「強みを活かすジョブ・クラフティング」が、人と組織のパフォーマンスを高める ーカーティン大学・上海大学らの研究ー
(本日のお話 3156 文字/読了時間4分)
■こんにちは。紀藤です。
本日は、「強み」に関連する論文のご紹介です。
テーマは「強み ✕ ジョブ・クラフティング」。中国の653名を対象に行った研究で、現場の感覚と一致する興味深い内容でした。
結論としては「強みを活かすジョブ・クラフティング」は活力とパフォーマンスの両方を高め、「興味を追求するジョブ・クラフティング」は活力のみを高める、という話です。
ちなみに、本論文で特に興味深かったこと。それが「過剰資格(※)」という課題を背景にしたことにあります。
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※「過剰資格(オーバークオリフィケーション)」とは:
従業員の学歴・職務経験、スキルなどの資格が職務要件を上回る状況)を意味する概念です。職務満足度・離職意志などにも関連しており、先進国・発展途上国問わず、職場でますます一般的になっている課題(O' connell, 2010)と言われます。
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たしかに、「仕事、物足りないなあ(過剰資格)」→「成長実感ないな」→「転職しよっかな」というのは、よくわかります。まさに、”優秀な人ほどやめてしまう問題”は、この概念でも説明できそう。
こうした背景に対して、「強みを活かすジョブ・クラフティングが、個人と組織の両方のプラスの効果を示す」という観点が、現場においても有用性が高いテーマのように思う論文でした。ということで、早速中身をみてまいりましょう!
■今回の論文
タイトル:Job crafting towards strengths and job crafting towards interests in overqualified employees: Different outcomes and boundary effects
日本語タイトル:過剰適格な従業員における強みを活かすジョブ・クラフティングと興味を追求するジョブ・クラフティング:異なる成果と境界効果
掲載誌:Journal of Organizational Behavior(2021年)
著者:Fangfang Zhang / Bin Wang / Jing Qian / Sharon K. Parker
カーティン大学(オーストラリア)/上海大学(中国)/北京師範大学(中国)
■30秒でわかる本研究のポイント
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・過剰資格な従業員は、「強みを活かすジョブ・クラフティング」と「興味を追求するジョブ・クラフティング」の両方を行います。
・中国の653名の従業員を対象とした調査により、過剰資格は両方のジョブ・クラフティングを促進することがわかりました。
・ただし、強みを活かすクラフティングは、活力とパフォーマンスの両方を高める一方、興味追求型クラフティングは、主に活力の向上にとどまることがわかりました。
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■研究の背景:過剰資格は「問題」なのか
教育水準やスキルが、仕事の要求を上回っている状態、いわゆる「過剰資格(オーバークオリフィケーション)」は、現代では珍しくなくなりました。
これまでの研究では、職務満足度の低下、離職意向、エンゲージメント低下などのネガティブ側面が主に注目されてきています。
一方、著者たちは「過剰資格の人は、不満を抱えるだけではなく、ジョブ・クラフティング(=仕事に一匙加える工夫)を行っている」と考えました。
そして、違った目的のジョブ・クラフティング(「強みを活かすジョブ・クラフティング」と「興味を追求するジョブクラフティング」)それぞれ、個人と組織にどのような影響を与えるかを解明することにしました。
■「目標」に注目したジョブ・クラフティングの傾向を探る
従来のジョブ・クラフティング研究は、「タスクを変える」「人間関係を変える」「認知を変える」といった認知や行動の形態に注目してきました。
本研究がユニークなのは、「何のためにクラフティングしているのか?」
つまり、個人の目標に注目した点です。ここで区別されたのが、次の2つでした。
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(1)強みを活かしたジョブ・クラフティング(JC-strengths)
(2)興味を追求するジョブ・クラフティング(JC-interests)
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そして、この目的の違いが、研究を進めていった結果、個人と組織の結果を大きく分けることがわかります。
■研究方法の概要
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・対象:中国の製造業コングロマリットに勤務する知識労働者653名とその上司
・デザイン:2か月間隔の2ウェーブ調査
・評価:活力は本人評価、タスク・パフォーマンスは上司評価
・分析:パス解析および媒介効果の検証
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(自己評価だけでなく、上司評価が入っている点は、かなり堅実だと感じました)
■主な結果
◎わかったこと1:過剰資格な人ほど,ジョブ・クラフティングをしている
まず確認されたのは、「過剰適格性が高い人ほど、両方のクラフティングを行っている」という点です。(どちらのクラフティングにも正の相関があった)
つまり、過剰資格な人は、「何もせずに腐る」わけではなく、主体的に仕事との適合を高めようとしている、といえます。
◎わかったこと2:「2つのジョブ・クラフティングの成果」は同じではなかった
ここが本研究の核心ですが、以下のような結果になっています。
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(1)強みを活かすジョブ・クラフティング
→活力が高まる
→タスク・パフォーマンスも向上する
(2)興味を追求するジョブ・クラフティング
→活力は高まる
→しかし、タスク・パフォーマンスとの関連は見られない
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なぜ「興味」は成果につながらなかったのか? の考察についても書かれていました。興味を追求する行動は、内発的動機づけやエネルギーを高めます。
一方で、現在の職務要件、評価基準、組織が求める成果等と、必ずしも一致するとは限りません。(つまり、「組織が求められていることでない、自分がやりたいこと」に意識が向くジョブ・クラフティングである可能性がある)
よって、個人的、短期的には「楽しい」「やる気が出る」一方で、評価される成果には直結しにくいと考えられるからです
◎わかったこと3:組織同一性という「境界条件」がある
もう一つ重要なのが、「組織同一性」です。「組織同一性」とは”組織の利益を自分の利益とみなすこと”です。
つまり、過剰資格を感じたときに、JC-strengths(強みを活かす方向)を選びやすいことが示されました。
これはつまり、「自分の成功=組織の成功」と感じている人ほど、強みを組織に還元する形で仕事を再設計する傾向がある、ということ。
一方、JC-interestsには、この効果は見られませんでした。
■実務への示唆:何を支援し、何を避けるべきか
この研究は、現場にとって非常に重要な示唆を持っています。 過剰資格な人に対して「強みをどう活かすか?」を対話する事を考えたときに、
組織同一性を高める関わりを通じて強みのジョブクラフティングを後押しすることはよさそう。「パフォーマンス」についてもポジティブな影響があるので、積極的に行ってよいのでしょう。
一方、「好きなことをやっていいよ」と、やみくもに興味を追求するクラフティングの推奨は、短期的な活力は高めても成果や評価と乖離するリスクがあるので注意が必要そうです。
■まとめ:クラフティングにも「質」がある
改めて、「ジョブ・クラフティングは、何でも良いわけではない」ということに気付かされます。
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・強みを活かすクラフティングは、個人と組織のWin-Winを生みやすい
・興味追求型クラフティングは、個人のエネルギー回復には有効だが、成果との接続には工夫が必要である
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そうした傾向を踏まえた上で、上司ー部下間での対話などを行うことが大切になるのかもしれませんね。個人の強みと組織を接続する上で、とても納得感のある研究でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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