「成功しているフリをしろ」は本当か? ーパワーポーズの効果をメタ分析してわかったことー
(本日のお話 3421字/読了時間4分)
■こんにちは。紀藤です。
唐突ですが、先日、映画『マイケル』を観てきました。
一言で言えば、「めっちゃよかった」です(なんとも浅い感想。苦笑)
マイケル・ジャクソンの生涯を描いた作品なのですが、個人的に印象的なシーンがありました。
マイケルが自分自身に向かって、「僕は史上最高だ。絶対にできる」と胸を張って語りかける場面です。
マイケルといえば、ステージに登場して2分間、微動だにせず立ち、その静止だけで観客が興奮して失神するほどのカリスマ性を放っていた話も有名です。
あの圧倒的な存在感は、姿勢や立ち居振る舞いから滲み出るものだったのかも、、、なんて思いつつ。
*
さて、そこから少し話が飛ぶようで、とはいえ地続きなテーマが今日のお話です。
皆さまは、「パワーポーズ」という概念をご存じでしょうか?
胸を張り、堂々と空間を占有するような姿勢(別名:スーパーヒーロー・ポーズ)をとることで、自分の内側に何かが変わるという研究です。
かつてはテストステロン値が上昇するとか、ストレスホルモンが下がるとか、さまざまな効果が喧伝されてきました。
TEDトークでその話が有名になったものの、その後、その研究は厳しい批判にさらされました。
さて、今回は、そうした議論に真正面から向き合った研究をご紹介します。
出版バイアス(=結果が出た研究だけ抽出してしまう)を排除するために事前登録された複数の研究だけを対象に分析を行った、丁寧な一本です。
果たして、パワーポーズは結局効果があるのか?
あるいは、やっぱり効果がなかったのか?
早速見てまいりましょう。それでは、どうぞ!
■今回の論文
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『A Bayesian Model-Averaged Meta-Analysis of the Power Pose Effect with Informed and Default Priors: The Case of Felt Power(情報事前分布とデフォルト事前分布を用いたパワーポーズ効果のベイズモデル平均化メタ分析:主観的な力強さ〔Felt Power〕のケース)』
Quentin F. Gronau, Sara van Erp, Daniel W. Heck, Joseph Cesario, Kai Jonas, & Eric-Jan Wagenmakers
・出版:Comprehensive Results in Social Psychology(特集号)
・所属:アムステルダム大学、ティルブルフ大学、マンハイム大学、ミシガン州立大学、マーストリヒト大学
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■30秒でわかるこの論文のポイント
・パワーポーズが「主観的な力強さ(Felt Power)」を高めるという効果は、メタ分析の結果、非常に強い証拠が得られた。
・ただし、パワーポーズの効果を事前に知っている参加者を含めた場合と、知らない参加者のみに限定した場合で、証拠の強さが大きく変わる。
・効果を知らない参加者だけで見ると、証拠は「中程度」にとどまり、要求特性(実験意図を察してしまう偏り)の影響が示唆された。
・本研究は、事前登録された研究のみを対象としたことで出版バイアスを排除し、より信頼性の高い結論を導いた。
となっています。
結論、テストステロンなどの値は変わらないけれど、「主観的な力強さ」は高まる、という話になっています。
■研究の背景—「なりきる」ことで、人は変われるのか?
「成功するまで、成功しているふりをしろ(Fake it 'til you make it)」
この言葉を体現するような研究として、2010年にCarney, Cuddy, and Yapが発表した論文は大きな注目を集めました。
拡張的な姿勢(ハイパワーポーズ)をとった参加者は、縮こまった姿勢(ローパワーポーズ)をとった参加者と比べて、
より力強さを感じ、テストステロンが増加し、コルチゾールが低下し、リスクを取りやすくなった、というものです。
しかしその後、追試を重ねるうちに雲行きが怪しくなってきます。
Ranehillら(2015)の再現実験では、「主観的な力強さ」の向上は確認されたものの、ホルモン変動やリスク行動への影響は見られませんでした。
さらにGarrisonら(2016)の事前登録済み追試では、主観的な力強さの効果すら再現されませんでした。
研究者たちの間で議論が続く中、この論文は「もっと厳密な方法で、もう一度きちんと検証しよう」という問いを立てました。
■研究の方法—「偏りのない」証拠をどう集めるか
本研究が特徴的なのは、その研究の設計の丁寧さです。
対象としたのは、同じ特集号に掲載された7つの事前登録研究のうち、「主観的な力強さ」を測定していた6研究(合計1,071名)。
事前登録とは、研究を始める前に「何を、どのように測定するか」を公開しておく仕組みで、これにより「効果があった研究だけが発表される」という出版バイアスを理論的に防ぐことができます。
介入の内容はシンプルです。
参加者はランダムに2つのグループに分けられ、
一方はハイパワーポーズ(机に手をつき堂々と立つ姿勢、椅子に深くもたれて足を机に乗せた姿勢など)を、
もう一方はローパワーポーズ(膝の上に手を置いて縮こまる姿勢、腕を胸の前でしっかり組む防御的な姿勢など)をとります。
その後、「どのくらい力強く感じているか」を回答してもらいます。
統計手法として採用したのが「ベイズモデル平均化」と呼ばれるものです。
平たく言えば、「効果があった証拠」だけでなく「効果がなかった証拠」の強さも数値で示したり、
従来のメタ分析ではできなかった不確実性も含めて検討できることが、ベイズ統計の大きな特徴、とのことでした。
■主な結果(わかったこと)
◯わかったこと1:全参加者では「非常に強い証拠」があった
まず、効果を事前に知っている参加者も含めた全参加者(1,071名)での分析結果です。
結論からすると、パワーポーズが主観的な力強さを高めるという「非常に強い証拠(Very strong evidence)」があるとされました。
効果量の中央値は 0.22〜0.26 。心理学研究においては小〜中程度の効果と位置づけられる数値ですが、複数の研究を束ねた上でこれだけの強さの証拠が得られたことは、それなりのインパクトがあると言えそうです。
◯わかったこと2:「知らない人」だけで見ると証拠は「中程度」になった
ここで重要な追加分析が登場します。
パワーポーズといえば、TED史上2番目に人気のトーク(Amy Cuddyの講演)として広く知られています。
つまり、実験参加者の中には「あ、これはパワーポーズの実験だ。堂々としたほうが良い答えをしなければ」と気づいてしまった人が含まれている可能性があります。
そこで、効果を事前に知らないと回答した参加者809名だけに絞り直して分析すると、その効果が大きく低下しました。これは「中程度の証拠(Moderate evidence)」に相当します。
効果量の中央値も 0.18〜0.23 とやや小さくなっています。
つまり、パワーポーズの効果そのものは存在する可能性が高いものの、「知っている人」が含まれることで数値が底上げされていた可能性が示唆される、ということです。
■まとめと感想
以前、わたしは演劇を用いたワークショップで、「虎のふりをする」という体験をしたことがあります。
四つん這いで歩き、誰かに食ってかかるように振る舞う。
そのまま「虎30%・人間70%」の状態で会議を進める…という、なんとも不思議なシチュエーションだったのですが、そのとき自分の中に生まれた攻撃性や勢いは、普段とは明らかに違うものでした。
会議で「オラー!」とかいって椅子を蹴ってみたりしてしまいました(注:演技です)。
体を変えると、心が変わる。
今回の論文を読んで、あの体験がより深く腑に落ちました。
パワーポーズが主観的な力強さに影響を与えるという効果は、確かにありそうです。
もちろん、テストステロンやコルチゾールへの影響、行動変容については、まだ結論が出ていませんし、この論文もそこは分析対象としていません。
ただ「主観的に力強く感じる」という、一見地味に見えることの奥に、案外深い何かが潜んでいるように思います。
姿勢ひとつで、世界の見え方は少し変わる。そんなことを、先日見たマイケルのカッコイイ姿を思い出しながら、感じた論文でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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