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4090号 2025年5月7日

ショーペンハウアーの語る「幸福の3つの条件」とは? ー読書レビュー『幸福について』#2-

(本日のお話 3125字/読了時間4分)

■こんにちは。紀藤です。

さて、本日のお話です。
昨日は、哲学者ショーペンハウアーによる著書『幸福について』ご紹介いたしました。
今日も続けます。

基本的に「人生は幸せな生活には合致しない(退屈や欠乏に満ちている)」と考える、悲観的哲学者の述べる「幸福論」であるがゆえ、面白いです。

両手を上げて、「幸せになるのが人生の目的だ」と述べるよりも深みがあると感じます。ゆえに、とても惹かれております。

ということで、本日も引き続き、その内容からの学びと気付きを共有させていただければと思います。

それでは、早速まいりましょう!

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<目次>
「その人は何者であるか」を規定するもの
幸福の条件1:「心根が明るいこと」(陽気である)
幸福の条件2:「健康であること」
幸福の条件3:「内面の富」
まとめと感想
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■「その人は何者であるか」を規定するもの

本書は、アリストテレスの「人生の3つの財宝(=その人は何者であるか、その人は何を持っているか、その人はいかなるイメージ、表象・印象を与えるか)を骨格としながら、「幸せに影響を与えるもの」を考えていくというのが、本書の章立てになっています。

<目次>
第一章 根本規定
第ニ章 「その人は何者であるか」について
第三章 「その人は何を持っているか」について
第四章 「その人はいかなるイメージ、表象・印象を与えるか」について
第五章 訓話と金言
第六章 年齢による違いについて

そして、第二~四章で説明される「人生の3つの財宝」のうちでも、最も重要なものが「その人は何者であるか」であると、明確に述べられています。

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運命は変転するかもしれないが、おのれの性質は決して変わることがない。
したがって私たちの幸福にとって、気高い性格、有能な頭脳、楽天的な気質、心根が明るいこと、健康そのものの丈夫な体のような個人的特性にまつわる財宝、つまり「健全なる身体に宿る、健全なる精神」が、第一の、最も重要な財宝である。
P23
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そして、「第ニ章 その人は何者であるか」については、「健全なる身体に宿る、健全なる精神」の要素を、より深く突っ込んで考察し、具体的に何が幸せに影響するのだろうかを論じていきます。

以下、この章で述べていた「重要なポイント」をまとめてみたいと思います。



◎幸福の条件1:「心根が明るいこと」(陽気である)

最も直接的に私たちを幸福にしてくれるものが「心根が明るいこと」という特性です。快活さ、陽気さ、楽天的、などと本書の翻訳では関連する言葉として表されています。

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陽気さこそが幸福の実態、いわば幸福の正貨であり、他のものはみな幸福の兌換紙幣(だかんしへい)に過ぎない。(中略)陽気さは最高の財宝である。したがって私たちは、他のいかなる努力よりも、この財宝の維持増進を最優先すべきであろう。
P23
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とのこと。個人的な印象として、決して陽気ではなさそうなショーペンハウアーが「陽気さが、最も重要で最優先すべきこと」といっているのが、なかなかに興味深いです。

このあたりは、ポジティブ心理学のウェルビーイングに通ずるという「PERMA理論」のP:Positive Emotion(ポジティブ感情)と同じことを伝えている感じがしますね。



◎幸福の条件2:「健康であること」

そして、この「陽気さ」にとって一番重要なものが「健康」であると
続けます。(逆に、陽気さに一番役立たないものは「富」とのこと)

言われてみたらそうですが、不摂生、不快な感情の揺れ、ずっと続く精神の緊張などで、心身が健康でなければ、陽気さにも影響を与える、というわけです。

同じ外的状況でも、私たちが健康なときは晴れやかに見えて、病気で気弱なときは曇って見えるという、感覚的にわかるアレです。そのことを、知的な表現でこんな風に表現をしています。

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エピクテートスの「事態が人間を不安にするのではなく、事態に対する見解が人間を不安にする」という言葉は、まさにこれを言い表している。

そもそも私たちの幸福の90%は、もっぱら健康を基盤としている。健康であれば、すべてが楽しみの源泉となる。逆に健康でなければ、いかなる種類の外的財宝といえども、楽しむことができない。(中略)
もっと正確に言うなら、いっさいを健康の後回しにすべきである。
P26
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ここまで定量的な表現をしていなかったのに「幸福の90%が健康が基盤」といったり、「いっさいを健康の後回しにすべき」というなど、かなりのハイライトっぷりです。

さらには、具体的にこうも述べています。

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「毎日二時間ずつ戸外で活発な運動をし、おおいに冷水浴をし、その他類似の養生法を行うことである。毎日、適切な運動をしなければ、健康を維持することはできない」(P24)
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これも、自尊感情や、ポジティブ感情を高めるために、有酸素運動が効果的という近年の研究とも同じことを触れており、「やっぱり人間には運動が必要なんだな」と思わされます。



◎幸福の条件3:「内面の富」

そして、本章の中で最も紙面が割かれていたものが「内面の富」(精神の富)です。

ショーペンハウアーは、人間の幸福の二大敵手が「苦痛と退屈」であると述べます。具体的には、貧しければ困苦と欠乏による「苦痛」があります。一方、豊かで裕福であると「退屈」による絶望があるとのこと。

この苦痛と退屈に関する感度は、反比例していると述べます。
苦痛に対しての精神が鈍いと、全般的に感性が鈍くなるので、神経過敏にはなりません。なのでよいのかと思いきや、その精神の鈍さは「内面の空虚さ」として表出するというわけです。

苦痛に対して鈍感だと、退屈しがちで、ゆえに表面的な刺激(低俗な娯楽、取るに足らない社交や談話、遊興や贅沢など)を求めがちとなるそうです。こういう状態を「俗物的な人」としてショーペンハウアーは否定的に捉えます。

それに対して、「内面の富」を十分に持つ人は、自分を楽しませるために、外部からのものを必要としないので、幸福である、と述べるのです。国でいえば「輸入をせず、自国ですべてをまかなえることが、実は一番豊かである」というたとえを用います。このように述べます。

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何事につけても、一般に他人や外部に多くを期待してはいけない。
「自分は他人にとって、どんな人間でありうるか」ということになると、たいそう狭く限られてくる。だれもが結局は独りであって、「いま、独りであるこの自分はどんな人間なのか」が問題となる。
P35
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人と一緒にいることで、その退屈を紛らわすのではなく、孤独の中にある崇高な精神を見出すべし、というようなメッセージを感じます。そして、このように続けます。

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自分にとって最良で肝心なことは、自分自身であることであり、
自分にとって最良で肝心なことを成しうるのも、自分自身である。
自分にとって最良で肝心なことが多ければ多いほど、自分自身の中に見いだす楽しみの源泉が多ければ多いほど、それだけ幸福になる。
だからアリストテレスの「幸福は、自分に満足する人のもの」という言葉は、まことに正しい。
P35
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人生というのは、苦痛と退屈に溢れている。
そして、色恋沙汰も、乗馬も、トランプも、寄る年波には勝てず、
どんどん外的魅力は失われていく。

その中で、「自分自身が常にそなえているもの」をこそが幸福の真の源泉であるというのは、納得できるものでした。

■まとめと感想

ちなみに、ショーペンハウアーは「内面的な富」を完全に味わうことができるものは、天才と呼ばれる精神的卓越性の極みにある人物だけが、芸術・文学・哲学を通して表現することができる、と述べます。(エリート主義的ともいえる)

俗物である私のような人物が、そこまでの域に達しなかったとしても、それでもそれぞれが自分自身の内面にある探究心を満たすことは、それはそれで幸せの条件にもなるように思った次第です。

結論、ピアノとかマラソンとか、「幸福」にとって大事だよねというお話でした。(急に話が小さくなった・・・汗)

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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