おすすめの一冊『性格とは何か ーより良く生きるための心理学』
(本日のお話 3225字/読了時間5分)
■こんにちは。紀藤です。
毎週日曜日は、最近読んだ本から一冊をご紹介する「おすすめの一冊」のコーナー。さて、今回の一冊はこちらです。
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性格とは何か-より良く生きるための心理学 (中公新書 2603)
小塩 真司 (著)
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読了後、まず抱いた感想は、「『性格』というテーマに、ここまで豊富な研究が蓄積されていたのか」という驚きでした。
本書では、合計122本の論文をもとに、性格に関する最新知見が整理されています。しかも「性格」という身近なテーマであるがゆえに、読めば読むほど、自分自身や周囲の人々を重ね合わせながら、理解が深まり「へー!」という知的興奮が抑えられない一冊でした。
ということで、本書の内容についてみていきたいと思います。
それでは、どうぞ!
■本書の概要
まず、本書は、性格研究の第一人者の小塩先生による著書です。
新書であることから、読みやすいビジネス書と、専門書の間くらいの位置づけで、多くの論文情報などが紹介されている、かっちりした印象の本。
性格の本というと「あなたは◯◯タイプ」と分かりやすさを重視する本が少なくない印象ですが、この本は、「性格とはなにか」について、論理的に、誇張することなく、丁寧に紐解いていくイメージです。
内容と構成については、以下引用をさせていただきます。
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<本書の内容>
「もっと〇〇な性格だったらなあ」――本書は、そんな思うようにいかない「性格」をめぐる疑問に、心理学の研究成果から実証的に答える。
歳をとるにつれて人間はどう変わるのか。
国民性や県民性などと言うが、住む地域がもたらす影響とは。
時代が経つにつれ、人類は賢くなっている?
男女の違いはあるのか。
そして「成功」できる性格とは。
性格についてよく知ることで居心地よい環境を作り、幸福な人生を送るために。
<目次>
序章 性格とは何か
第1章 歳をとると人はやさしくなる?―性格と年齢
第2章 国民性・県民性は存在するのか―性格と住む場所
第3章 人々はどんどん賢く、ネガティブになっている?―性格と時代
第4章 男性と女性は何が同じで何が違うのか―性格と性差
第5章 好印象を与え、仕事がうまくいく性格とは―性格と生活
終章 より良く生きるための自己分析
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どの章も面白かったのですが、今回はその中でも、特に心に残ったトピックを中心にご紹介していきたいと思います。
■性格を測る「類型論」と「特性論」
また、性格を測る方法として「類型論」と「特性論」という二つの考え方が紹介されていました。
・類型論:動物占いやMBTIのように、タイプ別に分類するもの
・特性論:外向性・内向性などの傾向を、点数や度合いで示すもの
私たちが日常でイメージしやすいのは「類型論」です。
この考えはギリシャ時代からあり、古くから存在しています。
一方、心理学の世界では、20世紀になってから発展した「特性論」が主流となっています。これは外向性が60、協調性が40、開放性が50というように、ポケモンのキャラクターの能力値のように表現されるもので、性格の個別の差異を細かく表現することができます。
類型論はざっくり分類したいとき、特性論はより細かく見たいときに。
そのように使い分けるのが重要である、という話でした。
性格を「どちらか」ではなく「どの程度か」で捉える。
その視点が、人間の複雑さをより丁寧に扱っていると感じました。
■性格はいつ「完成」するのか?
次に興味深かったのが、「性格はいつ完成するのか」というテーマです。
身長が成長期を過ぎると止まるように、性格にも「安定期」があるのか?
本書によれば、50歳を超える頃から性格の変動は著しく小さくなる、という研究結果が紹介されていました。(具体的には、前年と今年の性格特性の自己評価の相関が0.70を超えるようになる)
つまり、年齢を重ねるにつれて、性格は次第に「固まっていく」わけです。
また、年齢とともに見られる変化には一貫した傾向があり、
・協調性が高まる
・神経症傾向が低下する
・勤勉性が高まる
こうした方向に進んでいくそうです。
若い頃は変動が大きかった心のあり方も、歳を重ねることで、少しずつ落ち着いていく。たしかに、そうだよなと納得するとともに、こうしたことが「人間の成熟」とも言い換えられるのかな…などと考えておりました。
(ちなみに、大学生の時期には「社会的支配性」(=他者よりも優れた立場に立とうとする意識が高まる)というデータもあるそうです。確かに、大学時代って、ちょっと張り合うような気持ちも芽生えますよね(笑))
■人は自分にあった環境を選びたがる ―一致の原則―
さらに本書では、「環境と性格の相互作用」という興味深いテーマにも触れています。たとえば、外交性を高めたい場合、自ら新しい人と話す機会を増やすことで、その性格特性が育まれていきます。
性格はある程度可変的なもので、行動を変えることで、性格も変化する可能性があるそうです。
とはいいつつ、「生まれ持っての気質」のような性格もあります。
そうしたときに、もともとの自分の性格に合った環境を選びたがるという傾向があることもわかっています。これを「一致の原則」と呼ぶそうです。
たとえば、興味深いデータだと、
・「外向的な人」は、山より海を好む、自分が見渡せて歩いて移動できる(ウォーカビリティの高い場所)を選びたがる
・「内向的な人」は、海より山を好む、静かな場を選びたがる
などの研究もあるそうです。
ようは、自分にフィットする環境を自然に探しつつ、その場所に行くことで、さらに性格が強化されていく。
環境と性格が、鍵と鍵穴のようにかみ合うことで、私たちは少しずつ「自分らしさ」を固めていくようです。
■「成功する性格」とはなにか?
そして、多くの人が気になるであろう「成功する性格」について。
結論から言えば、最も重要なのは「勤勉性」であると本書は述べています。
学業成績においても、職業上のパフォーマンスにおいても、
外交性や協調性以上に、コツコツと努力を積み重ねる勤勉性が重要だそう。
もちろん、もともと勤勉性が高いに越したことはありません。
しかし、勤勉性が低めであったとしても、習慣を工夫し、自己管理力を高めることで、十分に補うことは可能だといいます。
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その他にも、性格について以下のような研究結果が紹介されていました。
・東アジア地域の人々は、外向性・非協調性・誠実性・開放性が低い傾向がある。
・ナルシシズムやマキャベリズムといった特性が強いと、結婚関係がうまくいきづらくなる傾向がある。
・夫婦関係において、性格や価値観の相似性が高いほど、関係満足度が高い傾向がある。
・誠実性(勤勉性)が低いと、浮気のリスクが高まる傾向がある。
・妻側の神経症傾向とナルシシズム傾向が高い場合、夫の浮気リスクが高まることが示唆されている。
・ナルシシズムやサイコパシー傾向があると、他人のパートナーを略奪する傾向と関連する可能性がある。
などが興味深い話でした。
ちなみに、日本人は、自尊感情の自己評価が全体的に低い傾向があるようです。
この理由として、日本文化では、自己をポジティブに認識する仕組みが不足している可能性があり、褒める文化よりも批判や揶揄する(欠点を指摘する)文化が強い、
自慢する人が叩かれる(出る杭は打たれる)傾向がある、過剰な謙遜が求められる風潮があるのでは、と著者が述べていたところも興味深いものでした。
■まとめと感想
本書を読み進めるなかで改めて感じたのは、
『性格とは「変わらないもの」ではなく、「育っていくもの」である』
ということです。
たしかに、遺伝的な気質や生まれ持った特性は存在します。
けれど、それだけではない。環境を選び、行動を積み重ね、意図的に育てることで、私たちは自らの性格を少しずつ形づくっていくことができる。
だからこそ、「自分はこうだから」と思い込むのではなく、「自分をどう育てたいか」を問い続ける。
そんな心構えを持つことが、大切なのかなと思った次第です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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