開始の1ヶ月前のベースラインアンケート(T1)ならびに介入の実施、
そして介入終了後の1ヶ月間のフォローアップアンケート(T2)をとりました。

・アンケート(調査票)の内容は、以下の内容であった。
「年齢、性別、教育レベル、組織在籍期間」
「自己成長への取り組み」(PGIS=2オランダ語版)
「一般的自己効力感」
「強みの認識」「強みの活用」

◯介入の方法(強み開発・活用の介入)

{ワークショップの構成について}
・2人の専門トレーナーによる2つのワークショップで構成された。
ワークショップの設計は、Quinlan(2012)らによる研究を参考にした。「
「強みの特定・開発・活用」を目指すトレーニングプロセスとした。

{ワークショップの進め方について}
ストレングス・ファインダー2(TOP5)を活用した。

<1回目の介入>
・1回目の介入では、職場で活力を感じた経験について説明し、その経験の原因となった個人の強みを特定するフィードフォワード面談を行い、自由形式のアプローチで強みを発見することに焦点を当てた。
・参加者のモチベーションを上げるために、トレーナーはなぜ多くの人が自分の強みを職場で活かせないのか、活かせない場合の否定的な結果を紹介した。
・研修内容の目標設定、実践が研究の効果を高めるため、一回目の研修の最後に、今後4週間のうちに自分の仕事の状況において、個人の強みを活用するための個人的な計画を立てた。 (日常的な仕事でも、困難な仕事でもどちらでもよいとした

<2回目の介入>
・2回目のワークショップの冒頭で、個人計画の実施結果について話し合った後、自分の仕事と個人の強みを一致させるための方法として、ジョブ・クラフティングという概念が紹介された。
・参加者は、「自分の多様な仕事のタスク」を特定するよう求められた(タスクに費やした時間、タスクが生み出すエネルギーや消費するエネルギー、組織にとってのタスクの重要性など)
・タスク分析に基づいて、参加者は自分の強みに沿って自分の仕事のどの要素を作りたいかを決めるように求められた。

***

■研究の結果

◯わかったこと(その1)
・介入は、「個人的成長の自発性(PGI)」には直接的な効果を示さなかったが。
しかし「一般的自己効力感(GSE)」に直接影響を及ぼし、そして一般的自己効力感(GSE)は「個人的成長の自発性(PGI)」と関連していた。

◯わかったこと(その2)
・介入前に一般的自己効力感が高レベル群に比べて、介入前に一般的自己効力感が低レベル・中レベル群のほうが、介入後の自己効力感が高まっていた。

***

■まとめ

本論文の主要なメッセージは「強みの介入が、自己効力感に影響を与え、個人の成長を促す」というモデルを示したことです。
加えて、興味深い点として「元々自己効力感が高い個人に対して、強みの介入は有意ではなかった」という結果が挙げられます。
その理由として、「自己効力感が高い個人は、すでに自己成長を促進するために必要な物を持っているということを示しているのかもしれない、と論文では考察していました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

さて、この論文では

「自己効力感が低い人ほど、強みの介入の影響は高い」

ことがわかりました。

この結果を受けて思い出すことがあります。
個人的な経験ですが、自分自身(紀藤)が20代そこそこで何も経験もなく、自信がなかったときに受けたストレングス・ファインダーは、「あなたは向上心がある(最上志向)」「あなたは未来を思い描く力がある(未来志向)」「あなたは目標に向かって頑張れる(目標志向)」と、そのアセスメント結果に褒められた&励まされた気がして、自己効力感が高まった事を思い出しました。

また別の話では、先日ある会社において「強みの介入」を行わせていただき、介入前後で自己効力感の変化を取ったときも、20代の若手のほうが、30代、40代、50代と比べて、もっと自己効力感の向上が顕著であったことも思い出しました。

強みに注目することは、まだ経験や自信がない「若手の育成」に対して、自己効力感を高め、個人の成長を促す結果を示していると思え、たいへん参考になった論文でございました。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

※本日のメルマガは「note」にも、図表付きでより詳しく掲載しています。
よろしければぜひご覧ください。

「note」の記事はこちら

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<本日の名言>

マネジメントのほとんどがあらゆる資源のうち、
人が最も活用されず能力も開発されていないことを知っている。

だが、現実には、人のマネジメントに関するアプローチのほとんどが、
人を資源としてではなく、問題、雑事、費用として扱っている。

(ピーター・ドラッカー)
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