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『パンデミックとたたかう』

今週の一冊『パンデミックとたたかう』

2230号 2020年3月29日

(本日のお話 4457字/読了時間5分)



■こんにちは。紀藤です。

昨日土曜日は、終日ひたすら読書。

「オーディオブック」→「読書」と
耳やら目やらいろいろ使うと、
いい感じに刺激が変わって、飽きなくてよいです。

ここぞとばかりに色々読みまくっております。



さて、本日のお話です。

毎週日曜日は、お勧めの1冊をご紹介する
「今週の1冊」のコーナー。


センセーショナルなタイトルのこの本、
お送りしていいものか少し悩みましたが、
皆様にご共有させていただければと思います。


今週の1冊は

========================

『パンデミックとたたかう』 (岩波新書)

押谷 仁 (著), 瀬名 秀明 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/B085XVZ35D/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_U_UjkGEbE2GC1GD

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です。





■本題に入る前に、ちょっとだけ余談。

この本、別に意図して読んだわけではなく
昨日、たまたま見つけて偶然読んだだけでございました。

、、、というのも、
先日聞いていた「ながら読書」のコンテンツで、
ある脳科学者がこんな話をしていました。


「日本の教育の最大の問題は、
 文系/理系と分けてしまっていることです。

 欧米の学位には2種類あり
 アートとサイエンスとありますが、
 専攻は2年時を終えてから。

 だから、”量子物理学”と”文化人類学”みたいに
 ダブルメジャーが可能であり
 それがイノベーティブな発想を生み出します。
 
 研究者が小説を書くとか、
 表現と分析の壁をもっと越えていいと思いますよね。

 日本で言えば、「瀬名秀明」さんや、
 〇〇さんみたいに、、、」



■そんなトークの中、

「あれ、瀬名秀明、、、って聞いたことあるぞ??」

と思い検索してみると

私が学生時代、ハマりまくった小説
『パラサイト・イヴ(1995年)』で、
大変有名になった作家(研究者)でした。

ちなみに、『パラサイト・イヴ』とは、

”ミトコンドリア”は独自のDNAを持っているが、
実は人間に寄生していて、虎視眈々と
ミトコンドリアが人を支配するのを企んでいた、、、”

と研究者ならでは視点と設定で描かれたSF小説です。
(なんと、瀬名氏がこの小説を書いた当時、氏は28歳!)

高校生だった私は、人間の心を描きながら
サイエンスな話を混ぜるその世界観と面白さに魅了され
貪るように読んだ記憶があります。



■そしてそんな瀬名秀明さんは
他にどんな本を出しているんだろう、、、

こんな面白く
サイエンスと文学の両面から読ませる方は、
他にどんな著書を出しているのだろう!

、、、と思いアマゾンで検索したら、
出てきた本が

『パンデミックとたたかう』

なのでした。



そんな魅力的な作家の瀬名 秀明さんと、

厚生省新型インフルエンザ専門家会議委員で
東北大学医学系研究科教授の押谷 仁さんが

深くパンデミックについて根本的な話として
切り込んだ対談をまとめたのがこの一冊なのです。

(導入の話が、えらい長くなってしまいました(汗))



■言うまでもなく、新型コロナウイルスにより、
私たちの日々が一変しています。

そして、その中で、
医療従事者や行政に関わらない私たちが出来ることは、
残念なことに、ごくわずかです。

外出せず、自粛をすること、
また感染をしない・させないと気をつける、
そして「正しく情報を知ること」くらいかもしれません。


今回「正しく情報を知る」という意味で、
専門家が、”パンデミックについてどのような視点で見ているのか”を捉える
参考になる一冊なのだろう、と思います。



■さて、この本ですが
2009年に出版されています。

2009年といえば、
新型インフルエンザがパンデミックとして流行した年です。
その時の問題を、対談として取り上げている内容です。

(ゆえに、新型コロナウイルスについて
 語っている本ではありません)

内容としては、このように紹介されています。

(ここから)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

燎原の火のごとく広がる新型インフルエンザ。
その世界的大流行は我々に何を問いかけているのか。
小説家の想像力と専門家の洞察力とが切り結ぶ対話篇。

過度に恐れず適切に恐れ、想像力をはたらかせ、
この危機を乗り切る。

根源を見すえた議論が、
パンデミックに立ち向かう勇気と、
冷静に対処する視座を与えてくれる。

※引用:『パンデミックとたたかう』Amazon 商品の説明より

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(ここまで)



■私が読んで思った事は、

”今のコロナウイルスについて
 ニュースで流れてくる感情を煽るような情報は知っていても 
 事実に基づいた分析的な情報は意外と知らない”


ということでした。
(皆さまは十分にお調べなのかもしれませんが)


どこどこで感染者が何名し、
こんな症状で、悲惨な状況になっている。

感情を揺さぶられる情報は
twitterでも、インターネットのニュースでも
よく目にする一方、


・このウイルスは、そもそもどんな特徴を持つのか?

・どのくらい今、ウイルスについて
 解明されているのか?

・政府が行う施策の意味とは何か?

・どれくらい続くと考えられるのか?


、、、という問いは
自を疑問を持ち、考えていなかった、
と気づいたのです。



■例えば、「学校閉鎖」の意味。

著書を読み気付かされました。

(ここから引用)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

{編集部}
基本的な質問で恐縮ですが、なぜ学校閉鎖が必要なのですか?

{押谷氏}
学校閉鎖には「流行の規模を小さくする」効果のほかに、
図で示したような「流行のピークをなだらかにする」効果があります。(後略)

{瀬名氏}
この方策の利点は何なのですか?

{押谷氏}
たとえば、ICUでの処置を必要とする重症患者が100人出るとして、
それが一週間に100人出るのと、25人ずつ4週間にわたって出るのとでは、
医療機関への負荷が違ってきます。最終的な患者数は変わらないとしても、
医療機関の負担軽減や社会機能の維持には効果があるわけです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(ここまで)

つまり、

「学校閉鎖の目的は、
 集団感染による感染の拡大を防ぐだけでなく、
 医療機関の負担や社会機能の維持に効果がある」。

という。

言われてみればその通り。
考えれば分かる話といえばそのとおり。

しかし、このような事実を
(私を含め)どれほどの人が、
正しく認識しているだろうか、

とも思いました。



■同時にパンデミックがいつまで、
どこまで続くかに関しても、そう。

押谷氏はこのように語ります。
(※注:2009年 新型インフルエンザのパンデミックについて語っています)


(ここから引用)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
{押谷氏}
専門家のなかにもそう考えていた人もいるのですが、
ウイルスが入ってきたら数週間で非常に大きな流行が起きて、
何千人、何万人という人が死んで八週間で収まる、
というようなイメージが先行していたと思うのです。

しかし、実際のパンデミックはそういう急激な起こり方はしません。

パンデミックが始まって被害が拡大し、収束していくまでには、
二年とか二年半とか、相当の時間がかかります。

それは、スペイン風邪のような過去のパンデミックを見てもそうです。

私はこれまで、パンデミックが起きたら世界はどうなって、
人びとはどうするのだろうとずっと考えてきたのですが、
こんなにみんなが無関心でいるパンデミックがあるのだなあと、

すごく意外な感じがしています。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(ここまで)

、、、とのこと。

『パンデミック』は通常2~2年半くらい
収束までにかかるものである、

という情報も初めて認識しました。



■他にも、あるいは

「季節性インフルエンザとは何が違うのか?

 患者数は季節性のインフルエンザも毎年500-1000万人かかっており、
 死亡者も1-2万人、年によっては3万人と言われているが、
 それとどう違うのか?」

という問いについてもそう。

しっかり考えて、調べていませんでしたが、
押谷教授いわく、

「季節性インフルエンザの場合、
 超過死亡といわれ、それ自体が死因になるのではなく、
 その後の合併症で亡くなる。

 しかしウイルス性肺炎(ここでは2009年の新型インフルエンザをさす)の場合、
 それ自体が、気管支と肺に炎症を起こし、呼吸が困難となり死因になる。
 その場合は悲惨な症状となる。

 ゆえに、季節生インフルエンザとは全く違うものである」

と語ります。



■その他、色んな情報を知ります。


・致死率は、最中と事後で変動する。
 (その時に、適切にわかるものではない。
  人口学の専門家が、その影響を歴史を振り返りわかることもあるくらい
  流動的なものである)

・インフルエンザ自体、
 そもそも空気感染なのかもはっきりわかっていない

・WHOのルールで「絶対に大丈夫と言ってはいけない」
 というものが存在する(安心が一番危ないため)

・適切に恐れるために、
 「ネガティブな事実は伝えるが、その後ポジティブな事実も伝える」
 というクライシス・コミュニケーションのセオリーがある

・危機意識が持続できなくなり、
 「考えなくなる」という動きが起こりがち

・日本はパンデミックの経験が少なく、日本の危機対策は遅れている。
 リーダーシップはあまり期待ができないが、日本は現場が強い


などの情報が語られており、
読むたびに、俯瞰した視点を得た感覚を覚えました。



■これらは、一つの情報です。

ただ私自身、1冊を通して読む中で、

「自分は断片的な情報しか、知らなかった」
「同時に自分から積極的に知ろうとしていなかった」

と認識したことは、間違いありません。

騒がれている中で、
来る情報に対して受け身で、
自分から取りに行っていなかったのだ、

そう気づいたのでした。



■この本は、

『パンデミックとたたかう』

というタイトルですので、
今のこのパンデミックの状況と
原則は変わらないかとも思います。


この本では、
医療従事者や、行政関係者など
危機に対応する人たちに向けた情報がメインで、

「具体的に我々に何ができるか?」
については詳細には書かれていません。



■しかし、「あり方」として
以下3つは、私にとって、特に印象的でした。


まず1つは、

『アウトブレイクでは
 「こんなことが起こるのか?」ということが、
 必ずどこかで起こるという前提がある』

ということ。

収まったと思ってもまた爆発的に増えたりすることがある、
と認識しなければいけない。


そして2つ目、

『「大丈夫だ」と思わないこと』。

基本、パンデミックは続くので
(この本によると、ですが)
今回も新型コロナウイルスの特徴を踏まえて
手洗い、うがい、アルコール消毒、70度以上など
わかっていることを徹底する(同時にデマに流されない)こと。


そして、3つ目、

『他者への想像力を持つこと』。

自分が感染鎖の中にいて、
常にどこかでリスクを持っていることを知りつつ、
生活をすること。



■結局、結論やできることは「基本的なこと」に
終止するのだろうと思います。

ただ、著書から私が感じたことは、

長期戦と見込まれる中で、

”「正しく自分から”知りに行く”こと」を
 自らの習慣として組み込むことが大事である”

と思いました。


来る情報を待つだけでなく、
自分で調べて、自分でも対策する。

そのことを大切にしたい、
改めてそのように思っている次第です。


※ちなみに、今回の本で書かれていた内容と一番近い内容のサイトは、
「厚生労働省の 新型コロナウイルスに関するQ&A」のサイトでした。
 よろしければ、ご参考までに。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html
 

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<今週の一冊>

『パンデミックとたたかう』 (岩波新書)

押谷 仁 (著), 瀬名 秀明 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/B085XVZ35D/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_U_UjkGEbE2GC1GD

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