「お金」は海神プロテウス?! 幸福とお金の関係 ー読書レビュー『幸福について』#3ー
(本日のお話 1994字/読了時間2分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日は2件のアポイント。
また、書籍の執筆のための研究などでした。
その他、10kmのランニングなど。
*
さて、本日のお話です。
先日より、ショーペンハウアーの著書『幸福について』を紹介しております。
1851年と、150年以上前に書かれた本であり、かつポジティブ心理学者のような「幸福」に対して前向きな立場でもなさそうな哲学者が語る「幸福論」というのが、非常に興味深い作品です。
本日は、幸福に関連する「人生の3つの財宝」のうちの1つ、「その人は何を持っているかについて(第三章)」を見ていきたいと思います。
それでは、どうぞ!
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<目次>
「人間の欲求」の3分類
「お金」は海神プロテウスのようなもの
ショーペンハウアーのお金論
まとめと感想
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■「人間の欲求」の3分類
第三章はとても短い章なのですが、結論を言うと、「人間が元々持っている欲求を、いかに叶えるのか」→「いろんな欲求を叶えるのに『お金』はめっちゃ大事」という、たいへん現実的な論を展開します。
最初に、幸福論者エピクロスが述べたという「人間の欲求の3つの分類」を以下のように紹介しているのでした。
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<「人間の欲求」の3分類 ー幸福論者エピクロスよりー>
◯欲求1:「食」と「衣服」
・自然かつ必要不可欠なもの。
・この欲求は満たされないと、苦痛の原因になる。
◯欲求2:「性的満足」
・自然だが、必要不可欠ではないもの
・満たすのは、結構むずかしい。
◯欲求3:「贅沢」
・自然でもなければ、必要不可欠でもない。
・欲望にきりがなく、これを満たすのはたいそうむずかしい。
富や名声は海水のようなもので、飲めば飲むほど、喉が渇く。
P54
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そして、「人間は常に何かを必要とし、欲望を本質とする種族」であることは、まぎれもない事実である、とします。
では、そうした欲望を持ってしまう私たちにとって「何を持っているのがよいか」について、「お金」を例として挙げていきます。
■「お金」は海神プロテウスのようなもの
「お金を愛する」ことにしばしば非難の目が向けられること、拝金主義が揶揄されるような状態は、今も150年前も変わらずあったようです。
しかし、人間の欲求は具体的にひとつではなく、いくつも存在するものです。その中で「お金は絶対的に役立つものである」とショーペンハウアーは述べます。
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(お金は)いついかなるときでも変幻自在の海神プロテウスのごとく、千変万化する願望や多種多様な欲望の対象に早変わりするお金を愛するのは当然であり、おそらく避けがたいことなのだろう。つまり他のものはみな、ひとつの願望、ひとつの欲望しか満たせない。(中略)
だがお金は具体的にひとつの欲望ばかりでなく、抽象的に欲望全般に対応できるため、お金だけは絶対的に役立つものなのだ。
P56
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そのため、財産は「不慮の災厄や事故に対する防壁」だし、「才能が枯渇して稼げなくなったときに役立つ」から、大切にするのは理にかなっている、と述べます。
■ショーペンハウアーのお金論
この調子でショーペンハウアーはお金についての考えをより詳しく語っていきます。特に「お金を使う」傾向などを分析しているのは、なかなか興味深いものでした。たとえば、こんなお話です。
・本当の困窮欠乏と闘ってきた人は、困窮に対する危惧の念が少ないので、無駄遣いをしがち。
・貧しい娘が結婚すると、派手好きで金遣いの荒い妻になるケースが非常に良くみられる(なので元本は相続させず、利子だけ相続させたほうがよい)。
・相続した財産は維持できるように心を配るべし。
みたいなお話です。
また、財産を相続して、家族を持たず自分一人で独立して悠々暮らせる財産を元々持っているというのは、”はかりしれぬ利点”として述べます。
この財産を持つことで人生につきものの困窮や労苦から免除・免責され、「はじめて真の自由人となれるから」であり、こうした状況になるから「今日一日が私のもの」と心から言えるようになる、とのこと。今風にいえばFIREってやつでしょうか。
しかし、この「親譲りの財産が最高の価値を発揮するとき」は、財を相続した人が「高尚な精神的能力」を備えているときだと述べます。
そのときに、労苦から解放され、創造的精神でその人しかできないことに従っていきることで、長い目で人類の栄誉となるものを生み出すことができる、だからいいんだよ、とのこと。
一方、多くの場合「生まれながらの生活の資源を持っている人は、たいてい無作法な態度をとる」ものであり、「凡庸な人間が大勢いる」とショーペンハウアー節を炸裂させるのでした。
■まとめと感想
批判的に、きっぱりはっきり物事をいうショーペンハウアーが「お金は絶対に大事」という理由、そしてそのリスクも、大変納得できるものでした。
コツコツ貯めて、散財しないように気を配る。
時間の自由を手に入れたら、創造的活動に時間を使う。
そんな行動は、今でも通ずる幸福論の一端であるとも感じた次第です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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