「凹むのに、優秀な人と比べてしまう」というジレンマは、なぜ起こる? ー社会的比較60年のメタ分析ー
(本日のお話:4305字/読了時間5分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日は外部人事パートナーとして関わらせていただいているクライアント様へのコーチング&コンサルティングでした。
その他、原稿の執筆など。この週末で、ようやく編集者の方に原稿をお渡しできそうです。本当に、長い。でも、その分、少しずつ納得できるものに近づいている気がします。良い経験をさせてもらえて、ありがたい限り。
その他、9kmのランニングなど。
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さて、本日のお話です。。
先日より「社会的比較」についての論文をご紹介しております。
最初は、1954年のフェスティンガーによる「社会的比較理論」。
人はなぜ他者と比較するのか、その出発点となった研究を紹介しました。
→なぜ、つい人と比べてしまうのか? ―「社会的比較理論」の原点を読む―
続いて、1981年のウィルズによる「下方比較理論」。
つらいとき、自分よりも恵まれていない他者と比較することで、
気持ちが楽になることがある、というお話でした。
→「もっと大変な人もいる」と思うと、なぜ心が軽くなるのか? ―「下方比較」の原理を読む―
今回は、その続きです。
2018年に発表された「社会的比較に関する60年以上の研究を統合したメタ分析」です。
人は、自分より能力が高い人と比べることもあれば、
自分より能力が低いと感じる人と比較することもあります。
では、どのようなときに、どちらの比較を選びやすいのでしょうか?
また、比較することによって私たちの心理にはどのような影響があるのか?
結論を先にお伝えすると、
「人は自分より優れた人と比較することを好む。
しかし、その比較によって、自ら心理的ダメージを受けるというジレンマがある」
という結果が示されました。
(なんとも皮肉なものですが、人間臭くて、
個人的には「わかるわー」と、ひとり頷いておりました)
ということで、早速中身を見てまいりましょう。それでは、どうぞ!
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<本日の論文>
タイトル:A Social Comparison Theory Meta-Analysis 60+ Years On(社会的比較理論の60年以上の歩みを振り返るメタ分析)
掲載誌:Psychological Bulletin, 144(2), 177–197
出版年:2018年(オンライン先行公開:2017年)
著者:J. P. Gerber、Ladd Wheeler、Jerry Suls
所属:Gordon College、Macquarie University、National Cancer Institute
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■30秒でわかる本論文のポイント
・本論文は、60年以上にわたる社会的比較研究を統合し、
「誰と比較するか」と「比較した結果どうなるか」を検討したメタ分析である。
・自尊心への脅威がない状況では、上向き・下向きの2択において、
約75.6%の割合で「上向き比較」が選択された。
・自尊心が脅かされる状況でも、
下向き比較が優勢になるという明確な証拠は見られなかった。
・比較した結果としては、相手との「違い」が強調される
「対比効果」が支配的であり、特に能力の自己評価に強く影響した。
・つまり、人は向上心などから上向き比較を選ぶ一方、
その比較によって自分の評価が下がってしまう、というジレンマが示された。
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■研究の背景と目的
11954年、フェスティンガーは
「人には、自分の意見や能力を評価したいという欲求がある」と論じました。
さらに、能力については、より高めようとする力があることも指摘しています。
その後、1981年にはウィルズが「下方比較理論」を提唱し、
自尊心が脅かされた状況では、自分より恵まれていない他者との比較が
心理的な支えになる可能性を示しました。
さらに研究が進むと、上向き比較によって
「自分もあの人のようになれる」と感じる、
ポジティブな影響も議論されるようになりました。
しかし、研究によって結果には違いもあります。
そこで今回の研究では、大きく2つの問いを検討しました。
<研究の問い>
⑴比較対象の選択(Selection):
人はどのような状況で、上向き・下向き・水平比較を選ぶのか?
⑵比較への反応(Reaction):
比較することで、自己評価や感情などはどのように変化するのか?
これらを、過去の研究を統計的に統合する
「メタ分析」によって検討しました。
参照図
Contrast=対比効果、Assmilation=同化効果
■研究の方法
研究チームは、心理学の文献データベースなどから、
社会的比較に関する研究を幅広く収集しました。
分析対象となったのは、以下の研究です。
・比較対象の選択:55論文、101効果量
・比較への反応(統制群なし):68論文、185効果量
・比較への反応(統制群あり):39論文、130効果量
これらのデータを用いて、比較対象の選ばれ方や、
比較後の心理的な反応を統計的に分析しました。
また、研究結果が偏って公表されている可能性(出版バイアス)についても
検証しています。
■主な結果(わかったこと)
■わかったこと1:人は「上向き比較」を強く好む
まず本論文の主要な発見が、「比較対象の選択」です。
自分より能力が高い人と、低い人。
どちらかを選べる状況において、自尊心への脅威がない場合、
上向き比較の選択割合は約75.6%でした。
つまり、上向き比較が圧倒的に好まれていたのです。
では、自尊心が脅かされる状況ではどうでしょうか?
1981年の下方比較理論からは、
つらい状況では下向き比較が選ばれやすくなることが予想されます。
しかし、今回の分析では、脅威がある状況でも
上向き比較の選択割合は高く、約74%でした。
少なくとも、下向き比較が支配的になるという
明確な証拠は見られなかったのです。
なお、上向き・下向きに加えて、
自分と同程度の相手との「水平比較」を選択肢に含めると、
その差は小さくなりました。
それでも、全体としては上向き比較が最も多く選択されていました。
■わかったこと2:比較すると「対比効果」が生じやすい
次に、比較した結果、どのような心理的反応が生じるのかについてです。
ここで重要なキーワードが「対比効果(Contrast Effect)」です。
対比効果とは、簡単にいえば
「比較対象との違いが強調され、自分への評価が相手とは反対方向に動くこと」です。
具体的には、以下のようになります。
<対比効果とは>
・上向き比較:「あの人はすごい。それに比べて自分はまだまだだ…」と、
自分の評価が下がる。
・下向き比較:「あの人に比べれば、自分はできているな」と、
自分の評価が上がる。
今回の分析では、この「対比効果」が、
比較後の反応として支配的であることが示されました。
特に強く影響を受けたのが「自分の能力についての評価」です。
一方、自尊心や実際の行動については、
同じように一貫した影響が確認されたわけではありません。
つまり、「比較によって、自分の能力の見え方が変わりやすい」ということが、
重要な発見だったといえそうです。
■わかったこと3:身近な人や、新しい領域では対比効果が強まりやすい
また、対比効果の大きさには、いくつかの調整要因がありました。
一つが「比較対象との距離」です。
たとえば、遠くにいる有名人よりも、同じ教室にいるクラスメートなど、
身近にいる相手との比較のほうが、
強い対比効果を生みやすいということです。
もう一つが「比較する領域の新しさ」です。
これまで経験していなかった新しい分野や、
自分の能力がまだよくわからない領域では、
対比効果が強く現れる傾向がありました。
なるほど、と思います。
たとえば、大学院に入学したとき、新しいクラスに参加したとき。
同期で同じような仲間だと感じているとき。
そうした人と比べやすいというのは、確かにそうだなあ…と思います。
周囲の人の発言や能力を見て、
「自分はまだまだだなあ…」と感じることがあります。
そのような比較には、こうした心理的な仕組みも関わっているようです。
■わかったこと4:「あの人に近づける」という同化効果は限定的だった
一方、比較には「同化効果(Assimilation Effect)」というものもあります。
これは、優れた相手と比較して、
「自分もあの人のようになれるかもしれない」と、
自分の評価が相手に近づく方向に変化する現象です。
しかし今回のメタ分析では、この同化効果は非常に弱く、
特定の条件でしか確認されませんでした。
特に「自分と相手は似ている」と意識させる条件では
同化の傾向が見られたものの、出版バイアスを補正すると、
その効果は明確ではなくなりました。
つまり、全体としては「似ていると感じて自信を得る」より、
「違いを感じて自分を評価する」という反応のほうが、
一般的だったということです。
■研究の限界
今回の研究にも限界があります。
一つは、上向き比較と下向き比較を比べた研究が多く、
「そもそも比較をしない場合」との違いが
十分に検討されていなかったことです。
また、日常生活では
「自分で比較対象を選び、その結果に反応する」という一連の流れがありますが、
既存研究の多くは、この2つを別々に検証していました。
そのため、実生活で起こる複雑な社会的比較の仕組みを、
すべて説明できているわけではない点には注意が必要です。
■まとめと感想
さて、今回の論文で興味深かったのは、
やはり「人は上向き比較を強く選択する」という結果です。
上に比較することも、下に比較することもある。
しかし、脅威のない状況では、
約75%という高い割合で上向き比較が選択されていた。
これは、1954年の社会的比較理論で論じられていた
「人は能力を伸ばしていきたい」という考えとも、
通ずるものがあるように感じます。
また、これは個人的な感想ですが、
心理学には「自己拡張理論」というものもあります。
人間関係や恋愛関係などでも論じられる、
自分自身の可能性や能力を広げていこうとする欲求です。
今回の結果も、そうした「人に備わっている向上心や成長欲求」と、
どこか通じるものがあるようにも思いました。
(もちろん、今回の研究で直接検証されたわけではありませんが)
**
ちなみに、家庭内でこんなやり取りがありました。
私が妻に「尊敬する仲間や先生」の話をして、
「あの仲間や先生はすごい。それに比べて自分は…(しょんぼり)」と話すと、
妻はこう返してきました。
「比べるってことは、そうなれるかもって思ってるということだよね? 普通比べないよ、すごい人とは」
そんなものなのかな…と思いましたが、
今回の結果では「身近な人との比較ほど対比効果が強まりやすい」という傾向があること、
また「同化効果」も限定的だったという話でした。
そう考えると、妻の言う「普通、すごい人とは比べない」という感覚も、
興味深いものがあります。
もしかすると、私が尊敬する先生と自分を比べてしまうのは、
どこかで「そうなりたい」と思っているからなのかもしれません。
また、個人的に向上心は比較的強めだと思いますが、
「向上心があるからこそ上向き比較を選ぶ。
しかし、その比較によって心理的なダメージを受けてしまう」というジレンマ、
副作用があることは、改めて認識しておきたいものだ、と思ったのでした。
人は能力が知りたい。だから比べてしまう。
でも、それによって、自ら凹んでしまいがちである。
そういった傾向を認識しつつ、比較から学べることは学びつつも、
比較によって自分の価値まで決めつけない。
そんな距離感を持つことが大事なのかもしれないな、と感じた次第です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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