組織が変わり続けるための「ダイナミック・ケイパビリティ理論」ってなんだ?!
(本日のお話 2956字/読了時間4分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日は、終日大学のリーダーシップの授業でした。
いよいよ学生たちのプランも大詰めで、ボルテージも上がってきました。
みんなが最後まで走り抜けることを、応援するばかり。
頑張れ!と言っている自分こそ頑張ねば!と思った1日でした。
(本の執筆もいよいよ本格始動しないとと思います)
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さて、本日のお話です。
本日も、大著書『世界標準の経営理論』の全章レビュー、引き続きお届けしてまいります。
本日のテーマは、第17章「ダイナミック・ケイパビリティ理論」です。
必殺技みたいな名前で、早口で言ったらなんだか強そうですね。期待大です。
さて、このダイナミック・ケイパビリティ理論ですが「組織が変わり続けるための理論」ということで、これからの時代にたいへん重要になると著者は述べます。
実は、これまでの他の理論と比べて、「未完成の経営理論」のような位置づけでまだ発展途上とも言えるものだそう。しかしながらVUCAの時代とも呼ばれる今の世の中において、特に重要であることが強く伝わってくる内容でした。
ということで、早速中身を見て参りましょう!
■私たちは「ハイパー・コンペティションの時代」を生きている
しばしば「変わり続けなければ生き残っていけない」と言われますが、実際に現在も繁栄を続けている組織は、確かに変化を重ねてきました。
たとえば、日本企業で代表例とされるのが東レです。大正時代に創業された同社は、戦後ナイロン事業に取り組み、ユニクロと共同開発したヒートテックなどの大ヒット商品を生み出しただけでなく、炭素素材はボーイング787の一次構造材にも使用されるようになっています。現在では、もはや当初の主力製品だったレーヨンは製造していません。
また、IBMも同様です。1970〜80年代にメインフレーム事業で世界ナンバーワンであった同社は、パソコン・サーバー事業を展開しながらも、1990年代以降にはこれらの事業を大胆に変革し、ソリューション事業中心へと展開しました。
これも「組織が変化し続けたことで今も繁栄している」という事例です。
■「ダイナミック・ケイパビリティ」ってなんだ?
じゃあ、実際に「ダイナミック・ケイパビリティ」ってなんなのさ?ということですが、この理論は、主に2つの理論基盤から成立しているとのこと。
1つ目は「リソース・ベースト・ビュー」です。ここで重要になる言葉が「ケイパビリティ(能力)」です。これは、企業が持つさまざまなリソース(技術、人材、ブランドなどの経営資源)を組み合わせ直す能力のことを指します。
さらに、「ダイナミック(動的)」であることが特徴です。リソース・ベースト・ビューは安定した環境下で有効とされますが、環境が変化する中で、いかにダイナミックにケイパビリティを書き換えていけるかがポイントになります。
2つ目は、進化理論で述べられている「ルーティン」です。ルーティンとは、企業に慣習として埋め込まれた繰り返しの行動プロセスのことです。
ルーティンには2種類あります。現場レベルの漸進的な進化を促すものを「オペレーションのルーティン」と呼び、それを変化させ、組み合わせ直し続ける行為のルーティンを「ダイナミック・ケイパビリティ」と定義しています。
このように、「リソース・ベースト・ビュー(RBV)」と「ルーティン」という2つの理論を軸として、ダイナミック・ケイパビリティ理論は成り立っています。
■「ダイナミック・ケイパビリティ」を高める2つのアプローチ
では、ダイナミック・ケイパビリティを高めるにはどうすればいいのでしょうか。そこにも、富士山の登山ルートのごとく、RBVルートとルーティンルートのようなものがあるようでした(私の理解です)。
◎RBVに注目したアプローチ「センシングとサイジング」
まず、RBVを軸としたアプローチが、「センシング」と「サイジング」という言葉です。これらは、リソース・ベースト・ビューの「ケイパビリティ」に注目しています。
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センシングとは、「事業機会や脅威を感知する力」のことです。
サイジングとは、「センシングによって感知した事業機会を実際に捉えること」を指します。
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つまり、アンテナを高く持ち、機会を感知したら、すかさず事業を深掘りしていくという動きが必要であるということです。言われてみれば、非常にシンプルな話に聞こえるかもしれません。(書籍内では、IBMの具体的な事例が紹介されています)
◎ルーティンを重視するアプローチ「シンプル・ルール」
次に、ダイナミック・ケイパビリティのもう一つの高め方が「ルーティンに基づいた側面」を重視する場合です。
代表的な研究者がアイゼンハートであり、ダイナミック・ケイパビリティを実践するうえで重要なのが「シンプル・ルール」だと述べています。
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シンプル・ルールとは、「変化の激しい環境下で、企業がダイナミック・ケイパビリティを発揮するには、数を絞ったシンプルなルールだけをルーティンのように組織へ徹底させ、あとは状況に応じて柔軟に意思決定すべき」という考え方です。
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例えば、インテルでは「メモリの粗利率が下がり、マイクロプロセッサーの粗利率が上昇するなら、マイクロプロセッサーを増産する」といった非常にシンプルなルールを徹底させ、効果的な資源配分を実現しました。
また、レゴブロックでお馴染みのデンマークの玩具企業レゴも、「子供が本当にその製品を使って楽しみながら学べるか」「親が認めてくれるものか」「子供の創造性を刺激するものか」といった事業開発のルールを設けています。これもシンプル・ルールの一例です。
■まとめと感想
まとめると、ダイナミック・ケイパビリティには、リソース・ベースト・ビューの理論を軸としたパターンと、進化理論のルーティンを軸とするパターンの2つが存在します。
変化を実現するために、自らのルーティンを変えるのか、それともセンシングとサイジングで機会を捉え深めていくのか。
理論がまだ発展途上だからこそ、複数の視点から語られていく過程が非常に興味深いと感じました。
そして結局のところ、変化するためには「知の探索と知の進化」を行っていく――野中郁次郎先生のSECIモデルに帰結するのだと改めて感じました。共通する要素を感じ取ることができ、大きな学びとなった一章でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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