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3694号 2024年4月5日

強みに基づくアプローチ VS 弱み克服のアプローチのどちらが効果的か? ~819名への実証研究からわかったこと~

(本日のお話 4256字/読了時間6分)

■こんにちは。紀藤です。

昨日は4件のアポイント。
また研修プログラムの作成など。

夜は大学院の仲間との懇親会でした。
実に楽しい時間でした。



さて、本日のお話です。
本日は強みに関する論文「強みに基づくアプローチと、弱みを克服するアプローチのどちらのほうが、より効果的か?」を調査した論文となります。

強みに関するワークショップをやっていると、しばしばこのような質問をいただきます。

「強みが大事なのはわかるけど、弱みを克服するほうが重要なのでは?」
「苦手なことを何とかできるようにしたときのほうが、達成感や自信が生まれるのでは?」・・・というように。

なるほど、言われてみれば確かに「欠点を指摘して、弱みを克服する」、このアプローチも意味がありそう。そして、同じ疑問を持たれる方も、いらっしゃるのではないかと思います。

そんな中、今回のご紹介する論文は、その疑問に対して、785名を対象にした定量調査を通じて探求した研究となっています。結果が気になりますね…!

ということで早速見てまいりましょう!

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<今回ご紹介の論文>
『強みか弱点か?自己決定理論を用いて、なぜ強みに基づいたアプローチは欠点是正型アプローチよりも最適に機能するのか説明する』
Gradito Dubord, Marc-Antoine, and Jacques Forest. (2023). “Focusing on Strengths or Weaknesses? Using Self-Determination Theory to Explain Why a Strengths-Based Approach Has More Impact on Optimal Functioning Than Deficit Correction.” International Journal of Applied Positive Psychology 8 (1): 87–113.
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■1分でわかる本論文のポイント
・本研究は、職場のにおけるトレーニングと能力開発に関して、(1)「強みに基づくアプローチ」と、(2)「弱みを是正するアプローチ(欠陥是正型アプローチ)」に光を当てたものである。

・また「自己決定理論」に基づくと、「欲求充足による自律的動機づけの増加」と、「欲求不満による統制的動機づけの減少」の両方のアプローチが従業員の機能(課題遂行能力とパフォーマンス、幸福度)を高める可能性があるとされる。

・そして、本研究では、どちらのアプローチがより職場内のパフォーマンスと幸福度に影響を与えるかを検証した。2つのサンプル(合計785名)を対象に検討したところ2つのことがわかった。

・1つ目が、「強み活用の知覚された組織支援(POSSU)は、欲求充足によって自律的動機づけを増加させ、欲求不満の減少によって統制的動機づけを減少させた。
一方、「欠陥是正のための知覚された組織支援(POSDC)」は欲求不満を通じて統制的動機づけを促進させた。

・2つ目が、「強み活用行動(SUB)」が欲求充足を通じて自律的動機づけを増加させ、欲求不満を減少させることで統制的動機づけを減少させた。一方、「欠陥是正行動(DCB)」は欲求不満を通じて統制的動機づけを促進させた。

という内容です。

まとめといいながら、全然まとまってない感じで、かつ専門用語が多くてすみません・・・(汗)以下、内容をもう少し細かくみてまいりましょう。

■強みと弱みのアプローチとパフォーマンス

職場において、異なる2つのアプローチがあるといいます。それが、(1)「強みに基づくアプローチ」と、(2)「弱みを是正するアプローチ(欠陥是正型アプローチ)」です。

まず、(1)「強みに基づくアプローチ」です。これには「強み活用の知覚された組織支援(POSSU:Perceived Organizational Support for Strength Use)」と、「強み活用行動(SUB:Strength Use Behavior)」の2つが含まれます。
ポジティブ心理学の専門家は、強みに基づくアプローチがパフォーマンスを高めると主張し、この手法をとりたがる傾向があるようです。

一方、弱みを是正する、(2)「欠陥是正型アプローチ」もあります。
これには、「欠陥是正のための知覚された組織支援(POSDC:Perceived Organizatioal Support for Deficit Correction)と、自分の弱点が仕事経験に与える影響を軽減するための活動:「欠陥是正行動(DCB:Deficit Correction Behavior)」の2つになります。Elsら(2018)によれば、人は自分の欠損を是正する活動をすればするほど、自己効力感を感じる傾向があるそうです(しかし、効果量は低いそう)。

従業員の最適な機能(パフォーマンスや幸福度など)を高めるには、強みと弱みの両方に焦点を当てたバランスのあるアプローチが重要といいます。
しかし、管理者や人材開発担当者の哲学によって、これらは使われ方が変わっているのが現状です。

◯自己決定理論とは
さて、どちらのアプローチがより有効か考えるうえで、「自己決定理論(SDT:Self Determination Theory)」(Deci&Ryan,1985)があります。

平たく言えば、人は、「有能感・自律性・関係性」の3つの心理的ニーズがあり、これを満たすことで、自分自身の自由意志に基づき行動できていると感じ、「自律的な動機づけ」が高まる、というのです。

そして、この自己決定理論の心理的ニーズは、従業員の欲求充足につながっていると考えられます。

そして、強みを活用することもまた、自己の中核的な価値観にそって行動することに近いと考えられます。よって「強みの活用行動」「強み活用の知覚された組織支援」は、自己決定理論に関わり、従業員の欲求充足に繋がると考えられます。

■本研究の全体像
実際のところ、(1)「強みに基づくアプローチ」と(2)欠陥是正型アプローチ)、それぞれどちらのほうがより従業員の機能を高めることに資するのか、全体像はまだ明らかになっていません。

どっちも大事と言うけど、実際どっちが大事なんだい、どうなんだい?、ということで本研究が調査をしています。

◯参加者
以下の2つのサンプルの対象者に対してアンケート調査を行いました。
●サンプル1:人事に携わる341名の従業員
●サンプル2:Linkedinを通じて募集した478名の従業員

◯調査尺度
以下の11つの尺度について調査を行いました。

細かい内容は割愛しますが、強みに基づいたアプローチ、欠点是正アプローチのそれぞれが、欲求充足・不安、そして自律的な動機づけ・統制された動機づけにどのように影響を与えて、そして最適な機能(パフォーマンスなど)に影響を与えるかのモデルを想定した調査尺度となっています。

<独立変数>
●POSSU:強みの活用に対する知覚された組織的支援
●POSDC: 欠陥是正に対する知覚された組織的支援
●SUB:強み活用行動
●DCB:欠陥是正行動

<従属変数_心理的ニーズ>
●NS:欲求充足
●NF:欲求不満

<従属変数_仕事の動機>
●AM:自律的動機づけ
●CM:統制された動機づけ
※補足:仕事の動機は、多次元同期尺度(Gange et al)を活用した。「自律的動機づけ(AM)」は「内発的動機づけ(例:仕事が刺激的だから等)」と「同一化された調整(例:この仕事に力をいれることが自分の価値観に合っているから等)」の2つの下位尺度で示された。
「統制された動機づけ(CM)」は、「外的調節(例:私が十分な努力をした場合にのみ、他者が金銭的に報いてくれるから)」「内発的調整(例:私は自分自身を証明しなければならないから)」の2つの下位尺度で示された。

<従属変数_最適な機能>
●TP:タスク遂行能力(役割内行動尺度)
●CP:文脈パフォーマンス(役割外行動=組織市民行動)
●PWB:心理的ウェルビーイング

◯分析方法
それぞれ記述統計を行い、また、「強みの活用に対する知覚された組織的支援(POSSU)」、「欠陥是正に対する知覚された組織的支援(POSDC)」を独立変数とするパス分析(構造方程式モデリング)を行いました。
また独立変数を、「強み活用行動(SUB)」「欠陥是正行動(DUB)」に変えてモデルを検討し、仮説を検証しました。

■結果
●わかったこと1:「強み活用の知覚された組織支援(POSSU)」は、より大きな欲求充足と、より低い欲求不満と有意に関連していた。また「欠陥是正の知覚された組織行動(POSDC)」は、欲求不満と正の相関があった。

●わかったこと2:「強み活用行動(SUB)」は、より大きな欲求充足とより低い欲求不満と有意に関連していた。また「欠陥是正行動(DUB)」は、欲求不満と正の相関があった。

●わかったこと3:「欲求充足(NS)」は、より大きな「自律的動機づけ(AM)」に有意に関連していた。「欲求不満(NF)」は、「統制的動機づけ(CM)」と正の相関があった。

●わかったこと4:「自律的動機づけ(AM)」はより大きな「心理的ウェルビーイング(PWB)」「タスク遂行能力(TP)」「文脈的パフォーマンス(CP)」に有意な正の相関があった。

●わかったこと5:「統制された動機づけ(CM)」は、「タスク遂行能力(TP)」と「心理的ウェルビーイング(PWB)」に有意な負の相関があった(文脈的パフォーマンスは有意な相関がなかった)だったので、

■まとめと個人的感想
「強みに基づくアプローチのほうが、パフォーマンスや幸福度に良い影響がある」。
それが本論文の結論です。

欠点を治すこと(欠陥是正行動)。これまでの研究で、自己効力感を高めることもあるという結果もでていました。しかし、よく見てみると、その効果量は小さいものであり、今回の研究においても、欠陥是正行動や、欠陥是正の知覚された組織支援のいずれも、欲求充足ではなく「欲求不満」を生み出し、それは「統制された動機づけ(~ねばならないという動機)」を生み出すことになりました。

そして、それは役割内行動、役割外行動共にポジティブな影響をもたらすとはいえず、ネガティブな影響のほうが見られる結果となったわけです。

改めて、人は自分を認めていきたい、そのほうが欲求充足に繋がり、良い結果つながる。そうしたことが見える研究で、非常に興味深い内容でした。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

※本日のメルマガは「note」にも、図表付きでより詳しく掲載しています。
よろしければぜひご覧ください。

<noteの記事はこちら>

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