メールマガジン バックナンバー

4122号 2025年6月8日

今週の一冊『コミュニケーション力を引き出す 演劇ワークショップのすすめ』

(本日のお話 2654字/読了時間4分)

■こんにちは。紀藤です。

昨日土曜日は、立教大学の大学院の1年次の皆さまへの
「論文の調べ方・読み方講座」の特別講座の実施でした。

私が大学院の皆さまに、学びをお裾分けさせて頂く機会があることは
実にありがたい限りです。何かしら役に立てていること、
そしてそのことでご縁が広がるのも嬉しいもの。

ご参加いただきました皆さま、機会をいただいた教員・職員の皆さま、
改めてありがとうございました!



さて、本日のお話です。

毎週日曜日は、
最近読んだ本の中から一冊をご紹介する「今週の一冊」のコーナーです。

立教大学の中原先生のブログで「演劇から学べることがたくさんある」というお話をブログ等でも見ており、以前から「演劇の力」は気になっていました。

――――
自分の身体をどのように用いて、相手にプレゼンテーションを「お届け」するのか?:演劇の知とリーダーシップ!?

| 立教大学 経営学部 中原淳研究室 - 大人の学びを科学する |

――――

特に対面における学びの場づくりは、シナリオ・演出・演技など、ライブとしてのダイナミックさが、受講者の体験にインパクトを与えることを感じてはいました。

▽▽▽

さて、今回ご紹介する一冊は、日本を代表する劇作家・演出家であり、教育者でもある平田オリザさん、そして、全国的に珍しい「プロ劇団」の代表である蓮行さんによる著書です。

読んでみて、「演劇ワークショップとはこのような効果があるのか…!」というのが温度感を持ってわかりましたし、何より本を読んでから「研修における自分の話し方」において、意識の変化があるのを感じています。

ということで、特に研修などお届けをする人に大きな影響を与えうる本書、早速内容を見ていきたいと思います。

それでは、どうぞ!

■本書の概要

演劇は、それだけで食べていくことは、極めて難しい職業だそうです。
シナリオをつくる、演劇のメンバーたちで舞台の練習をする、そして本番を迎える上では、膨大なプロセスがかかります。それに対して、観客を常に満席にできるほどのインパクトがある劇団は、多くはありません。
またチケットもそれほど高額には設定できません。

「興行収入だけで、劇団員の年収を担保するのは、なかなか難しい」という厳しい現実があるわけです。その中で、企業などの組織のコミュニケーション不全の問題を、「演劇ワークショップ」を活用して向き合う機会を提供する珍しい「プロ劇団」がいるのです。

そして、そのプロ劇団による、組織への「演劇ワークショップ」が実際にどのようなものなのかが本書で描かれます。そして、企業への導入事例を物語形式でドラマチックに解説します(第2章)。

「演技とは、他者をシミュレートする体験である」
「演劇を創ることで、メンバーが大切にしているこだわりが見える」
「よって、短い時間でお互いのコンテクストを摺り合わせる機会になる」

そのような演劇が持つ力を、イメージさせてくれる流れになっています。
以下本章の目次です。

――――
<目次>
まえがき … 平田オリザ
第1章 コミュニケーション力と演劇 … 平田オリザ
第2章 K社を変えた劇的セミナー … 蓮行
第3章 仕事に役立つ演劇力 … 蓮行
第4章 これが演劇ワークショップだ … 蓮行
第5章 海外における演劇教育 … 平田オリザ
第6章 あなたにもできる演劇ワークショップ … 蓮行
終章 これからの演劇の役割 … 平田オリザ × 蓮行
――――

■仕事に役立つ「演劇」の力

本書では、「仕事力=コミュニケーション力」と定義して、そのためにどのように演劇の力が役に立つのかを述べています。そして、「演劇の力」には以下の、三要素があるとしています。

――――
<演劇力の三要素>
・脚本力(シナリオスキル)
・演出力(ディレクションスキル)
・演技力(デリバリースキル)
――――

「脚本力(シナリオスキル)」は、”聞き手を引き込むような物語を構成する力”です。つまらない話でも、言い方を変えることで魅力的にする「モノはいいよう力」みたいなものです。桃太郎のような「起承転結法」や、結論ありきで最初にインパクトを持って伝える「逆三角形法」などが紹介されています。

「演出力(ディレクションスキル)」は、”作品に、最終的かつ統一した世界観を与える力”としています。メンバーの能力の組み合わせを考える、曲とシーンの組み合わせを考える、舞台の色を決めるなど、感動を喚起する役割を持ちます。総合プロデューサーのようなイメージです。

「演技力(デリバリースキル)」は、”必要な情報を適切に伝える力”と定義されます(役になりきる、とかそういう意味ではありません)。セリフを発話する基本的な能力、抑揚を適切につける能力など、基本的な伝える力などもあります。

▽▽▽

個人的に、「なるほど!」と思ったのが、演技力(デリバリースキル)に関連するお話でした。以下、引用いたします。

――――
「観客に必要な情報を伝える能力」というもので、ちょっと理解しづらいものなので、具体例を挙げて説明します。
たとえば、次のようなセリフがあったとします。

「俺はその時、シェフチェンコに言ってやったんだよ。そんなにダンツァイが好きなら、倉庫にこもって浴びるほど飲みやあがれ。」

みなさんのセリフ、文字を黙読する分には難しくもなんともありませんが、さっさと早口であっさり読んでしまうと、聞き手側はさっぱり意味がわかりません。

しかも、聞く側が「ん? 何だかよく意味がわからないぞ」と、親切に違和感を感じてくれればよいのですが、往々にして、「意味がわからない」ということさえ気づいてもらえず、大事な情報を無意識に聞き流されてしまうのです。

位置 No1524/2624
――――

そして、こうした難しい部分に対しては、以下のような工夫を、熟練の役者は行っていると書かれていました。

<1.固有名詞をはっきり伝える>
・固有名詞は特に重要。誰・何について話しているのか、観客に明確に伝える必要がある。
・俳優はここを「わざとらしくならない程度に」ゆっくり・はっきり発音することで、観客が理解しやすくなる。

<2.不要な抑揚は逆効果になる>
・セリフ全体で、必要のない部分にムダな抑揚をつけてしまうと逆効果。
・重要な情報を観客が聞き流してしまったり、不要な情報が気になってしまう。

<3.細かなセリフを操作する>
・細かなセリフの操作(間のとり方・発声の強弱・速度)によって、観客の印象をコントロールする能力がとても重要。
・名優と呼ばれる人たちは、この「大きなスキル(台詞まわし)」と「細かなセリフ操作」の両方を高いレベルで持っている。

■まとめと感想

さて、読んでみて、これらの話は、企業研修のワークショップのファシリテーターにも、そのまま活かせると感じました。

実際、この話(演技力)を読んだ後、私も意識してやってみましたが、気を入れていないと、ついのっぺり台本を読むようになってしまうところ、
間のとり方、細かなセリフなどを工夫すること(=演技に力をいれる)で、より伝わりやすくなるように思いました。

そしておそらく、これ以外にも、体験をすることで得られることがたくさんあるように思います。

「演劇ワークショップ」に、ものすごく興味が湧いてきました。
どこかで受けてみたいな、と思っている次第です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

※本日のメルマガは「note」にも、図表付きでより詳しく掲載しています。よろしければぜひご覧ください。

<noteの記事はこちら>

365日日刊。学びと挑戦をするみなさまに、背中を押すメルマガお届け中。

  • 人材育成に関する情報
  • 参考になる本のご紹介
  • 人事交流会などのイベント案内

メルマガを登録する

キーワードから探す
カテゴリーから探す
配信月から探す