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4354号 2026年1月26日

架け橋アナロジーが「伝える力」を高めてくれる ーマサチューセッツ工科大学の研究よりー

(本日のお話 2401字/読了時間3分)

■こんにちは。紀藤です。

昨日、日曜日は30kmのランニングでした。
2週間後のさいたまマラソンに向けて、最後のロング走。
相変わらず足は故障したままですが、なんとか距離走ができたので、当日まで調整しながら頑張りたいと思います。

その他、午後は息子とともに「地下鉄博物館」へいってきました。


本日も、ある論文のご紹介です。
今日は、あんまり読まない(というか個人的に圧倒的な苦手意識がある)「物理学の教育」についての論文でございます。

実は、「どうすれば、人は自分の考えを、よりわかりやすく相手に伝えられるのだろうか?」とふと疑問に思って論文をポチポチ検索していたのですが、その中で興味深い研究に出会いました。

それが今回のマサチューセッツ工科大学で行われた「物理学の概念を高校生にわかりやすく伝える方法」に関する研究です。

個人的に、物理学と聞くだけで思わず「げっ…」と苦手意識が出てしまうのですが、この論文を読んでみると、実はこの考え方は、自分の考えを相手に伝えるためのコミュニケーションにも応用できるのではないかと感じました。

ということで本日は、この研究内容をベースにしつつ、「私はこの論文をこんなふうに使えるかと思いました」という個人的な感想の厚めのレビューをお伝えしたいと思います。

それでは、どうぞ!

<今回の論文>
・タイトル:Using Bridging Analogies and Anchoring Intuitions to Deal with Students' Preconceptions in Physics
(物理学における生徒の先入観に対処するためのブリッジング・アナロジー(橋渡し的類推)とアンカリング・インテュイション(係留的直観)の使用)
・掲載誌・出版年:Journal of Research in Science Teaching, 1993年
・著者:John Clement
・所属機関:マサチューセッツ大学アマハスト校 科学推論研究所

■研究の背景

物理学の授業において、生徒は定性的な概念理解に大きな困難を抱えており、授業後も持続する「代替概念」、いわゆる誤概念を持ち続けることが、多くの研究で示されています。(つまり、定量的な数字ではなく定性的・感覚的に、誤ったイメージを持ってしまうようなイメージです)
ちなみに本研究では、生徒が自身の経験から構築した概念を尊重するため、「誤概念」ではなく「代替概念」という用語を用いています。これは、物理学の理論と対立する生徒の考えを指します。
例としては、「机の上の本は、バネの上の手と同じだよ」といった表現について、生徒がその類似性を受け入れられないというものです。バネを押す手は、明らかに反発を感じるけれど、机の上の本は机が剛性を持っているので押し返しているイメージがない、だから違う(誤概念=代替概念)と認識するという話です。こうなると、学習効果が薄くなることが明らかになっていました。

■研究目的

そこで本研究では、生徒がもともと持っている「有用な直観(アンカー)」を出発点にし、「ブリッジング・アナロジー(橋渡し事例)」を用いることにしました。(これが本論文の重要キーワードです)
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・橋渡し事例で、定性的な理解を構築できるのか
・橋渡し事例で、根強い代替概念を変化させられるのか
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を検討することを目的としました。

◯「ブリッジング・アナロジー(橋渡し事例)」の例
ちなみに、この橋渡し事例の例は、「バネをおす手」→「柔軟性がある上板の上においた本」→「机の上においた本」というイメージです。
「柔軟性がある上板においた本」をブリッジにする。すると「あ、机も固くて押し返していないようだけど、確かに押し返してるんだな…」というイメージを持ちやすくなるようです。

■研究の方法

◯対象:高校の物理初学者
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・実験群:150名(3名の教師)
・対照群:55名(2名の教師)
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◯授業内容
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・垂直抗力(机の上の本)
・摩擦力
・ニュートンの第3法則(衝突するカート)
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◯指導戦略
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・アンカー(Anchor):生徒が直観的に理解しやすく、物理学者の理解と一致する事例(例:バネを押す手)を導入し、まず合意を得る。
・ブリッジ(Bridge):アンカーとターゲット(机の上の本)の中間に位置する事例(柔軟な板の上の本、スポンジの上の本など)を提示し、類似点を議論させる。
・モデル(Model):原子がバネでつながっているといった微視的モデルを導入。
・実演(Demonstration):授業後半で、光の反射を用いて机がわずかにたわんでいることを示す実演を行う。
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◯評価方法
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・同一の事前・事後テストを実施
・事後テストは授業の約2か月後に実施
・15問の多肢選択式テストで、代替概念を検出するよう設計
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■主な結果

◯定量的結果
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・3つすべての分野(垂直抗力、摩擦力、ニュートン第三法則)で、実験群は対照群より有意に大きな得点の伸びを示した。その差は、各分野で標準偏差の約1倍以上だった。
・下位レベルの実験群クラスと、熟練教師が教える対照群を比べても、実験群の方が高い学習効果を示した
・同じ教師でも、通常授業の年より、実験的授業を行った年の方が学習効果は高かった
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◯定性的観察
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・生徒はアンカー事例は容易に理解したが、当初はターゲット事例との類似性を信じなかった
・ブリッジ事例は活発な議論を生み、多くの生徒の考えが物理学的理解へと変化した
・生徒自身が独自のアナロジーを作ったり、極端な事例を考えたりするなど、科学的推論プロセスが観察された
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■まとめと感想:架け橋アナロジーが大事

関係ないかもしれませんが、この研究を読んで感じたのは、伝えたいことと相手の理解の間に、「橋を架けることの大切さ」です。

物理学の先生からすれば、こうした概念は自明のことかもしれず、「なんでわからないんだろう…」と思うのかもしれません。
でも、今回の「ブリッジング・アナロジー」という、「相手がイメージしやすい間の理解」を入れることで、感覚的にも理解をしてもらうことができる。

自分が伝えたい内容をそのまま伝えるのではなく、相手がすでに持っていそうな認識を想像する。
そしてその間に、相手が「それなら分かる」と思える比喩や事例を挟む。

言われてみれば当たり前のことですが、この研究は、物理学という定量的で抽象度の高い分野において、その有効性を実証的に示してくれているのが、非常に面白いな、と思ったのでした。

自分も、独りよがりの考えでなく、そうした「橋渡し」を息を吸うように練習をしたいものだ、そんなことを思った次第です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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