関係の幅が広い&バランスが取れていると、幸福度が高くなる ー8か国5万人の調査でわかったこと-
(本日のお話 3055文字/読了時間4分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日は3件のアポイント。
大学院仲間との組織開発案件、また他の大学院の仲間との人材開発案件の打ち合わせなどでしたが、
いつもながら多様な知見に触れて、刺激をいただける豊かな時間でした。
本当に、こうした繋がりが、どんな学びよりも豊かなギフトであると感じます。
その他、出版の編集者との打ち合わせなど。
まだまだ途中ですが、少しずつ出版への道も進めております。
*
さて、本日のお話です。
ハーバード・ビジネス・レビュー2024年1月号の記事に『「社会的ポートフォリオ」を多様化する』というタイトルで、ある論文が紹介されていました。
これまでの研究で、「人を幸せや健康にするものは、お金や名声よりも人間関係である」ことがわかっていました。そして、この論文では研究結果をさらに発展させ、「社会的ポートフォリオの多様性が幸福度に影響している」ということを突き止めました。
つまり、社会的ポートフォリオの多様性は、「職場の同僚とだけ会っている」よりも、「職場の同僚・家族・友人・地域コミュニティ・学習仲間とバランスよく会っている」ほうが高くなります。そして、そちらのほうが、より幸福度が高いという話です。
この論文のすごいところは、8か国5万人以上を対象とした大規模調査であることです。また、4つの異なるデータサンプルで同じ結果が得られたということで、文化を超えて信頼性のある内容と言えそうです。
読みながら「うわー、めっちゃ面白いやん・・・」と一人呟いてしまいました。ということで、詳しい中身を見てまいりましょう!
=========================
<今回の論文>
『Relational Diversity in Social Portfolios Predicts Well-Being』(社会的ポートフォリオの関係性多様性が幸福度を予測する)
著者: Hanne K. Collins, Alison Wood Brooks
ジャーナル:Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS), 2022年
=========================
■1分でわかる本論文のポイント
幸福度は、社会的つながりの有無に大きく影響を受けることが広く知られています。これまでの研究では、強い絆(家族や親友)や弱い絆(知人や他人)の重要性が個別に示されてきました。しかし、異なるタイプの関係性を持つことの価値については十分に理解されていませんでした。
本研究は、社会的ポートフォリオにおける関係性多様性(関係タイプの豊かさと均等性)が幸福度に及ぼす影響を調査しました。
アメリカ国内、国際的な調査データ、フランスのモバイルアプリ利用者のデータを含む4つのサンプルを用い、「社会的ポートフォリオの多様性」が「幸福度」に対する一貫した正の予測因子であることを示しました。
この関連性は、活動の多様性や社会的相互作用の量を統制した場合でも保持され、幸福度における重要な要素であると結論付けられました。
という内容です。
■「シャノン多様性指数」とは
本論文のテーマは”「関係の多様性」と幸福度の関係”です。では、そもそも「関係の多様性」とは一体何なのか? この点について、最初に明らかにしたいと思います。
本論文では、「シャノン多様性指数(Shannon Diversity Index)」という指標が用いられています。これは、生態学や情報理論で使われる指標で、ある集合内の「多様性」を定量化するために用いられます。この指数は、「豊かさ」と「均等性」を同時に評価します。
・「豊かさ」:特定の期間における「関係カテゴリーの多さ」を指します。たとえば、職場の同僚、家族、友人、地域コミュニティなど、関係の種類が多いほど「豊かさ」が高くなります。
・「均等性」:特定の期間における「関係者との関わりのバランス」を意味します。たとえば、多くの関係カテゴリーの人と関わっていても、90%が同僚、2%が家族、2%が友人…というバランスでは「均等性」は低くなります。
つまり、「多くの関係カテゴリーの人とバランスよく関わる」ことが、「社会的ポートフォリオの多様性が高い」状態を意味します。そして、この多様性が幸福度を予測する重要な要素となるのです。
■研究の概要
本研究は以下の4つのサンプルを用いて調査を行いました。
1)アメリカ横断的調査(n = 578)
被験者は「昨日の社会的エピソード」を回想して回答。シャノン多様性指数を使って、関係の均等性と豊かさを測定しました。
2)アメリカ時間利用調査(ATUS)(n = 19,197)
日常活動に費やした時間と、伴う社会的関係を分析。活動多様性を制御した上で、社会的関係の影響を調査しました。
3)世界保健機関老年学調査(SAGE)(n = 10,447)
中国、インド、南アフリカなど6か国の高齢者データを用い、関係多様性が幸福度に与える影響を比較しました。
4)フランスのモバイルアプリ調査(n = 21,644)
ユーザーが週ごとに回答した幸福度と社会的関係性データを基に、幸福度の変化を追跡する縦断的分析を実施しました。
■結果わかったこと
4つのデータセットを分析した結果、以下のことが明らかになりました。
1,「社会的ポートフォリオの多様性」が幸福度を予測する
・社会的ポートフォリオの多様性(関係の豊かさと均等性)は、主観的幸福度の一貫した正の予測因子であることが示されました。多様性が1標準偏差増加すると、幸福度が4~13%向上しました。
2,統制後も効果が維持される
・社会的相互作用の量や活動の多様性などを統制しても、多様性の効果は有意でした。
3,その他の結果
・4つのデータセットのうち3つで、社会的ポートフォリオの多様性は、結婚していることよりも主観的幸福度の強力な予測因子であることがわかりました。
・また多様性が高いとポジティブな感情が増加しました。
・特に高齢者では「均等性が高い」関係が生活満足度を向上させました。
■まとめと感想
ストレングス・ファインダーの「強み」の分類にも、『包含(Inclusive)』というものがあります。これは多様性を受け入れて、チームを作る強みとされています。
また、VIAの強みでも、『社会的知性』などが多様な人の思考や感情を予測し、適応するという強みがあります。
こうした、多様な人と関係を築くためのスキルを活用することと、本論文の知見をかけ合わせると、実用的な成果を得られるようにも感じました。
また私事ですが、子どもが生まれてから、友人と遊びに行ったりする回数が、以前に比べて減ったように感じています。
それは、限られた時間の中で、多くの人と関わることは難しいと感じるからかもしれませんし、そもそも多くの人と付き合うのはエネルギーがいるようにも感じられて、ブレーキを踏んでいるところもあるのかもしれません。
しかし、この知見を見ると「できるだけ多くの種類の人と、バランスよく関わったほうが幸福度が高まる」ということで、自分の関係のポートフォリオを考え直すきっかけになりました。
また実家の親に合うなど含め、高齢者などなかなか多様な人と繋がりづらい中での自分の関わりも考えた次第です。日常の過ごし方を見直す、とても有益な論文でございました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
※本日のメルマガは「note」にも、図表付きでより詳しく掲載しています。よろしければぜひご覧ください。
<noteの記事はこちら>