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4252号 2025年10月16日

結婚生活の安定につながる「ポジティブ対ネガティブ=5:1」の法則

(本日のお話 3254字/読了時間3分)

■こんにちは。紀藤です。

「強み」がさまざまな人生の要素に影響があるのか、論文を渉猟している今日この頃です。

その中で、ある興味深い論文をご紹介させていただければと思います。テーマは「結婚生活を上手くいかせるには?」です。

この領域の第一人者の一人であるジョン・ゴットマン博士らにより、130組の新婚夫婦を対象に6年間の追跡調査を行ったこの研究。
離婚と安定を83%の精度で、また、安定した夫婦間の幸福度を80%の精度で予測しています。

「言われてみたら、確かにそうだよなあ⋯」と自分を省みたくなるような内容もあり、結婚をされている方は、一読の価値がある内容だと思いました。

ということで、早速内容をご紹介していきたいと思います。

それでは、どうぞ!

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<本日の論文>
・タイトル:Predicting Marital Happiness and Stability from Newlywed Interactions(新婚夫婦の相互作用から結婚の幸福度と安定性を予測する)
・掲載誌・出版年:Journal of Marriage and the Family, 1998年
・著者:John M. Gottman、Catherine Swanson
・所属機関:University of Washington

※論文の要約はこちら by Gemini

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■安定した結婚生活に必要な「魔法の比率」

まず、この研究の基盤である法則として、ゴッドマン博士が「魔法の比率(magic ratio)」と呼んでいるものがあります。

それは、ポジティブな相互作用がネガティブな相互作用を、圧倒的に上回っていなければならないというもので、これがまさに「離婚」「幸福度」に直結するシンプルな法則と述べています。

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<安定した結婚生活に必要な「魔法の比率」>
▶ポジティブ : ネガティブ の比率 = 5 : 1 以上
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ちなみに、この研究でいう「ポジティブとネガティブ」は以下を表します。

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・ポジティブな感情= ”関心、承認、愛情、ユーモア、喜び”の5種
・ネガティブな感情= ”嫌悪、軽蔑、攻撃性、支配的態度、怒り、恐怖・緊張、防御的態度、泣き言、悲しみ、壁作り”の10種
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余談ですが、この5:1の比率は、高業績の職場の対話の比率(ロサダ比率)「ポジティブ:ネガティブ=5:1」とも共通しており、興味深いですね。

■研究からわかったこと(離婚に繋がる行動)

さて、研究は130組の新婚夫婦に対して、いくつかの対話をビデオにとって観察し、そのやり取りをコーディングしました。そして6年の追跡調査から、離婚しているか、安定した結婚生活を続けているかを調査したという内容です。

その研究からわかったことは以下のようなことでした。

⑴ 夫が妻の影響を受け入れることを拒否すること
離婚を予測するのは、夫が妻の低強度否定感情に対し、高強度否定感情で応酬し影響力(権力)を拒否するパターンであり、夫婦間の権力分担の欠如を示す。

⑵ 妻による否定的な開始 (Negative Start-Up)
妻が中立的な感情からすぐに否定的な感情で葛藤を開始する(「硬いスタートアップ」)ことが、結婚生活の不安定性を予測する。夫のスタートアップは有意ではなかった。

⑶ 妻の低強度否定的感情に、夫が反応すること
夫が妻の低いレベルの否定的な感情(例:不満)に対して、落ち着いた(中立的な)反応を示すことが安定につながる。この「エスカレーションの欠如」(つまりエスカレートさせてしまうこと)が不安定性を予測する。

⑷ 夫がカッとなる(生理的鎮静の欠如)
安定して幸福な結婚生活では、妻のユーモアや夫自身の肯定的な行動(承認、愛情、非エスカレーション)が、他のグループよりも有意に夫の心拍数を減少させる(生理的に鎮静させる)確率が高かった。夫が鎮静できないと、否定的な転帰(離婚、不幸な安定)につながる。

なんだか、書いていてぞわぞわしてしまいましたが、「お互いの火に油を注ぎ合って、燃え尽きる」(エスカレートする)というのは避けたほうがよいことはよーくわかりました⋯。

■関係を終わらせる「破滅の四騎士」とは

さて、結婚生活の中で、特に「有害なネガティブ感情」があることが、この論文の中でも言及されています。

それを、結婚生活における毒素として、ゴットマン博士が「破滅の四騎士」と呼んでいます。(イヤな騎士ですね⋯)以下、ご紹介します。

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<関係を終わらせる「破滅の四騎士>
●Contempt:侮辱 / 軽蔑 (けいべつ)
・最も破壊的な毒。相手を見下し、人格を否定する態度。
●Criticism:批判 (ひはん)
・行動ではなく、性格や人格全体を攻撃する。
●Defensiveness:防衛的態度 (ぼうえい)
・責任を認めず、言い訳や逆批判で自らを正当化する。
●Stonewalling:ストーンウォール / 無視
・会話から感情的に完全に引きこもり、沈黙の壁を作る。
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この特定の新婚夫婦の研究では、上記の四騎士に加えて、5番目の騎士(?)である、より攻撃的な「敵意(Belligerence)」といった高強度ネガティブ感情も紹介されています。これらが特に離婚を予測する要因として示されています。

■どうすれば「幸せな結婚生活」につながるか

さて、では幸福な結婚生活において、夫と妻はそれぞれどんなことを気をつければよいのでしょうか? それぞれが、自身の役割において「優しさ」と「責任」を果たすことで築かれます。

⑴ 「夫」の貢献:妻の影響をやさしく受け入れる
最も決定的な離婚の予測因子は、夫が「妻の影響(提案など)を受け入れることを拒否する」ことでした。これは、夫が権威やパワーを維持しようとして、妻の懸念や提案を退けるパターンです。

行動指針: 夫は、内容の是非を問う前に、まずは妻の視点と影響を尊重する姿勢を示すことが、関係の安定に直結します。

⑵ 「妻」の貢献:「Iメッセージ」で穏やかに口火を切る
対立の口火を切る妻のトーンが、その後の議論の運命を決定します。妻の「批判」や「ネガティブな口火」(Negative Start-Up)は破綻を招きますが、「穏やかな口火」(Softened Start-Up)は、夫の防衛的態度や鎮静化の失敗を防ぎます。

行動指針: 妻は、感情的な批判や人格攻撃を避け、「私(I)を主語にしたメッセージ」で、具体的な懸念や要望を優しく伝える芸術を磨く必要があります。

⑶ 「夫と妻」の貢献:ポジティブ感情はたくさん使う
夫婦のポジティブ感情(愛情、関心、ユーモアなど)は、単なる「いい人」を示すためのものではなく、「ネガティブ感情をエスカレートさせない」という目的のために、機能的に使われていました。

行動指針: 深刻な対立の最中であっても、意図的に愛情、関心、ユーモアといったポジティブなツールを用いて、議論の熱を下げ、建設的な方向へ軌道修正を試みることが、「ポジティブ感情」の価値です。

■まとめと感想

ちなみに、興味深かったのが、実は離婚と結婚生活の安定性において「アクティブ・リスニングは機能しない」という結果でした。

観察の結果、対立の最中に無理に共感的な言葉を使うことはほとんどなかったこと、またその中で使ったとしてもほぼ機能しない(感情的にゆれておりそれどころじゃない)ということだったそうです。

改めて、お互いへの思いやりと、強いネガティブな感情に支配されないように、心を配り続ける事が大事なんだと思った次第です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

※本日のメルマガは「note」にも、図表付きでより詳しく掲載しています。よろしければぜひご覧ください。

<noteの記事はこちら>

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